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10.友達のコイバナ

 学校からの帰り道、有希と並んで歩けるのは児童公園のところまで。お互いにどうしても喋り足りないと思った時には、公園に設置されたベンチを陣取ったりもするが、さすがに今の季節にそれは辛い。吹き抜けていく風があまりにも冷たくて、耳がジンジンと痛む。千尋は手袋を嵌めた手で自分の耳を覆う。


「KSKって成績順に座らされるんでしょ? 塾内マウントとか凄そうだよね」

「そうなんだよね、模試の偏差値で席決めされるみたい。入塾したばかりは容赦なく前の席らしいけど、次の模試でランク付けされてしまう……」

「えーっ、怖。千尋もトップゼミナールにすれば良かったのに」

「家からだとトップは微妙に距離あるんだよねぇ」


 週明けからの入塾が決まったKSKの話をすると、有希がご愁傷様とでも言いたげな同情の視線を送ってくる。進学実績が良いと評判なだけあって、千尋が通う予定のKSKという塾は成績にシビアなことでも有名だ。入塾テストや模試の成績でクラス分けされるのは勿論、教室での席は偏差値順で指定される。席替えがある度にクラス内での自分のランキングを嫌でも思い知らされることになる。


 冬期講習の流れから入ることになったので、千尋は今回は入塾テストを受けなくて済んだ。講習の最後に受けた模試の結果で、辛うじて上のクラスに決まったらしい。ただ、結構ギリギリだったみたいだから、今後の模試の結果によっては下へのクラス落ちも覚悟しなければならない。


 有希が中一から通い続けているトップゼミナールという塾もそこそこの大手だ。兄が通っていたという理由で勝手に入れられたと入塾当時には文句を言っていたが、大手の割にアットホームな教室らしく、それなりに楽しく通っているっぽい。


「トップなら紗耶ちゃんもいるのにね。千尋にもめっちゃ会いたがってたよ」

「いいなー、私も久しぶりに会いたいよ。沙耶ちゃんは元気してる?」


 小学校は同じだったけれど、中学受験して私立中に行ってしまった葉山沙耶のことを懐かしむ。そう言えば、当時は沙耶も島田海斗のことが好きだと公言していて、有希と一緒にキャーキャー言っていた覚えがある。


「あ、沙耶ちゃん、彼氏できたって言ってた」

「へ? 同じ学校の子?」

「らしい。親が両方医者のお坊ちゃんだって。玉の輿だねー」


 附属小からのエスカレーター組のクラスメイトと、冬休み前から付き合い始めたんだって、と有希は「羨ましい、羨ましい」と念仏のように繰り返している。


「もう、塾の度に惚気話を聞かされてるよ……」


 中一の夏休み明けくらいから、誰と誰が付き合い始めたとかいう噂をよく耳にするようになった。夏前にはまだ小学生感の残っていた同級生の一部が、夏期休暇を境目にして一気に大人っぽく変わっていった。

 中二にもなると彼氏彼女の話題はさらに増え、男子と女子との間に微妙な距離感が生まれ始めた。それまではただの同級生だったのに、互いを異性として意識するようになったからだろうか。これが思春期というやつなのだろう。


「決めた! 今年のバレンタインこそ、海斗へチョコを渡す!」


 沙耶から聞いた彼氏ネタに触発されたのか、有希が思い立ったように宣言する。毎年この時期になると定例のように同じ宣言を聞かされているが、今まで一度も実践したことがないのは知っている。市販の物を買いに行くのに付いていったこともある千尋としては、驚きは一切ない。ほぼ毎年用意はするけど、いつも結局は自分で食べて、渡さずに終わってしまう。

 けど、今年の有希は何だか雰囲気が違う気がする。


「友チョコとかじゃなくて?」

「うん、ガチのやつを手紙付きで渡す」

「……それって、告白するってこと?」


 冗談で言っているんじゃないのは、有希の目を見て分かった。小学校からずっと海斗のことが好きだと言い続けているし、これだけ大っぴらにしていたら本人も気付いてて当然。けれど、まだ本人を相手に面と向かって告白したことは一度もない。

 周りからしたら「今更?」みたいな感じだが、有希にとっては一大決心なのだ。


 照れたように笑いながら頷き返す親友へ、千尋がかけてあげなければならないのは応援や励ましの言葉。それが分かっているのに、なぜか何の台詞も口からは出て来ない。変な無言の時間が流れ始める。

 頭の中でいろんなシミレーションを繰り広げているのか、隣を歩いている有希はニヤニヤと顔を綻ばしている。間違いなく、千尋のこの引きつった表情には気付いてはいない。


 ようやく目の前に見えて来た児童公園の看板に、密かにホッとする。


「あ、じゃあ、私はこっちだから――」

「うん、バイバイ」


 有希へ向かってバイバイと手を振りながら、少し早歩きでT字路を曲がる。なんでこんなに焦っているのか、自分ではさっぱり分からない。


 ――有希が海斗のことが好きって、そんなのは小学生の頃からなのに……


 一番仲良しの友達に彼氏が出来るかもしれないのが自分には不安なんだろうか。素直に応援してあげられないのは、置いてきぼりになるのが嫌だから?

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