第21話「女神モリガンの涙!?姉妹の絆で闇の呪いを打ち破れ!」
バロールとリヒトの策に嵌められて、モリガンがまさかの『闇』の根元に……!?
黒翼戦士団にとっては信仰の対象である女神を前に、リゼは怒りと絶望の狭間でもがきます。
しかし、八方塞がりの中——
まきぽんは、とある『奇策』を思いつきます。
果たして女神を呪縛から解き放てるのか!?
緊迫の第21話——姉妹の絆が『女神を救う鍵』となる……!?
「誰だッ! 誰がモリガン様をこのようなお姿に……!!」
腹の底から絞り出されるようなリゼの怒号に、その場が凍りついた。
普段は毅然とした団長の顔しか見せない彼女が、ここまで感情を剥き出しにするのは初めてだった。
「なんてことだ……私は……。
ああ……よりによって、我らの神に刃を向けてしまうとは……!」
リゼは拳を岩肌に叩きつけた。
血が滲んでも止めようとしない彼女を、バルガンが慌てて後ろから羽交い締めにする。
「やめろよ! おめーも知らなかったんだし、仕方ねぇだろ」
「離せ! 私は……なんてことを……」
「団長、お気を確かに!」
「リゼ……落ち着いて!」
【リゼ姐、おいたわしい……】
【姐さん手から血出てるって! やめろおおお!】
私たちの声も、今のリゼには届かない。
その間にも、モリガンは瘴気の向こうからこちらを見据えていた。
長い黒髪から水が滴るたびに、呪われた蛇が生まれて鎌首をもたげる。
——しかし、もう《黒翼戦士団》の一団は、すっかり戦意を喪失していた。
それも仕方ないだろう。
彼らにとって、モリガンは信仰の対象。
絶対的な精神の支柱だったのだから……。
「もう……打つ手が……」
ノエルの竪琴を弾く手も止まってしまった。
帰る道を塞がれ、全ての希望が闇の中に沈んだ。
その時——。
『……助けて……』
夢で聞いたあの声……
心に直接響くように、か細い女性の声が響いてきた。
私のローブをしっかりとつかんでいたみきぽんは、モリガンを見つめてこう言った。
「おねーたん……あのひと、ないてまち……」
泣いてる?
……モリガンが?
「ウウ……」
苦痛に顔を歪ませるモリガン。
——その瞳に一瞬だけ、涙が輝いたように見えた。
ひとかけらの理性が、まだ残っている……?
だが次の瞬間、額に煌めくティアラが無慈悲な光を放つ。
ティアラの正面には、紅く大きな宝石が埋め込まれている。
宝石の怪しい光を浴びると……
モリガンは再び瞳に邪悪な意思を宿して、こちらに殺意を向けてきた。
エリアスが呟く。
「……モリガンは戦女神。
あのような華奢なティアラなど、戦場で身につけるでしょうか」
私はハッとしてモリガンを見た。
女神に似つかわしくない、コウモリと髑髏の禍々しい銀細工。
確かにそのティアラは、そこだけ異質で彼女の装いからは浮いて見える。
「……あれは彼女のものではない。
おそらく、あの巨大な魔石には、精神的支配を受ける呪いが込められているのでしょう」
「じゃあ……モリガンは、だれかに操られて……?」
不意に、リヒトの去り際のセリフが蘇った。
『——このまま帰れると思うなよ』
つまりあいつは、このことを知っていた……?
「まさか……リヒト!?」
「そうですね、彼はバロールの命により動いていたようですから」
「う、うん!」
「彼は、何らかの方法でモリガンに近づき、そしてバロールの意のままに操るため、あのティアラを嵌めさせた……」
「女神の尊厳を踏みにじりやがって……あの外道がッ!」
バルガンは憤りを露わにする。
バロールの呪いで、高潔な女神は、ひたすら呪詛を振りまく『闇の根源』へと成り下がってしまった。
「下衆が……このような仕打ち、絶対に許せん!」
リゼは、バルガンとノエルになだめられて、少し落ち着きを取り戻したようだ。
エリアスは静かに頷いた。
「彼女は囚われています。
ならば——勇者の役目は『倒すこと』ではなく、『救うこと』」
「救う……?」
リゼは弱々しく顔を上げた。
「そうです。まきぽん、みきぽん——
あなたがたの力で、女神を解放して差し上げるのです!」
【エリアス、いいこと言った!】
【勇者姉妹キターーー!!】
【そうだ、まきぽんとみきぽんならできる!!】
「だけどよ、問題はあのヘンテコな壁だろ?」
バルガンの言葉に、エリアスは杖を掲げて魔力の揺らぎを見極めるように目を細めた。
「物理には物理障壁、魔法には魔法障壁……
どちらかで攻撃した瞬間に、その攻撃を無効化する障壁が展開されます」
「そんなの、無理ゲーじゃん……」
全身にまとわりつく圧迫感、息が詰まりそうな瘴気。
——どこにも勝ち目なんてない、そんな気がした。
だけど……、私はふと気づいた。
「ね、物理と魔法って……もし全く同時に攻撃したらどうなるの?」
その場が静まり返る。
エリアスが驚いたようにこちらを振り返り、眼鏡の奥の瞳を大きく見開いた。
「……そうか! 物理障壁と魔法障壁は同時には展開できない。
必ず一方にラグが生じる……!」
心臓がトクン、と強く脈打つ。
「じゃあ……同時に攻撃を叩き込めば……!?」
自分でも驚くほど大きな声が、暗い洞窟に響き渡る。
リゼがはっと顔を上げ、兵士たちもざわめき始めた。
絶望で沈んでいた空気が、わずかに揺らぎ、光を取り戻す。
エリアスは口元に微笑を浮かべ、力強く頷いた。
「まきぽん……あなたの閃きが、未来を開いたかもしれません」
「だが、全く同時に攻撃を当てるなど……
厳しい訓練を積んだ兵士でも難しいことだ。そんなことができるのか?」
リゼが疑問を投じる。
みきぽんは一歩前に出ると、むふんと胸を張って笑顔を見せた。
「まかせるでち! おねーたんとなら、できるでち!」
「……みきぽん!」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
そうだ。
この子と私となら、きっと——。
【まきぽん冴えてる、主人公ムーブ!】
【姉妹のタッグで世界救うの、熱すぎだろ……】
【これ絶対アニメ化したら神回だな】
私はみきぽんの手をきゅっと握った。
「あの魔石の属性は『闇』、闇を打ち砕くことができるのは……」
「……光?」
エリアスは頷いた。
「そもそも《ステータス:神性》を持つものには、いかなる攻撃も通用しない。
ですが、あのティアラはその限りではありません。
光の攻撃を与えれば、打ち砕くことができるかもしれません」
「そうか……!」
「……まきぽん、今こそルーグ・ラスターを解放するのです」
「えっ!!」
「そしてみきぽん、あなたは光の物理攻撃を。
マジカル☆シャイニング・モーニングスターをお願いします」
「……まほーでちよ?」
不服そうな顔のみきぽん。
「わ、わかりました……『魔法』ですね」
「あい!」
みきぽんは強く頷いた。
「でもそれじゃこの洞窟が……」
「構いません。モリガンは全力でティアラを守ろうとするでしょう。
ならば、こちらも全力で挑むしかない」
エリアスはきっぱりと言い切ると、仲間たちを見渡した。
「安心してください。守りは我々が固めます。
あなたたちは気にせず、全力で解き放てばいい」
角笛団のみんな、黒翼団のみんな、そしてコメントで背中を押してくれるリスナーたち。
最後に、みきぽんの希望に満ちた視線が私に注がれる。
「わかった……やってみる!」
私はぎゅっと杖を握りしめた。
「まきぽん、みきぽん。あなたたちならきっと光を届けられる……私、信じてるわ」
ノエルは竪琴を抱き寄せながら、優しく微笑んだ。
「私に策があります……リゼ、あなたにも協力してほしい」
リゼはなおも剣を握りしめ、悔しそうに唇を噛みしめていた。
「わっ、私が……我らの女神に刃を向けるなど……!」
エリアスは冷静に言葉を重ねる。
「リゼ、これは攻撃ではありません。救済です」
「……っ!」
彼女の瞳が揺れる。
「そうだよ、女神様……助けてって言ってた!」
「モリガン様が……?」
「リゼたん、あのひと、ないてまちた!」
「このままでは、自らの吐き出す呪いでこの世界すら滅ぼしてしまう……
あの涙は……神である彼女が、自身を責めて流していたのかもしれないわ」
ノエルはモリガンを憐れみを込めて眺めた。
リゼの瞳に迷いと苦悩が渦巻く。
しかし次の瞬間、彼女は強く顔を上げた。
「わかった……私はかつて何度も、戦場でモリガン様に心を救われた。
今こそそのご恩を返すため……この剣、迷わず振るう!」
「おお……団長……!」
その時、ついに湖上に飽和した黒い蛇が、群れを成して襲いかかってきた。
「ぐっ……来やがったな!」
兵士の一人が叫び、剣を振り抜いて立ち向かう。
「はぁっ!」
気合いと共に剣を振り下ろすと、黒い瘴気を撒き散らしながら蛇は地面に崩れ落ちた。
「見ろ、この蛇なら我らにも斬れるぞ!」
「リゼ様、どうかモリガン様を……! 蛇は我らにお任せください!」
「……ああ! 必ずやお救い申し上げる!」
リゼの瞳には、もはや迷いはなかった。
「みんな、ここが正念場よ〜!」
ノエルも竪琴を奏で、兵士たちを鼓舞するように勇ましい旋律を響かせる。
音色に背を押され、兵士たちは「おおお!」と鬨の声を上げながら、蛇の群れへと挑んでいった。
【モブが輝く瞬間、熱すぎる】
【勇者パーティだけじゃなく全員で戦うのいいよな】
次にエリアスは、黒翼団の戦術参謀ブランと、結界術師セルマに声をかけた。
「ブラン、セルマ、あなた方は《地護絶環》は使えますか?」
「いえ……そのような上位結界術は、あなた様のように修行を積まれた方でないと、とても……」
「そうですか——」
エリアスは一つ大きなため息をつくと、決意を固めたかのように口を開いた。
「これからまきぽんが放つのは、人の身では本来触れられぬ『神話の領域』に属する最上位魔法。
その威力はあまりに苛烈……結界で守らねば、我らとて無事では済まないでしょう」
「この子が……そんな魔法を……!?」
「あなた方は中位結界術を敷いてください。
私がその外側に、皆を守れるよう高位結界術を貼ります。二重の結界で守るのです」
「そ、そんなことができるのですか……!?」
「エリアス様、恐れながら……
《地護絶環》は、本来ならば何人もの祈祷師が一昼夜唱え続け、ようやく成立するような大規模魔法です。
それを……一人でなさるなどと……!」
ブランとセルマの顔が蒼白になる。
「おいエリアス、いくらなんでもそんなん無茶だろ!?」
バルガンも思わず声を荒げた。
「できるかできないか、ではない——
今、この瞬間にやれることは全てやるのです」
冷徹に響く声。
しかしその瞳は強い覚悟を帯びていた。
そして彼は大きく息を吸い込み……
闇に立ち向かうかのごとく、長い詠唱を始めた。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回のエピソードでは、『敵』と思っていた存在が、実は『救うべき存在』だった……という大きな転換を描きました。
そしてリゼの葛藤、エリアスの決意、みきぽん&まきぽんの絆。
それぞれの想いが重なり、物語はいよいよ第一章のクライマックスへ突入します。
次回からは——光と闇が激突する、決戦の瞬間!
ぜひ最後まで見届けていただければ嬉しいです♪




