第11話「野営初日から飯テロ回!? 異世界キャンプ飯にリスナーも大興奮!!」
《野営初日からまさかの飯テロ回!?》
いよいよ北の洞窟へ向けて旅立った私たち。
緊張感いっぱいの行軍になるかと思いきや……、
なんと現れた魔獣を「今夜のディナー」にしちゃいました!?
焚き火に丸焼き、ハーブ香るスープ、ノエルの歌とリスナーコメントで大盛り上がり——
異世界×キャンプ飯×冒険者ライフ、今夜はお腹も心も大満足です!
日が暮れる少し前。
「——今晩の野営地はここにしましょう」
エリアスが杖の先で草原を突いた。
そこは小さな丘のようにわずかに盛り上がり、周囲よりも風通しがよく、遠くを見渡せる場所だった。
「東に森、西に川……魔性は近づきにくい地形です。ここなら夜を安全に過ごせるでしょう」
静かな声で告げると、彼の杖先からは淡い緑の光が広がった。
私たちは見晴らしのいい草原の一角に拠点を構えることにした。
羊毛でできたテントを張る兵士たちの横で、エリアスは石を拾い集めていた。
そしてそれを拠点の周りの五箇所に積み上げると、彼は静かに杖を掲げた。
「天を護る星々よ
今ひととき その輝きを借り受けん
闇を退け 道を照らせ
安らぎの環を 今ここに……」
古代語の詠唱が風に溶けていくと——
ごぅ……っと大地が低く共鳴し、それぞれの石から淡い光が立ち昇った。
やがて地面に浮かんだ五芒星の魔法陣は、エレベーターのようにゆっくりと宙へ上昇していく。
そして私たちの上空をすっぽりと覆うように、空に光の天蓋が広がった。
星型の紋様は淡く瞬き、そこから時折、きらきらと細かな粒子が降り注いでくる。
それはまるで夜空の星そのもののようで——
焚き火の炎に混じり、野営地全体を神秘的な光で包み込んだ。
「《星の円環》……これで夜間も魔性は近寄れません」
エリアスが静かに言うと、まきぽんも兵士たちも思わず見とれて息を呑む。
「すごいでちー!」
みきぽんは両手を広げ、きらきらと降り注ぐ光を受け止めようと跳ね回っていた。
* * *
「——よっしゃ、みんな飯の支度手伝ってくれよな!」
バルガンが焚き火の前にドカッと腰を下ろし、荷物袋をひっくり返すと——
(……それ、アイテムスロット無限かってくらい入ってない?)
って思えるほど、食材と調理道具が次々と飛び出してきた。
「まずは……塩! 胡椒! 香草!
セロリとにんじん! ……よし、完璧だ!」
香草をちぎっただけでいい匂いが広がり、兵士たちの胃袋を刺激する。
「リゼたちは肉から皮と石をはがしてくれ!
ノエルは香草の煮込み担当!
まきぽんは……水汲みを頼む」
「おっけー!」
「みきぽんは……」
みきぽんは自分にも仕事を振られるのかと身構える。
「みきぽんは、まず野菜を食っておくように!」
「またやさい……」
みきぽんの顔がシワシワになる。
「大きくなりたければ、野菜からだ!」
「おにくがいいでち……」
「野菜のあとから山ほどな! ダーッハッハッ!」
兵士たちも笑い出し、緊張していた空気が一気にほぐれていった。
これから命をかけた戦いに向かうはずなのに——
みんなまるで、キャンプに来たみたいにくつろいでいる。
* * *
肉が焼けるのを待ちながら、ノエルのスープ作りを手伝っていると、兵士たちがわらわらと押し寄せてきた。
あの時、みきぽんのリュックを持ってくれたお兄さんもいる。
「な、なあ……さっきの戦いで見たんだが……」
「お嬢ちゃん、あの光の中で急に姿が変わったろ!?」
「あいでち!」
「なぁなぁ、鉄球のついたあの凶悪なステッキはなんなんだ!?」
兵士たちの目は期待と好奇心でキラキラしている。
「え、えーっと……それは——」
私が言いかける前に、みきぽんは両手を腰に当て、胸を張って答えた。
「みきぽんは、ぷりんをたべるとマジカル☆みきぽんにへんしんするでち!」
「ぷ、ぷりん……!?」
「えーと、プリンというのはですね…」
だよね、この世界の人はみんなプリン知らないはず……まずはそこからだ。
「ほう……菓子で戦闘力が上がるのか!?」
「いや待て、あの鉄球はどういう仕組みなんだ!?」
兵士たちはざわざわと顔を見合わせ、興奮気味に質問を浴びせかけてくる。
「おねーたーん……」
みきぽんは、催促するように私を見た。
……そうね、見せてあげるのが一番早いよね。
「おっけー、みきぽん」
私はこっそりスマホを取り出して配信をオンにした。
「ちょっとみせてあげまち……でも、ひみつはぜったいまもるでちよ!」
そう言ってみきぽんは鉄球ステッキをブンっと振り回すと、稲光りを散らして見せた。
「ひぃっ! 本物だ! 本当に魔女っ子なんだ!」
「すげえ……俺もプリン食ったら変身できるのか?」
「やめとけ……お前、あのフリフリ着るのか……?」
魔法少女ドレスを着た兵士の姿を想像したのか、ノエルは下を向いて必死に笑いをこらえていた。
* * *
——そしてお待ちかねの夕食どき。
焚き火の炎はぱちぱちと音を立て、草原を明るく照らしている。
夜風に乗って、香草の清涼な香りと肉の焼ける香ばしい匂いが辺りを包み込むと、兵たちの硬い表情も自然とほころんでいった。
【待ってました!“異世界キャンプ飯”!!】
【飯テロ回きたああああ】
【バルガン、エプロン似合いすぎて草】
リスナーたちの賑やかなコメントが宴の夜に華を添える。
焚き火の上では、丸焼きにされたストーンバック・ボアがじゅうじゅうと音を立てている。
黄金色の皮から滴り落ちた肉汁が炎に触れて「ジュッ」と爆ぜるたび、香ばしい煙が夜気に広がった。
「うわぁ……めちゃくちゃ美味しそう……!」
私は思わずスマホを掲げて、焼き上がるボアをカメラに映す。
【飯テロ本気過ぎた】
【この時間に見せるの犯罪では!?】
【肉汁でご飯三杯いける】
「ちょ、みんな食欲爆発してない!? いや、私もだけど(笑)!」
「よっしゃ……食べ頃だな!」
肉を火から下ろすと、エプロン姿のバルガンは盾をまな板代わりに、豪快に包丁を突き入れ、分厚い肉を切り分けていく。
「さあみんな、熱いうちに食え!
……おっと、みきぽん。まずは野菜からだぞ!」
「ぎくっ……みっかったでち」
肉に手を伸ばそうとしていた瞬間を見つかり、ぷくーっとほっぺを膨らませるみきぽん。
その愛らしい姿に、兵士も冒険者も腹を抱えて笑った。
バルガンの包丁が動くたび、香ばしい焼き目の下からは湯気をまとった赤身と脂が溢れ出し、皿に盛られると炎に照らされてツヤツヤと輝いた。
「みきぽんもたべるでちー!」
みきぽんはニンジンを完食したことをアピールすると、小さな手で肉の塊をつかみ、がぶりとかぶりついて頬をパンパンに膨らませた。
ごくんと美味しそうに飲み込むと、口の端をテラテラに光らせながら
「んんんっ……! おくちとろけるでち〜!」
と叫んだ。
【みきぽん、ちゃんと野菜食べてえらい!】
【食べ方かわいすぎw】
【油テラテラで天使】
【飯テロなのに癒されるってどういうこと】
「よーし、いっただっきまーす♪」
私も慌てて肉にかじりつく。
歯を立てるたびに溢れる肉汁、炭火の香ばしさと野生の肉の濃厚な旨味。 脂の甘みと煙のほろ苦さが舌の上で溶け合い、喉を熱く満たしていく……。
「うまっ……!! いやこれ、もう反則レベル……!」
【うおおおおお腹減った!!】
【寝る前に見てる俺を殺す気か】
ノエルはその様子を微笑ましく眺めながら、手際よく鍋をかき混ぜていた。
摘んできた薬草をスープに加えると、ふわりと爽やかな香りが漂う。
そして、柔らかく煮込まれた香草のスープを、みんなに振る舞った。
「セージとタイムは消化を助けるのよ〜。お肉ばかりじゃ胃がもたれるでしょう?」
「ノエルたん、やたちいでち♡」(注・やさしい)
【俺も飲みたいー!】
【そのスープ、レシピ教えて!】
酒杯を掲げて豪快に蜂蜜酒を飲む戦士たちの声、焚き火の熱気、肉の香り。
そのすべてが混ざり合って、戦の前夜とは思えないほど温かな時間が広がっていた。
* * *
リゼは少し離れた小高い丘で、野営地の喧騒を見守るかのように一人座っていた。
地平線の彼方にまで厳しい視線を走らせつつも、キャンプから聞こえる笑い声に、ほんのわずかに口元を緩めていた。
バルガンはそんなリゼのために、肉とスープを取り分けて持ってきた。
「見張りご苦労さん、お前も食えよ」
「ああ、すまない」
肉にかぶりついたリゼは、驚いた、とでも言うように目を見開いた。
「……これが石背の猪か?」
「うん?」
「前に食べた時は、もっと固くて臭かったのだが……」
バルガンは得意げにあごひげをしごいた。
「肉を叩いて、月桂樹とローズマリーと……あとはノエルに調合してもらった臭み消しのハーブを揉み込んだんだ」
「……美味いな」
「ダーッハッハッ! そうだろ?」
バルガンは片目を瞑りながら親指を上げる。
* * *
宴の夜も更けてきた頃、ノエルが竪琴を抱えて立ち上がった。
その指が弦を撫でた瞬間、空気が一変する。
「今宵は——旅人を祝福する歌を」
星よ導け、旅路はるかに
風よ運べ、希望の灯を
焚き火の炎は消えず
明日の夜明けへと続くだろう——
透明な声が夜空に溶け、草原に染み渡っていく。
兵士も冒険者も自然と手拍子を重ね、焚き火の炎と星の粒子がリズムに合わせて揺れる。
遠い空に瞬く星々までも、ノエルの歌に応えるように輝きを増していくかのようだ。
「……きれいでち……」
みきぽんは、夢見るようにうっとりと見つめている。
その横顔を見ていると、不安も孤独も、ほんのひとときだけ忘れられる気がした。
——夜の草原は、歌と笑い声とごちそうの匂いで満ちて。
王宮の戦士たちと私たちの心の距離も、ぐっと近づいたように思えた。
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1週間の毎日更新、お付き合いありがとうございました!
来週からは以下のペースで更新予定です
【更新スケジュール】
・毎週 水曜・土曜更新
・次回:9月10日(水)公開予定!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
異世界キャンプ飯、みんなで囲むごちそうと笑い声……とても温かい時間でしたね。
戦いの前夜だからこそ、こうして仲間と過ごせるひとときが、何よりの力になるんだと思います。
きっと誰にとっても忘れられない思い出になったはず。
次回は、いよいよ洞窟への突入。
「どうか全員無事に帰ってこられますように」——そんな祈りを胸に、物語は次のステージへ進みます!
評価・ブクマで応援いただけると、とても励みになります!
「あなたにとっての仲間との大切な思い出」も、ぜひ聞かせてください!




