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襟元からチラリと見える、首元の大きな傷痕はその時のモノだ。
最初は文字だけで会話していたのだが、傭兵国らしく戦場に居る時に一々文字なぞ書いては居られんだろうというノルベルトの発言により、彼が先に手話を覚えて弟と妹に教え込んだのだった。
故に、普段から読める者相手には手話、読めない者や別の国の要人や自国の貴族達を相手にする時は魔法で空中に文字を書くことによって彼女は会話している。
そして今彼女を警護しているカルロとアルドは兄弟揃って彼女の手話が読める貴重な人物でもあった。
話を戻そう。
こんな所で油を売っていて大丈夫なのかと問う妹に、ノルベルトはヘラリと答えた。
「あ?いーのいーの。『ノルにぃ』の今日の午後のお仕事はラトと遊ぶことだから。っていうか、マジその服可愛いな。買お・・・」
真剣な顔でそう告げるノルベルトに、ラトガルドは苦笑した。
「ラトガルド、次はこれも着て見せろ。な?」
はい。と渡された服を手に、カーテンの中に消えたラトガルド。
着替える彼女を待つ間、後ろに居たアルドが静にノルベルトに近寄ると小さな声で囁いた。
「ノルベルト様、そろそろ本当に帰らないと会議に間に合いませんよ?」