第16話「対決、闇の配信者!底辺と呼ばれた配信者はリスナーゼロから這い上がります!!」
コウモリの大群を抜けた先に待っていたのは、闇を味方につけた配信者、リヒト。
彼と彼のリスナーたちの攻撃は、心を蝕む刃となって、まきぽんに襲いかかる……!
ただの戦いではなく、『配信者』としての在り方そのものをぶつけ合う回です。
そして最後には、みきぽんに新たな変化が……?
物語的にも大きな転機を迎える回ですので、ぜひカタルシスを楽しんでくださいね!
漆黒の翼を持つ悪魔と化したリヒト——。
彼は高みから私たちを見下すと、満足そうに口角を吊り上げた。
「いい顔だな……恐怖に染まる『観客』ほど、俺の『配信』を盛り上げてくれる」
巨大な翼が軽く羽ばたいただけで、激しい風圧が私たちを襲う。
「俺の可愛いコウモリ達は、十分楽しんでもらえたかな?」
リヒトはニヤリと嗤うと、素早くノートパソコンを操作した。
「なら、これはどうだ!
もっと盛り上がってくれよ、俺の観客どもォ!」
オオオーーーン……
どこからともなく、不気味な遠吠えが響いた。
黒いコメントがリヒトの背後で渦を巻くと、一文字一文字が歪んで砕けていき、やがてそれは牙を剥いた狼の形となって再構成された。
「なっ……狼だと!?」
「ばかな、こんな大きな狼がいるか!」
魔狼は緑色の炎を纏い、私たちを射抜くように睨みつけていた。
燃え盛るように光る瞳は、思わず目を背けたくなるような禍々しさだ。
「こ、これは……クー・シー……!?」
兵士が叫ぶ。
冥界の番犬、クー・シー。
死者の魂を冥界へ連れ去ると伝えられる妖獣だ。
その咆哮を三度聞いた者は、生きて還れない……。
そう語り継がれてきた「死の使い」が、今まさに目の前に立ちはだかっていた。
仲間たちには、ただの巨大な魔獣が現れたようにしか映っていない。
けれど——私には分かる。
その魔物を形作っているのは、リヒトのリスナーが投げつけた、あのどす黒いコメントの数々だ。
《消えろ、負け犬》
《雑魚はリヒトの前に跪け!》
(……やだ、また……!)
クー・シーの群れは咆哮と共に飛びかかってくる。
私は鋭い爪を防ごうと、咄嗟に杖を掲げた。
すると衝撃と同時に、心にも直接、鋭い棘が突き刺さるように痛みが走った。
《はい、終了www》
《お前なんて、いてもいなくても変わらないな》
「う……ッ!」
膝が震え、視界がにじむ。
思わず地面に手をついた私を見て、リゼが叫ぶ。
「まきぽん!? どうした、やられたか!?」
「違うの……でも……体が、動かなくて……」
洞窟内にはリヒトの高笑いが響き渡った。
「……なるほど」
ただ一人状況を理解していたエリアスは、配信が見えない仲間にも状況が伝わるよう、落ち着いた声で告げた。
「これは、リヒトの呼び出した『悪意の言霊』です。
彼女の心を直接、呪いで蝕んでいるのです」
「なんだと……」
バルガンが戦斧を構え直し、苦々しく唸る。
「クソッ、俺たちには手の出せねぇ呪いってわけかよ……!」
「おねーたん……!」
みきぽんの目にも涙が滲む。
魔物を前にしながら、攻撃を封じられた焦りと怒りで、悔しくてたまらないのだろう。
その潤んだ瞳の中に、ふと見えた気がした——
ベッドの上で膝を抱えて泣いていた、かつての私の姿が。
セピア色の記憶。
誰もいない部屋で、一人の視聴者もいないままに配信を切った夜。
無力感に押し潰されて、声が震えた日。
どうすればいいの……?
私を必要としてくれる人なんて、本当にいるの……?
それでも——私は配信をやめなかった。
歯を食いしばって、ひとりで頑張り続けた。
やがて、少しずつ。
集まる人が増えて、何度も見にきてくれる人ができるようになって。
私の世界には、徐々に鮮やかな色が付いていった。
喜びの気持ちは、心がまんまるになる赤い色。
焦った時は、一瞬ヒヤッとする青い色。
みんなと一緒に笑った時は、キラキラする黄色……。
セピアから、フルカラーへ。
そして今は——。
ノエルは私の肩を抱きながら、必死に声をかけてくれた。
「大丈夫よ、まきぽん!
あなたの笑顔に、私たちは何度も元気をもらったわ!」
心から信じられる仲間、角笛団のみんながいる。
「俺たちが防ぎます、下がっていて!」
背中を預けられる黒翼団の戦士たちがいる。
【しっかりしろ!】
【がんばれ、まきぽん!】
いつも見守ってくれてたリスナーのみんながいる。
そして——。
「おねーたんには、みきぽんがいるでち!」
小さな手が、ぎゅっと私の指を握りしめる。
その瞬間、ぱあっと胸の奥に光が差しこんだ。
……なによりも大切な家族、命をかけてでも守りたい存在が、ここにいる。
そうだ、私はもう……一人じゃない!
私は震える手でスマホを握りしめ、リヒトを真っ直ぐに睨んだ。
「私は、あなたになんて負けない!
例え今は底辺だろうと……一緒に戦ってくれる仲間がいるから!」
だが、リヒトは不敵な笑みを崩さない。
「……へぇ? やれるもんならやってみろよ」
【まきぽん、俺もいるぞ!】
【”俺”……? 違うだろ、“俺たち”だ!】
【そうだぞ、負けるな!】
ポジティブなリスナーの声が光の矢となって、クー・シーに次々と突き刺さっていく。
「……そうか、みんなも一緒に、戦ってくれてるんだね!」
【まきぽん、ファイア・ボルト撃って!】
一人のリスナーが叫んだ。
「……ファイア・ボルト!?」
見ると、スマホから湧き出した光のコメントが、杖の先に魔力となって集まり始めていた。
「……うん、わかった!」
反射的に覚えたての詠唱を始めると、杖の先に炎の光が宿る。
私が使える、唯一の火炎魔法。
なけなしの所持金で買った、初心者向けの安い魔導書。
それは小さな火の玉——のはずだった。
(……えぇっ!?)
無数のコメントが魔力を増幅してくれているせいか、火球は想像を超えて一気に肥大化していった。
【まきぽん、いけぇぇぇッ!!】
私の瞳に炎が宿る。
胸の奥から燃え上がるような思いがあふれ出す。
その熱を杖に託し、みんなの思いを重ねて——。
「ファイア・ボル……きゃああっ!?」
火球が放たれる瞬間、あまりの魔力の反動に、制御しきれずに後退りしてしまった。
杖の先から迸った炎は、轟音を立て狼の群れをまとめて焼き払う。
……洞窟が一瞬、真昼のように明るくなった。
え!? これ本当に、ファイア・ボルト……!?
【まきぽん覚醒キタ━━(゜∀゜)━━!!】
【これは余のメラ……ゲフンゲフン】
「すごい……すごいよみんな! ありがとう!!」
私はリスナーたちの力をもらって、次々と杖に魔力を込めていった。
【がんばれまきぽん!】
【うおおおお! 激アツ展開!!】
【配信、最後まで見届けるよ!】
「みんなの応援、届いてる!
いくよ! ファイア……ボルトォッ――!!」
グオオオーーーン!
火球に燃やされたクー・シーたちは、絶叫とともに次々と闇へと還っていく。
そして——
最後の一匹を倒したその時、場の”空気”が変わった。
《……へえ、あの子なかなかやるじゃん》
《本当だな、つえーわ》
「……なっ!?」
リヒトの顔に、初めて焦りが浮かんだ。
彼の視線の先を見ると、同接人数の表示が、みるみるうちに減っていた。
「お、おいお前ら、どういうことだ!」
《うるせーよ、リヒトだっさ》
《アタシもカッコいい方応援すっかな、キャハハッ》
それと同時に……。
「えっ!?」
私の視聴者数が……400……500……!?
どんどん増えていく。
うそうそ、こんな数見たことないよ!?
「バカな……俺のリスナーが……!?」
【これからはアンタのこと推させてもらうわ】
【まーきぽん、よろしくっ! キャハハッ】
リヒトのリスナーだった人たちが、次々と私の味方になっていく。
そして——。
ピコンッ!
スマホの画面に、見慣れぬシステムウィンドウが弾けるように表示された。
『Congratulations!!』
『視聴者数——1000人突破!!』
派手なファンファーレと同時に、巨大な数字が宙に浮かび上がり、洞窟全体を眩しく照らす。
「な、なんだぁ……!? この光は……!」
バルガンは思わず声を上げ、戦いの手を止めた。
数字は炎のように揺らめき……
やがて、無数の光の粒となって砕け散った。
『配信ボーナス:新フォーム解放条件達成』
ナレーションが洞窟に響き渡り、星屑のような輝きが頭上から降り注ぐ。
それは柔らかな波紋のように広がり、闇に沈んでいた空間をジワジワと塗り替えていった。
(……あったかい……)
降り注ぐ光に、私は心を包み込むような温もりを感じていた。
リヒトが目を見開く。
「バカな……配信の『場』そのものが、反応してるだと……!?」
私を包んだ光は、ローブの裾を優しく撫で、髪をふわりと揺らす。
視界いっぱいに広がるその輝きは、確かに告げていた。
みんなの声が、私たちを祝福しているのだ、と。
「おねーたん……!?」
同じように光に包まれていたみきぽんが、ぱちりと目を見開いた。
胸のブローチが、虹色に煌めき始める。
そして、まるで心臓の鼓動に合わせて脈打つように、色とりどりの光が洞窟を照らし出した。
リヒトも圧倒されて、目を見開く。
「……なんだ……何が起こってるんだ!?」
仲間たちも息を呑んだ。
洞窟全体を包み込む七色の輝きの中心で、みきぽんの小さな体が、光に抱き上げられるようにふわりと浮かび上がった。
(……みきぽん……!)
その瞬間、全員が確信した。
これはただの光じゃない。
みきぽんの中で、新しい『力』が目覚めようとしている——!
ここまで読んでくださってありがとうございます!
まきぽん、リスナーゼロの暗黒時代の記憶を乗り越えて……ついに1000人突破!!
これは私自身の、YouTubeを始めたばかりの頃に味わった苦悩も元になっています。
てか……なろうを始めたばかりの今の心境もこれですね(笑)。
まだまだ無名の駆け出しですが、ブクマ、評価、コメントで応援していただき、本当にありがとうございます!
皆さんの応援を力に、ファイア・ボルト(更新)打ち続けます!
さて、まだまだ戦いは終わりじゃありません。
虹色に輝くみきぽんのブローチ、そして始まろうとする新たな変身——
次回、『覚醒イベント』開幕!
どうぞご期待ください!!




