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川崎一の場合

次回の話に入れようとしてたけど、キリが悪かったのでこちらに追加しました。


誠にごめんなさい。

川崎一(かわさきはじめ)には、寝坊癖がある。

それが良くない事だと分かってはいるのだが、どうしても朝の瞼の重さに抗えない。


それに加えて人が良く、運が悪い。


その日は、遅く起きたとはいえ、決して約束の時刻に間に合わない様な時間ではなかった。

ほんの少し、朝のご飯を抜く程度の時間の節約で間に合うはずだったのだ。


お腹は空いているが、走って目的地へと向かっている途中に、大型ショッピングモールの横の花壇からおばあさんが咲いているのが目に留まった。


どうやら、フラついて花壇の上に転けたらしい。

花婆さんは、力なく助けを求めているが、誰も目を合わせようともしない。

急いで通り過ぎよう。そう早足で花婆さんの横を通り過ぎようとした時に花婆さんと目が合ってしまった。


「たすけてぇ...」


そんな声が花壇から虚しく響く。

時計をちらりと確認するが、もう一刻の猶予もない。

口から溢れそうになるため息を押し殺し、花婆さんを花壇から引っこ抜いてやる。


「ありがとねぇ」


「いえいえ、お身体大丈夫ですか?

良ければ、途中までお送りしますよ?」


ただの社交辞令のつもりだった。


「まぁ、悪いねぇ。

それじゃあそこの駅まで、おぶってもらえるかい?」


このババア!

殊勝な態度をしていると思ったら、しれっとおんぶを要求してきやがった。


もう時間はとっくに過ぎてしまっていた。

泣きたい気持ちを抑え、ババアを背負って駅まで歩く。


汗だくになりながら駅まで花婆を送り、再度目的地へと走る。


あのババア、『ありがとうねぇ。助かったよ。』とだけ言って駅に向かいやがった。

まぁ、別にお礼が欲しかったとかではないのだが、何故かモヤモヤする。


ようやく、着いた時には友人が何かのチラシを手にして待っていた。


「よう、川崎。

重役出勤か?

せめて走ろうとかはしないのか?」


野崎は高校から何となく話始めただけの友人だったが、大学に入り、家が近いということで、よく話すようになった友人だ。

何度も遅刻してくる俺を律儀に待っているあたり、根はいいやつなのだろう。

ただ言葉がちょっと悪いだけで。


「ごめんて、俺が朝弱いの知ってるだろ?

それに途中でおばあちゃんが困ってたからさぁ。」


「わかった、わかった。

それで社長様。今日はこの辺りの植生の調査で合ってますよね?」


前言撤回。

すごく言葉が悪いだけで。

…やっぱり根の方も腐ってるかもしれない


呼吸を整えて、小さくため息を吐く。


「だからごめんて。

取り敢えず、めぼしいところを一通り探って、結果はこっちで纏めるから。真は向こう側から調査して来てくれないか?」


レポートを纏めるのは面倒だが、待たせてしまった負い目がない訳でもない。

この程度で良好な交友関係が保てるのであれば安いものだろう。


「わかったよ。それじゃあ、1時間後再度此処に集合で。

今度は遅れるなよ?」


「わかったって。」


念を押す様に言ってくる友人に無愛想に答えると、歩き始める。


「あ、ちょっと待った。

川崎、お前分岐屋って知ってる?」


後ろから聞こえてきた声はそんな突拍子もないものだった。


「ブンキヤ?」


友人の口から発されたその言葉に、一瞬思考が止まる。


「いや、何でもない。

早いとこ終わらせようぜ。」


「?

何だよ?

『自分はキブンヤです。』なんてクソ寒い事言うなよ?」


咄嗟に出たギャグといい、コレが映画ならアカデミー賞ものだな。などと心の中で自画自賛してしまうほどに自然に対応できただろう。


ただ、そんな軽口は聞こえないかの様に、友人はさっさと調査へ向かってしまった。


「分岐屋....か。」


そう、反芻する言葉だけが虚しく消えていった。

こんにちは。

玄馬猫です。

この話は作者の経験談を元にして書いてます。

あの婆さん元気かなぁ?

またどこかの花壇から咲いてなければいいが...

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