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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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93話 納期間際

93話目投稿します。


ほんの数日でも久しぶりと感じるのは会いたかったから、なのだろうか?

疲れて眠る少女へ掛ける気持ちは何処から来るのか。

数日ぶりに戻った技術院近くの借宿。

本宅からの荷物を自室に片付け、リアンの淹れてくれたお茶を頂きながら一息。

建物入口の扉が開き、入ってくる人の姿。

「あぁぁぁぁあ…疲れましたぁ〜」

入ってすぐのテーブルに突っ伏して疲れを漏らした。

「おかえりなさい、パーシィさん。」

見計らっていたような流れで彼女に出される温かいお茶。

『やっ、パーシィ。頑張ってるみたいねぇ?』

余程疲れているのか、お茶を啜るために顔を上げた所で私が戻った事に気づいた様子。

その顔が一層明るくなるのが解る。

「フィル!おかえりなさい!」

テーブルを周り、私に抱きつくパーシィ。揺れるカップが零れないように受け止めた。

『おっと…ごめんね、私もついててあげたかったんだけど…』

「ううん、一人でも大丈夫だよ。ありがとね。」

互いに離れていた数日を埋めるように抱きしめ合う。

『あ、そうだ。リアンさん、本宅からの差し入れもありますから、今晩は少し豪勢にしましょう。』

やった!と喜ぶパーシィ。




『パーシィ、まだ起きてるかな?』

いつもより豪華な夕食を3人で楽しんだ後、日々の疲れを鑑み早めに訪れた彼女の部屋。

扉をノックするが返事はない。

『入るね?』

中の様子を伺うように、少し開いた隙間から室内を確認する。

ベッドの上に横たわるパーシィの姿。

『余程なんだね…』

疲れて途切れた彼女の意識はすでに夢の中か、傍らに近づくが気づく様子もない。


『あまり時間が無いとはいえ苦労を掛けてしまっているよね…』

少し癖っ毛の彼女の頭に触れ、撫でる。

「ん…」と身を捩る様子に、起こしてしまったか?と少し焦るが、幸い彼女がその身を起こす様子はない。

『でも良かったかも。改めて顔を合わせて渡す事考えると照れくさいや…置いておくね?』

立ち上がり、枕元に小箱を置き、部屋を後にした。


「そんなに気を遣わなくていいのにな…」

寝返りを打ち、置かれた小箱を眺めるその姿は、私が部屋を出た後だったようだ。




翌朝、パーシィを見習って早めに眠りについたおかげか、いつもなら微睡みから抜けない時間にも関わらずしっかりと目覚めることが出来た。

「おはよ、フィル。」

朝の挨拶をするパーシィの右手。

その手首には、中央に紫色の宝石が輝く銀の腕輪が付けられていた。

『おはよ。』

特に触れることなく微笑む。

『今日は一緒に行くね。』

「じゃあ、ノプスさんの相手、お願いね?」

『えぇ〜、それはちょっと…』

2人で笑い合うところに、

「お待たせしました。朝食の用意ができましたよ。」

リアンに促され、席に付いた。




数日前に見た時より製造が進んでいるようで、製造工場室内を行き交う人の数は目に見えて増えている。

「おい!オマエらっ、納期まで時間ねぇぞ!、ちゃきちゃき働きなっ!」

数日間の通い事のせいか、特に止められる事もなく入ってきた工場に、ノプスの激が飛ぶ。

「凄いですよね…」

『あ、あぁ、うん。そうだね…ちょっとビクってなっちゃった…』

コソコソと小声で話していたはずなのだが…

「あぁ、今日はフィルお嬢も一緒かい?驚かせてしまってゴメンよぉ〜。」

怒号から一転、私たちへは柔らかい対応で…というか、聞こえていたのだろうか?。

だとしたら凄い聴力だ。


小走りに駆けるパーシィを追う。

ノプスの前に辿り着くと、パーシィは私を残して別の作業員の所へと行ってしまった。

「久しぶりだねぇ?、元気だったかい?」

『えぇ、こんにちわ、ノプス所長。』

挨拶も侭に、パーシィが駆けていった方へ視線を飛ばす。

「ここに来てからほぼ毎日、彼女には練習を兼ねた舵取りと、調整を手伝ってもらっているんだよ。」

『調整って…それって!』

練習だけなら解るが、調整という事はつまり…

「やはりキミは鋭いね。」

船を彼女に合わせている、であれば、試作を兼ねていたとしても、これが完成してもパーシィにしか動かせないという事に他ならない。

『…』

誰の、と聞こうとした口を噤む。

今回の件の元はラグリアで、人選に携わったのは叔父。

そしてノプスやここの所員は依頼主から与えられた仕事をしているだけだ。

『念の為聞かせて頂きたいのですが、彼女に何某かの影響はないんですよね?』

直感だけでなく、視線をも尖らせて問う。

「魔力ってのは一気に使えばそりゃ疲れるけど、少なくとも私たちは使う人に害を与えるようなモノを造ることは断じて無いよ。」

作業台に転がる幾つかの装置から、適当なモノを手に取りこちらに向き直る。

私の問いに答えるその表情は、どこか悲しげにも見えて、ハッとなる。

『す、すみません…無礼な事言って…』


「解るよ。キミの目を見れば解る。ある程度は。言いたい事も、ね?」


この人は多分、私が言いたい事の殆どが解ってる。

そして多分、私同様に失ったモノがあるのだ。

悲しげな表情は、もしかしたらその原因を造ったのは自分自身なのかもしれない。

「あの子もいいけど、やっぱりキミもいいね。」

ポンポンと撫でられ、

「航海が終ったら、アノ子も一緒にゴハンでも食べよ?」

と、優しく声を掛けられた。


そうだ。

魔力を使う装置や道具の全てが害あるものじゃない。

これもまた、使う人次第だ。


『…お、奢りですかね?』

気にするな、という無言の空気を纏うノプスに何とか平静を装うつもりで言ったのだが…プププ、と笑われるのだった。

「勿論さ!」


感想、要望、質問なんでも感謝します!


航海は始まらず、航路はまだ無い。

船の行き先は自分たちで決めるモノだ。


次回もお楽しみに!

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