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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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92話 宿題の答え

92話目投稿します。


レオネシアから課せられた問い、その答えを探す。

コンコン、とノックの後、寝室の扉が開かれた。

入ってきたメイドは、ベッドの上の私を見て驚く。

「フィル様、もしかして夜通しソレを?」

『あ、サクヤさん。夜通しって…あれ?』

掛けられた言葉に驚き、窓を見るとカーテンの隙間から明るい光が見える。

どうやら無心に魔石の削り出しから研磨までやっていたようだ。

『あぁ…何と無く眠くなってきたと思ったんだけど…』

すでに朝だ。

勢いよく開かれるカーテン。

差し込む朝日が眩しすぎて目を細める。

『あー…目が開かない…』

私の手元を見やり、研磨された魔石を確認して、

「ふふっ…これですと今日の作業は案外早く終わるかもしれませんね。」


朝食の時間まで少しでも眠るように勧められ、大人しく従う事にする。

研磨済みの魔石はサクヤに預け、温室への移送を任せた。

『結局、研磨に集中しちゃって答えが出なかったなぁ〜。』

コテンとベッドに体が倒れ、瞼を閉じるだけで私の意識は落ちる。




視界に映った景色で夢だと解る。

私に空を飛べるような手段はないからだ。

多分昔の自分を見てる。

王都の屋敷で眠りについたはずが故郷の光景だからだ。


程なく現れる幼い頃の私の姿。

泣いているのは…そうだ。

あの頃の私は同世代の子供たちによく虐められてた。

そして、多分コレは…

「オマエとやっても面白くないんだよ!」

「ズルばっかじゃん!」

「鬼はちゃんと目閉じてないとダメなんだぞ!」

そう、確かカクレンボした日の事だ。

本当に今思えば些細な言葉は、当時の私にとってはとても辛かった。


誰もが判る事だと思っていた事は、私にだけ特別で、他の子には無いモノで、秘密にする事にも気づいて無かった。


泣いて家に戻った私を、母は笑って抱き締めてくれた。

そして…

「フィル。よ〜く覚えておいて?」

言い聞かせるように、母は囁いた。

「アナタのその感覚は、他の人にはないものなの。」

「何故アナタにその感覚があるのかは、多分神様しか分からないわ。そして、それはアナタにとって辛い事も多いかもしれない。」

「でも、私もお父さんも決してアナタが特別だとは思ってないわ。あぁ、でもでも、私たちにとってのアナタは特別な宝物なのは間違い無いわ!」

「いつかきっと、アナタが持つ力で出来る事がある。必ずアナタにしか出来ない事があるはず。勇者サマになっちゃうかもね?」


「だから、」


「フィル様、フィル様!」

景色は一瞬で途切れ、体が揺さぶられる。

重い瞼を何とか開けると、起こしに来たサクヤの姿が映った。

『あー…サクヤさん…オハヨウゴザイマシゅ…』

朝食の準備が出来たようだ。




『まだ眠いです…』

食べ終わったらしい朝食を終え、屋敷から温室に向かう。

今日は良い天気過ぎの空はから降り注ぐ陽光は、私の体を溶かすのではないかと思うほどに…刺さる。

「まったく…まさか一晩中、研磨してるとは思わなかったわよ。まぁ、その集中力はいい傾向かもね。」

呆れた様子で叔母が言う。

まぁ…集中力は確かに役に立つとは思うが、逆に徹夜明けのこの状況が何かを奏するとは思えないわけで。

『すいません…』

と謝るしか出来ない。


「うん。研磨は問題なさそうね。いい感じに仕上がってるわ。」

削り出し、更に研磨までも終わってしまった魔石を確認。

昨日、花を入れておいた装置も同様に確認した後、叔母は私に向き直り、

「さて、宿()()はできた?」


『無心で研磨して、それでも答えは分かりませんでした。でも、本当につい先程の事ですが、昔の夢を見たんです。小さい頃の夢。』

真っ直ぐに私の目を見つめる叔母の眼差しは真剣。

『昔、母に言われた事、思い出したんです。』

叔母の隣に立つサクヤによって途切れた夢。

母が私に伝えたあの言葉。それは…


『自分に自信を持ちなさい、って。』


一度目を閉じ、開いた時、叔母は笑みを浮かべていた。

「昨日、アナタの中には躊躇い…もっと言えば恐怖があったわ。今はどうかしら?」

問われ、己の中の気持ちを見つめ返す。


私の中にある大きな力は、未だよく解らない。

ベリズから託された魔力も、私にとっては手に余る。

でも、いつまでもこのままではいられない。

ベリズだけじゃない。

今の私に託された物、力同様に解らない事だらけだ。

だからこそ、自分を信じる。

今の私が進む先は、少なくともあの世界で出会った人たちが望んでいた未来に繋がると信じる。

そのために出来る事、今すべきは魔力の制御。

そこに必要なのが、叔母が私に課した宿題の答え。

辿り着いた今は、きっと大丈夫だ。


『今は…そうですね…この大きな魔力は確かに怖い。でも私にある力の一つです。決して恐れるモノじゃない。どんなに大きな力だとしても、それを使うのは私自身だ、と。』

頭を撫でられた。

「じゃあ、早速始めましょう。」

どうやら満足のいく返事が出来たようだ。


「集中は大事。でも魔力の細かい扱い、大きさ、全部は「出来る」と思うことよ。」

出来る。きっと私は大丈夫だ。

装置に翳した手に魔力を集める。

少しずつ、少しずつ、掬い上げた雪を手のひらで溶かすように、ゆっくりと、ゆっくりと。

淡い光が宿り、装置の動きが伝わってくる。

目を閉じると、脳裏には、花が溶けだし、漂う香りが鼻孔をくすぐり、熱を発散し、雫を垂らす。

「大丈夫そうですね。フィル様、お見事です。」


『プフぅーー!』と大きく息を吐いた。

その様子を見た叔母とサクヤが顔を合わせて笑った。


「さぁ、少し休憩したら、次は結晶化するわよ〜」

順調そうに進む作業に楽しそうな叔母。

『はいっ!』

返事をして、自分の手を見つめる。


言葉にするのは難しいけれど、私にも出来た。

よしっ!、と心の中で声を上げ、拳を握りしめた。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


技術院に通うパーシィ。

日々疲れて帰ってくる彼女にとあるもてなしを興ずる。


次回もお楽しみに!

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