第17話「スーパー魔法少女(物理)覚醒!?必殺☆くるくるモーニングスター炸裂!」
洞窟戦もついにクライマックス!
みきぽんが——まさかの『伝説のスーパー魔法少女』に覚醒!?
新しい必殺技「マジカル☆くるくる・モーニングスター」で、リヒトとの因縁の戦いが大きく動き出します。
今回も笑って、泣けて、熱くなる……いもモーワールドをぜひお楽しみください!
洞窟を包み込む虹色の光。
その真ん中で、みきぽんの胸のブローチが強く輝きを放った。
「おねーたんは……みんなは……
みきぽんがまもるでちーっ!!」
突如ブローチから現れたプリンを、みきぽんは銀のスプーンで一口すくって食べる。
すると額にはティアラが現れ、羽ばたくように広げた両腕からは、白い羽が舞い散った。
その姿は——まさにあの、伝説の魔法少女!
「スイートプリンパワーー、メーーイクアーーーップ!」
(いや待ってその掛け声!?)
声を発すると同時に、とろりと輝く金色のカラメルがリボンのように広がって、みきぽんの小さな体を甘やかに包み込む。
髪のリボンに飾られた宝石が弾けるように光り、ヒラヒラしたミニスカートは白い羽に包まれながら新しいフォームに変化していく。
気のせいか、謎のBGMも新しくなってるような……
【えっ? これ絶対セー〇ー……w】
【いや、むしろちび〇さ……】
【いろいろ怒られないか、これww】
肘までの白いグローブ、膝までのロングブーツ。
それぞれキラキラと輝きながら宝石と羽の飾りをまとっていく。
背中の妖精のような羽は、眩い光を放ちながら天使の羽へと進化を遂げ、ゆっくりと羽ばたいた。
(それにしても……あのリヒトまで変身中、待っててくれるとは思わなかったわ……)
虚空から魔法のステッキが現れ、みきぽんの手に収まる。
その先端からチャリンと音を立てて、いかつい鎖と鉄球が現れ……
仕上げに、白い羽がふわりと舞い散った。
そしてみきぽんは、満面の笑顔でキランとポーズを決めた。
「モーニングスターで——おしおきでち☆」
小さな体に迫力と愛らしさが同居するその姿は——
まさに『スーパー魔法少女・マジカル☆みきぽん(物理)』爆誕の瞬間だった。
【おしおきでち☆いただきましたーー!!】
【尊死するww】
【リヒトうらやま……いや、かわいそうww】
眩しい光に包まれ、圧倒的な主役オーラを放つみきぽん。
その姿を見て、敵のリスナーコメントも盛り上がる。
《やべーな、これは完全に主役交代だな》
《リヒト涙目ww》
怒りが沸点を超えたリヒトの顔がみるみる朱に染まる。
「はぁ!? ふっっっざけんなよ!!
主役はこの俺だろうが!!
俺より目立ってんじゃねーよォォッ!!」
だが——時すでに遅く、決定的な変化が起きていた。
《リヒト落ち着けってw》
《うわぁ……幼女相手に逆ギレ、ダセえ……》
《もう完全にやられ役の小物のセリフで草》
黒いコメントで織り上げられた羽根が、ボロボロと剥がれ落ちていく。
それは枯葉が枝を離れるように、無情に舞い散って——
まるで「お前はもう必要ない」と告げているかのようだった。
【ごめ、俺やっぱこっちにつくわw】
【ちびっ子可愛いしなw】
【正直、お前のノリ飽きたんだよ】
「お……おい待てよ!? お前ら寝返ってんじゃねえよ!!」
焦燥に駆られたリヒトの声は、誰にも届かない。
彼の叫びと裏腹に、同接の数字は無情にも減り続け……
観客は雪崩を打つように、まきぽんの配信へと流れていく。
(す、すごい……まだまだリスナーが増えていく……!?)
——彼の仮初の人気も、権威も、力の象徴であった漆黒の翼も。
すべてが音を立てて崩壊し始めていた。
「ふざけるな……! 俺を……俺を無視するなぁぁっっ!!」
リヒトは怒りと焦燥に顔を歪ませ、血走った眼でキーボードを叩いていた。
打ち込むコマンドに応じて、闇のコメントは姿を変えていく。
「こうなったら……」
文字列は炎の竜巻となり、狂おしくうねっている。
それは、リヒトの嫉妬そのものが形となったものだった。
「ここでお前ら全員、まとめて吹き飛ばしてやるッ!!」
闇の奔流が唸りを上げ、今にも解き放たれようとしたその瞬間——
「わるいおにーたん……おしおきでち!」
澄んだ声と共に、みきぽんは魔法のステッキでビシッとリヒトを指した。
「でもみきぽん、洞窟であの技を使ったら……!」
私は思わず叫ぶ。
天井の鍾乳石や岩壁が崩れれば、全員が下敷きになる危険もある。
しかしみきぽんは自信満々に、にぱっと笑った。
「だいじょぶでち! みきぽん、バルガンたんのまねっこしまち!」
「……へ、俺?」
バルガンは思わずポカンとする。
「いきまちよーーーーっ!!」
そう叫ぶと、みきぽんは小さな両手でステッキを掴み、体ごとぐるんぐるんと横方向に振り回し始めた。
——それはまさに、バルガンが戦斧を横薙ぎに振り抜いた動きと同じ!
鎖がしなり、鉄球がうなりを上げて空気を切り裂く。
あの豪快な一撃を、幼い少女が真似ているのだ。
【幼女版重戦士ww】
【バルガン師匠の真似っことか……熱すぎね!?】
「——そうか!」
私はハッと息を呑んだ。
「横に回せば……天井を崩さずに全力で振れる!」
「おおお……なるほど……!」
その一言に、兵士たちの表情が一斉に変わった。
閉塞感で押し潰されそうだった洞窟内に、ほんの一瞬、光が差したようだった。
【前方扇状範囲攻撃ですねわかります】
【幼女、俺より賢いんだがw】
鉄球に光のコメントが次々と吸い込まれ、回転は唸りを上げて加速する。
振り回すたびに火花のような光の尾が走り、それが幾重にも重なって周囲を眩く照らした。
「おねーたん!」
振り返ったみきぽんの瞳は、揺るぎない決意に輝いていた。
「……わかった!」
私はスマホを高く掲げ、声を張り上げる。
「みんな……! みんなの力を、みきぽんに貸して!!」
【任せろ!!】
【全力でいくぞおおお!!】
【みんなでぶち込めーーッ!!】
画面からあふれ出た魔力は光の奔流へと変わり、渦を巻いて鉄球へと流れ込む。
稲妻がバチバチと走り、熱と光が一点に凝縮され……
まるで小さな太陽が誕生したかのようだった。
【いけーーー!】
【悪いおにーたんをやっつけろ!】
【これが俺たちの力だ!!】
宙に浮かぶコメントは見たこともない数に膨れ上がり、輝きは限界を超えていく。
「いっくよーーーーーっ!」
息を大きく吸い込み、みきぽんはステッキを振りかぶった。
「ひっさつ! マジカル☆——くるくる・モーニングスター!!」
——ギュィィィィィィィィン!!
鉄球が横薙ぎに振り抜かれた瞬間、凄まじい閃光が光の輪となって洞窟を駆け抜けた。
大地が揺さぶられ、空間がビリビリと震える。
「ひっ……!」
リヒトの顔が恐怖に引き攣り、声にならない呻きが漏れる。
「どっかーーーーーーん!!」
轟音と衝撃波が重なり、怨嗟で織り上げられた翼は音を立てて砕け散った——。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」
鉄球の直撃を受けたリヒトは、絶叫とともに洞窟の壁に叩きつけられた。
闇の翼はもはや原型をとどめず、呪いの言葉もバラバラの文字となって霧散し、消滅していった。
光と爆風の中心で——
ただ一人、幼女が勝ち誇るようにポーズを決めていた。
【新しい必殺技きちゃああああ!!】
【くるくる・モーニングスター……鬼強いのにネーミング可愛い過ぎかwww】
【やはり物理はすべてを解決する】
「——天の星は動きました」
エリアスは杖を握り直し、クイッと眼鏡のブリッジを押し上げた。
【メガネクイッ、入りましたー!】
【ここから俺たちのターン!!】
「リゼ、今です!」
「うむ……いくぞ!」
リゼの号令が洞窟に轟き、兵士たちが一斉に走り出す。
刃音、鎧のぶつかる音、そして勇ましい足音が渾然一体となって——
今、反撃の狼煙が上がった。
だがその瞬間、
「近寄んじゃねーーっ!」
リヒトが最後の悪あがきとして放った黒い波動が、バリアのように兵士たちをはじき返した。
「うおッ!」
強い波動に兵士たちはよろめき、地面に倒れ伏した。
よろよろと立ち上がったリヒトは、瞳に狂気を宿しながらも叫んだ。
「くっ……ここは一旦退いてやる!
だがな! お前ら、このまま帰れると思うなよ……ヒャハハハハッ!」
その嘲笑は洞窟の壁に反響して、冷たく広がっていく。
無数のコウモリが渦となって彼を覆い隠すと、リヒトはその陰に紛れて姿を消した。
まるで、闇に溶けるかのように——。
* * *
戦いの余韻が落ち着くまで、辺りは静寂に支配されていた。
やがて——
「……勝った、のか?」
バルガンの低い声が、張りつめた空気を破った。
その一言をきっかけに、止まっていた時がゆっくりと動き出す。
「「「うぉぉぉぉぉ、やったぞーーー!!」」」
兵士たちが勝どきを上げる。
私たちは、ついに『闇』に勝ったんだ……!
安堵と疲労、そして開放感に包まれて、私はホッとしてその場に崩れ落ちた。
「おねーたーん! やったでちー☆」
変身が解けたみきぽんが、遊び終わった子犬のように飛びついてきた。
「えへへ……みきぽん、ちょっとおめめまわりまちた……」
「もう……無茶しちゃダメだよ……」
小さな体をぎゅっと抱きしめると、堰を切ったように涙があふれた。
あのとき——。
リヒトの翼から放たれた、悪夢のような言葉たち。
《消えろ》
《お前なんか必要ない》
その一つ一つが棘となり、私の心を深くえぐっていった。
けれど——。
『おねーたんには、みきぽんがいるでち!』
みきぽんの一言は光の奔流となり、私を縛っていた呪詛を一瞬で押し流してくれた。
たった一言。
でも、それは千の呪いを超える力を持っていた。
みきぽんの笑顔と、みんなの声援が、あの日の孤独を優しく溶かしていく。
胸の奥で長い間止まっていた時間が、再びあたたかく流れ始めた——。
「ありがとう……みんな……みきぽん……!」
【スーパー魔法少女(物理)覚醒、リアタイできた俺、優勝】
【リスナー全員ガチで泣いた、マジで】
勝利は確かに手に入れた。
でも——
「……カエサナイ……」
……えっ?
どこからか、声が聞こえたような……
ゾクリと、心臓を冷たい手で掴まれたような悪寒が走る。
リヒトの残した嘲笑は、まだ私たちの心に不気味な影を落としていた——。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
はい、個人的にあの伝説の魔法少女は大好きなので、変身シーンはノリノリで筆が進みました(笑)。
そして今回の見どころ、リヒトの闇が崩れ落ちていく場面は、私もいつかこのように、自分を縛る心の闇を倒したいと……書いていて胸が熱くなりました。
次回はいよいよ……えっ、ラスボスはリヒトじゃなかった!?
洞窟の奥に潜む『真の闇』が姿を現します! お楽しみに♪




