第13話「ダンジョン探索開始!冥界の入り口でいきなり大ピンチ!?」
まきぽんたちは、ついに《冥界の口》と呼ばれる恐怖のダンジョンに突入!
——いよいよ物語は佳境に!
森を抜けた私たちの前に、それは現れた。
暗く大きな口をぽっかりと開けた、巨大な洞窟——。
岩肌は不気味に濡れ、漏れ出てくる風はまるで死霊の息のように生ぬるい。
異様な雰囲気に、緊張がじわじわと高まっていくのを肌で感じた。
「ここが……」
「北の洞窟——この辺りの人たちからは《アナウンの口》と呼ばれているわ」
「アナウン……冥界の入り口、という意味です」
オオオォォォォン……
暗闇の奥から吹き出す風に混じって、低く、重々しい、何かの呻き声がかすかに聞こえた気がした。
「冥界……」
私はごくりと唾を飲む。
(ゲームじゃダンジョンに入るのには、何も抵抗なかったけど……洞窟って、これほど怖いものなんだ……)
みきぽんは私のローブの陰に隠れ、顔をこわばらせていた。
「おねーたん……」
私は無言で、そっとみきぽんを抱き寄せた。
* * *
いよいよ洞窟に入ろうとする決意の時——。
リゼが一同の前に出て、短く告げた。
「ここから先は、命を懸けた戦場だ」
仲間たちが次々と頷き合う。
私は震えるみきぽんの手をぎゅっと強く握り返した。
(大丈夫。絶対に、みんなで帰るんだから……!)
「……行くぞ!」
リゼが剣に手を添え、一歩を踏み出した。
その後を戦士団が追い、次にエリアスを筆頭に、私たち角笛団が続いた。
殿を務めるのは、バルガンだ。
小さなみきぽんは、私の手をぎゅっと握り返して——。
「おねーたん、だいじょぶでち。みきぽん、いっしょにいまち」
と、コクンとうなづいた。
それを聞いたバルガンは、どんと自分の胸を叩いて、私たちに言った。
「まきぽん、みきぽん。
なんかあったら、迷わず俺の後ろに隠れろよ!」
「あい! でも、おねーたんにはみきぽんがいるからへーきでちよ!」
みきぽんは元気よく笑う。
頼りになる仲間たちとの無邪気なやり取りに、表情がふっと緩んだ。
そして底知れぬ闇へと続く洞窟へと、私たちは足を踏み入れた——。
* * *
洞窟の中に入った瞬間、空気が変わった。
外の風や鳥の声は一切届かず、むせ返るような湿度に息が詰まりそうだ。
耳を澄ませば、ぽたり……と水滴が落ちる音が反響し、自分の息づかいにすら鼓動が速まっていく。
「やだな……ジメジメしてる」
思わずつぶやいた声も、不気味に反響している。
「たしかに、嫌な空気だな」
冒険の経験が長いバルガンは、何かに気づいたようで、鼻を鳴らしながら辺りを伺っている。
「何かのガス……いや、瘴気が湧き出ているようです。
呼吸が苦しくなるかも知れません、念の為、松明の数を減らしましょう」
数名の兵士たちが松明を消すと、辺りは1メートル先も見えないほど暗くなった。
「おいおい、これじゃ足元も見えねぇぞ?」
「まきぽん——スマホを」
「へ、スマホ?」
私はエリアスに言われて、ローブからスマホを取り出した。
「ライトをつけてください」
(……あ、スマホのライト機能ね)
やっぱりエリアス、スマホのこと知ってるんだ……。
気にはなったけど、問い詰めるのは後にしておこう。
スワイプして懐中電灯マークを押すと、洞窟内は眩しいほどの光に満ちた。
「うわっ! なんだこの光は!?」
「眩しい……まるで太陽を閉じ込めたみたいだ!」
スマホどころか、電気を見たこともない兵士たちは、驚きの声を上げた。
「おねーたん、ピカピカでち!」
「あら〜、あの時の石板ね」
「ほう、こんな使い方もできるのか」
ノエルもリゼも、視界が広くなったことに少しホッとしたようだ。
強い明かりがあるだけで、こんなにも安心できるなんて……。
私は、暗闇に押し潰されそうだった緊張が、ほんの少し和らいでいくのを感じた。
同時に、リスナーのコメントがホログラムとなって一瞬のうちに私の周りを取り囲む。
【今日の異世界配信はここですか】
【今回はなんだ? 洞窟攻略か!?】
【ダンジョン配信きた!】
【まきぽん探検隊〜♪】
そうだ、スマホを起動すると否応なしに配信も始まっちゃう。
でも、今回ばかりはしょうがないよね。
「えーっと……今日は洞窟探検の様子を、ずーっとライブしまーす……」
【うおおおお!長時間ライブ!待ってました】
【まきぽん、よろしくー】
【俺、飲み物持ってくるわ】
「君、大丈夫かい? 何かが見えているようだが……?」
私が急に何もないところに向かって喋り始めたと思ったのか、兵士が心配して話しかけてきた。
ま、そりゃそうだよね、みんなのコメントは私にしか見えてないみたいだし。
「あ、気にしないでください!
この石版に魔力をくれてる精霊さん…みたいな?」
「なるほど、君は巫女なのかな? 聖霊の言葉がわかるんだね!」
なんとか納得してくれたようだ。
ケルトの人達が、信心深くてよかった。
そう、巫女といえば……
——『ウンメイノミコ』ヨ
私はこの世界に来て、最初にかけられた言葉を思い出した。
バロールの紅く禍々しい瞳は、今でも記憶の底に焼き付き、私の心を闇へ引き摺り込もうとしている。
* * *
一行は黙々と、洞窟を奥へと進んでいく。
「ねえエリアス、これ電池大丈夫なのかな、急にライトが消えたら困るよね?」
彼は杖を握りしめたまま、落ち着いた声で続ける。
「私の見立てでは、あなたのスマホはリスナーのコメントを魔力に変換して動いているようですね」
「そんな感じ……だよね?」
「それなら——リスナーがいる限りは常に魔力が供給されるので、電池が切れることはないでしょう」
「つまり、配信で人を集められればいいってこと?」
「おそらくは」
そっか、こっちの世界でも同接人数が大事なのね。
数字を気にしなきゃいけないのはシビアだけど……。
でも、充電気にしなくていいのは便利で助かるかも!
【異世界チート展開キタ━(゜∀゜)━!】
【無限ライト草】
【電池切れしないスマホとか、普通に羨ましいんだがww】
スマホの強力な光と宙に浮かぶコメントの文字列が、洞窟の闇を少しだけ押し返してくれるような気がした。
……この、みんなの応援がある限りは大丈夫。そう思えるだけで心が少し落ち着いた。
* * *
「わぁ、あっちにおいけがありまちー!」
大きな水溜まりを見つけたみきぽんが、軽い足取りでかけ出そうとした、その時。
——ざわぁっ!
暗闇の奥から、何者かの気配が押し寄せてきた。
次の瞬間、天井から黒くうごめく物体が襲いかかってくる!
ギィィィィッ!
キィ! キィ!
耳をつんざく鳴き声とともに、ライトの光に反射して、無数の赤い眼がギラリと光った。
体毛は毒々しく逆立ち、翼の先は刃物のように尖っている。
ただのコウモリじゃない——魔物の大群だ!
「伏せろっ!」
「きゃっ……!」
バルガンの叫びに、慌てて身を低くしたが、視界が一瞬で黒く塗りつぶされた。
コウモリたちは黒い波のように押し寄せ、無数の羽ばたきが嵐のように顔を叩く。
リゼがそのうちの一匹を鋭く斬り払うと、コウモリは「ギャッ」と短く鳴き、黒い霧となって霧散した。
「……やはり。これは凝縮された魔力から生まれた魔物——!」
「そうみたいだな……チッ、消滅したら食えねぇじゃねーか……」
(待って、バルガン!? これ『食材』扱いなの!?)
私とノエルは、思わず同じタイミングでバルガンを二度見してしまった。
もちろんツッコミの気持ちは完全にシンクロしていた。
「——くそっ! 後から後から出てきやがって!」
「これじゃキリがない!」
兵士たちは群がる無数のコウモリにまとわりつかれ、必死に剣を振るっていた。
一匹一匹は小さく、力も大したことはない。
だが——数が集まれば話は別だ。
「嫌だわ〜、数が多すぎる……!」
私たちはまるで巨大な怪物に丸ごと呑みこまれ、その体内でもがいているかのような錯覚に陥った。
【まきぽんが消えたぞ!?】
【違う、モンスターに囲まれてる!】
【まきぽん、しっかり!!】
「おねーたん! ドッカーンしていいでち!?」
みきぽんが、胸のブローチに手を当てる。
そうだ、ここはみきぽんに変身してもらって……。
——でも、私は辺りを見渡して絶望した。
ここは、奥行きは広いが天井が低い。
そして上からは槍のように鋭い鍾乳石も垂れ下がっている。
みきぽんがマジカル☆シャイニング・モーニングスターをぶっ放せば、敵を倒す前に自分たちが串刺しになりかねない——!
「ダメだよ、洞窟が崩れちゃう!」
「うぅ……」
【おいおい、ここのコウモリ無限湧きギミック?】
【やべーな、またバグかよ?】
無敵の必殺技を封じられた私たちを嘲笑うかのように、コウモリの大群が続々と襲いかかってきた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
洞窟に入った瞬間から『無限湧きバグ』みたいな展開で、まきぽん&みきぽんも大ピンチ!
必殺技が封じられた状態で、この大群をどう攻略するのか……。
評価・ブクマ・感想で応援いただけると、私のスマホも電池切れせずに光り続けます(多分)!




