第2話「異世界初心者、いきなりラスボスと遭遇して完全に詰みました!?」
目が覚めたら異世界――まではお約束。
でも、そこで待ってたのは「妹」!?
子犬のようにかわいいちびっ子が、いきなり「おねーたん!」って呼んできて――
いやいやいや、私一人っ子なんですけど!?
混乱してる暇もなく、よりによって最凶ボスのバロールが襲来!
ちょっと待って、異世界初心者にラスボスぶつけるのやめてもらえます!?
――いきなりカオスな異世界ライフ……一体どうなっちゃうの!?
……
…………
「う、うーん……」
頬をなでる柔らかな風の感触に、私は目を覚ました。
どこからか見慣れない鳥の鳴き声が聞こえる。
おそるおそるまぶたを開けると、そこには青く透き通った空が広がっていた。
「え……ここ、どこ……?」
ガバッと上体を起こして周りを見渡すと、どこまでも続く背丈の低い緑の草原が見えた。
(……私、自分の部屋で配信してたよね?)
遠くには森や、山や、石造りの城壁が見える。
さっきまでいた自分の部屋も、スマホの画面も、もうどこにもない。
「ま、まさか……」
この景色には見覚えがある。
クエストをこなすために、毎日のようにマイキャラクターで走り回ってた草原だ。
ハッとして自分の体を見てみる。
部屋着はいつの間にか、新人魔導士向けの薄手のローブと、オグム文字が刻まれた紫水晶の指輪に変わっていた。
胸の奥がざわついた。
これは夢? それとも――『ティルナノ』の世界?
「ちょっと待って……これって、異世界転移ってやつ……?」
突然の展開に混乱して頭を抱えた、そのとき。
「すー……すー……」
小さな寝息が、すぐ横から聞こえてきた。
驚いて振り返ると――そこには。
薄紫の髪をツインテールに結んだ、小さな女の子が眠っていた。
水色のワンピースの裾が風に揺れて、色白の頬がほんのり桜色に染まっている。
レースの付いた白い靴下に、黒いエナメルのストラップシューズ。
まるでピアノの発表会に向かうお嬢さまみたいな出立ちだ。
3歳くらい……なのかな?
その寝顔はあまりにも可愛らしくて、お人形と見間違えるほどだった。
「……誰、この子……?」
『ティルナノ』にこんなNPCいたっけ?
そっと覗き込むと、女の子はむにゃむにゃと口を動かし、ゆっくり瞼を開けた。
そして、ぱっちりとした紺色の大きな瞳がまっすぐに私を映す。
「……おねーたん……?」
「おね……おねーちゃん!?」
私は一人っ子だし、妹なんているはずがない。
それなのに――その瞳は真っ直ぐで、私を「お姉ちゃん」だと微塵も疑っていないようだった。
「え、ちょ、ちょっと待って……私、妹なんて――」
言葉にならない声が喉でつかえ、頭が真っ白になった。
けれど、小さな女の子はキラキラと喜びに満ちた瞳で私を見上げていた。
「おねーたん、おなまえは?」
「私? 私はまきぽんだけど……」
「やっぱりでち! まきぽんは、みきぽんの『おねーたん』でち!」
「へ!? みきぽん!?」
みきぽん――それがこの子の名前なんだろうか。
でも、急に妹って言われても――。
「おねーたん、みきぽん……ずっとここで、おねーたんをまってたでち」
みきぽんは私のローブを小さな手できゅっとつかむと、にっこりと笑った。
(か……、可愛い……!)
その屈託のない笑顔に、心が撃ち抜かれた。
私とは髪の色も違うし、顔も似ていない……はずなのに。
この子を見ていると、なぜかずっと一緒にいたような安心感が湧いてくる。
小さな手で必死にローブをつかむ姿は、頼りなげで――それでいて、胸の奥に強く迫ってくる。
……ああ、そっか。
この子もきっと、この世界でひとりぼっちだったんだ。
だから私は、そっと小さな手を握り返そうとした。
その瞬間――。
「!!」
周囲の空気に緊張が走り、背後の森から、バキバキと邪魔な枝を折り砕く音が聞こえてきた。
漆黒の鎧に身を包んだその姿は……
――バロール!!
うそ? あれはゲームの中の出来事じゃなかったの!?
やっぱりここは『ティルナノ』?
てことは……私、今ピンチの真っ最中!?
「……ニガサヌ」
そう言って、バロールは巨躯を揺すりながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
「やめて! こっちに来ないで!」
悔しいけど、今の私にはバロールを倒せる強さはない。
全身が震える。怖い。でも、この子だけは絶対に守らなきゃ――!
禍々しい暗紅色の瞳が邪悪な光を宿した次の瞬間、周囲の空気が震えた。
カッ――――!!
バロールの邪眼から、強烈な光線が迸る――!
私は咄嗟にみきぽんを抱き寄せ、その小さな体を腕の中に包み込んだ。
「おねーたん!?」
「いいから、目つぶって!」
迫り来る灼熱の閃光。
私は全身でみきぽんに覆い被さりながら、地面に身を投げるように転がった。
ドォォォォンッ!!
背後で大地が爆ぜ、石と土が吹き飛ぶ衝撃が背中を叩きつける。
熱と轟音に耳がキーンと鳴った。
「くっ……はぁ、はぁっ……!」
腕の中のみきぽんは小刻みに震えていた。
けれど――その小さな鼓動は確かに生きづいて、大切なものを守れたことを実感させてくれた。
「だい、じょうぶ……おねーたんがいるから……」
私はみきぽんに無理矢理笑顔を作って見せ、そして迫り来る邪眼を睨み返した。
バロールの瞳に、再び凶悪な光が宿り始めた。二回目が来る!?
――ダメだ、次はもう避けきれない……!
私は震えながら、ギュッとみきぽんを抱きしめた。
「おねーたん……」
怯えた声。――だけど、その瞳の奥には怒りの炎が宿り始めていた。
「……おねーたんを、いじめるなぁーーっ!!」
みきぽんの胸のブローチが、まばゆく煌めいた。
そこから、ぷるんと――大きなプリンが飛び出す。
「ぷ、プリン!?」
あまりに唐突な現代スイーツの登場と共に、世界がキラキラと色を変え始めた――
「異世界転移&妹爆誕」というだけでも頭が追いつかないのに、いきなりバロールに遭遇してしまったまきぽん。
普通なら即ゲームオーバーだけど、隣には小さな「妹・みきぽん」が……
ここからどうやって切り抜けるのか――次回は、怒涛の変身魔法バトル!
今回は特別一挙3話公開! いますぐ続きをどうぞ♪
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