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【第二章開幕!】異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
第1章 〜魂の帰る道〜

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第24話「光の果て、魂の帰る道 〜Road to Tir na Nog〜」

——世界が、終わったかと思った。


鼓膜が破れるような爆音と、すべてを飲み込む閃光——

音も、空間も……時間さえも吹き飛ばすかのような衝撃。


どれくらいの時が経ったのかもわからない。

ひんやりとした夜の風に頬を撫でられて、私はゆっくりとまぶたを開いた。


「……えっ」


さっきまで私たちは、光も届かぬ洞窟の奥深くにいたはずなのに。


「えぇぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!?」


今、目の前に広がっているのは——満天の星空だった。

鍾乳石の天井の代わりに無数の星々が瞬き、夜空の真ん中には、天の川が光の帯のように流れていた。


【……え、背景変わってね!?】

【おいおいマジかよ……】

【本当に洞窟消滅したの草】


「すっご……」

これ……マジで私がやったの……?


周りの仲間たちも、呆気に取られて言葉を失っている。

禁じられた呪文の意味を思い知って、背筋を冷たいものが流れた。


——でも、同時に胸の奥からじんわりと熱い想いが込み上げてきた。

(みんなと一緒に……やり遂げたんだ……)


「おねーたーん! やったでちーー!」

「みきぽん……!」

いつものワンピース姿に戻ったみきぽんが、飛び跳ねながら抱きついてきた。

私はその小さな体を、思いっきり抱きしめる。


「おーい! 無事か、嬢ちゃんたち!」

声のした方を振り向くと、瓦礫を踏みしめながらバルガンが近づいてきた。

彼は焦げた盾と斧を背に担ぎ、リゼを横抱きにしている。


おそらく結界の外のリゼを助けるため、爆発の間際に身を挺して彼女を救い、間一髪で結界の内側まで逃げ込んだのだろう。

鎧はひび割れ、髪も煤けていたが、彼は満面の笑みを浮かべていた。


「お姫様には、怪我ひとつさせられねぇからな! ダーッハッハ!」


「なっ……だ、誰がお姫様だっ!? さっさと降ろせ!」

リゼは顔を真っ赤にして身をよじり、バルガンの腕の中で抗議した。

彼女は無理して立ち上がろうとしたが、結局足元がふらつき、再びバルガンに支えられる形となってしまった。


「おめーはいつも独りで頑張り過ぎなんだよ、たまには誰かに頼れ」

「っ……命を救ってくれたことには……感謝する」

二人の掛け合いに、思わず笑みがこぼれた。


【リゼ姐のこんな可愛い顔、初めて見たぞ!?】

【バルガンのDEF理論値かよ】

【この二人……もう結婚しちまえよ!】


「団長ーっ!」

「団長、よくご無事で……!」

黒翼団の面々が駆け寄り、リゼを取り囲む。


「しかしよ……おめーら本当にやりやがったな……」

バルガンは星空を見上げながら、感心するように唸った。


「すごいわ〜、まきぽんちゃん、みきぽんちゃん!」

ノエルが両肩をギュッと抱きしめてくれた。


「やったな、まきぽんさん!!」

「ちびっ子もすごかったぞ!!」

黒翼団の仲間たちも次々と駆け寄り、私たちの周りを囲む。


「ありがと……みんながいたから、できたんだよ……!」


肩を叩かれ、手を握られ、気づけば私たちは笑顔の輪の中心にいた。


「まきぽん……」


リゼがゆっくりと歩み寄ってきた。

「あなたがいなければ、モリガン様は救えなかった」

「リゼ……」


「そしてみきぽん……

 あなたの入団を断らなくて、本当に良かった」

「えへへ♪」


「——感謝する」

そう言ってリゼは、深く頭を下げた。

その一言に、胸の奥がじんと熱くなる。


【うおおおおおお!!】

【まきぽん最高だったぞーー!!】

【涙止まんねぇ……】

【これが“配信者”であり“勇者”か……!】


皆の歓声が星空に響き渡り、私はようやく実感した。

これで、本当に……終わったんだ。


——と、その時。

淡い光が、空へと舞い上がった。

そこには神々しい光に包まれたモリガンがいた。


挿絵(By みてみん)


「……モリガン……?」

「きれいな、めがみたまー!」


漆黒の髪に、真珠のような肌。

金の刺繍が散りばめられた黒いドレスを纏う姿は、目が離せないほどに美しかった。


彼女の瞳からは、もう狂気の色は消えていた。

その代わりに星明かりを映したような穏やかな輝きを湛えている。

これが……本来の崇高な女神の姿……。


「ありがとう、人の子よ……」

その声は、まるで世界を包み込むように優しかった。


「あなたたちの『祈り』が、私を呪縛から解き放ってくれました。

 終わりなき悪夢の果てに、ようやく……『光』を見い出せたのです……」


モリガンの身体を、細かな光の粒子が包み込む。

烏珠ぬばたまの闇のごとき黒い翼を広げるが、そこに禍々しさは微塵もない。

夜空いっぱいに翼を羽ばたかせると、女神の体はふわりと浮かびあがる。

その背後には、泣けるほど美しい天の川が広がっていた。


「モリガン、さま……」

リゼはまなじりに涙を湛えてその姿を見上げている。


女神はリゼに微笑みかける。

その眼差しは母のような慈愛に満ちていた。


そうだ、あの時エリアスが言ってたっけ……。

「『天の川は、魂の帰る道』——だって」


【タイトル回収きた……!】

【ロード・トゥ・ティル・ナ・ノーグ……魂の帰る道】

【やば、鳥肌たったんだけど……】


星々が瞬き、光の粒がヴェールのように女神の身体を包み込む。

やがてその光はひと筋の流星となり、静かに天の彼方へと昇っていった。


風が吹き抜け、ひとひらの漆黒の羽根がふわりと舞い落ちる。

それを受け止めたリゼの頬に、涙が伝った。


——女神は、ようやく《常若の国(ティル・ナ・ノーグ)》に還ったのだ。


 * * *


「……うっ」

苦しげな声と共に、エリアスがその場に崩れ落ちた。

魔力を極限まで使い果たした彼は、皆の笑顔を見て、最後に支えていた気力の糸が切れたのだろう。


「また無茶しやがって……しゃーねーな」

バルガンはため息をついた。

盾と斧を下ろすと、代わりに慣れた手つきでヨイショとエリアスを背負い上げた。

「へいへい、お疲れさん」

「……すみません……」

背中でぐったりとしているエリアスに、バルガンが苦笑する。


エリアスのフードの中では、小さなサイズに戻った三精霊が、こちらもヘロヘロになりながら寄り添っていた。


「えーくん? 頑張ったんだから、ご褒美たっぷりもらいますよ……」

「そうだよ……スイーツ食べ放題に、Amaz◯nお買い物し放題♡」

彼女たちの頭からはプスプスと煙が出たりしているが、短時間の高負荷で済んだためか、意外と元気そうだ。


「……好きにしてください……」

エリアスは答える元気も無いようだ。


「ちょっとえーくん!? 疲れてるからってテキトーな返事しないでよ!」

アス子がエリアスの髪を引っ張る。

そのツッコミにライ子が笑い、ペン子が「だめだこりゃ」とばかりに肩をすくめた。

明るい笑い声が、夜空へと広がっていく。


「みんな、本当にお疲れさま……」

ノエルが竪琴を取り出し、静かに弦をはじいた。


音は星の瞬きと溶け合い、優しく響き渡る。

魔法の音色を聞くと、不思議と力が湧き上がってくる。

皆はしっかりと立ち上がり、大地を踏みしめた。


私は、傍らの小さな妹を見つめた。

「帰ろっか……私たちの『おうち』に」

「……あい! おうちかえるでち☆」


そして、差し出された小さな手をぎゅっと握る。

そのぬくもりは、世界中のどんな宝物よりも、大切で確かなものに感じられた。


【姉妹尊い……】

【よかったな……帰る場所できて……】

【すげえな、よく頑張ったな……!】

コメントのホログラムに混じって、スパチャのログもちらほらと煌めいている。


「これより王都に帰還する——角笛団、黒翼団、進め!」


星空の下、私たちはリアンナハへと続く道を歩み始めた。

心地よい夜風が頬をなで、遠くには街灯りが温かくゆらめいている。


やがて、東の空に淡い光が差しはじめた。

群青の夜が少しずつ溶けていき、闇を越えた空に、新しい朝が生まれようとしていた。


——長い長い夜が終わる。

でも、きっとこの光景は一生忘れない。


この夜、私たちは確かに見たんだ。

世界がどんな『闇』に包まれたとしても……

その先にはちゃんと光が、そして帰る場所があるってことを。


 * * *


第一章 〜完〜


挿絵(By みてみん)

ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。

たくさんの応援とコメントがあったからこそ、まきぽんたちはこの朝を迎えることができました。


第一章《魂の帰る道》は、彼女たちにとって「始まり」であり「帰る場所」でもあります。

次章からは、王都リアンナハを舞台に、新たな真実が動き出します。


そして、いよいよ『ティルナノ』の核心へ。

どうかこれからも、まきぽんとみきぽんの旅を見守ってください。


ここまで読んでくれたあなたに、心からのありがとう。

そして——「おかえり」を。


——未知いまだ・とも

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― 新着の感想 ―
 第一章の完結おめでとうございます。  今は利用できないんじゃないか、と思われる方法で食べ放題を要求する精霊にツッコミつつ……。今後の展開で更に世界が広がって行く予感がして楽しみです。
 ∧_∧  ∧_∧ ( ・ω・)(・ω・ )お家に帰るまでが遠征だ (⌒丶ー⌒丶⌒ー-ィ⌒)     丶 ⌒ン⌒)⌒ン⌒ ノ 暖かい我が家で  丶ー-^ーイ丶-^ー-イ  沢山の野菜たちが    Y(…
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