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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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91話 必要なモノ

91話目投稿します。


温室での作業は簡単で困難。

思わぬところで、足止めを食うのは彼女の厄か?

「あら、決まったみたいね?」

教えてもらった花を幾つか抱えて叔母の下へ戻る。

作業台には結晶の元となる魔石だろうか?、以前オスタングと交易を行っていたロディルに見せてもらった物と同じだ。

「あら、案外大人しいのを選んだわね。」

私たち以外にも教える機会があるらしく、大凡の初心者は薔薇など割かし有名な花を選ぶらしい。

「でもまぁ…そうね。フィル、アナタらしいわ。さぁ始めましょう。」


魔力を使う作業を予想していたのだが、その作業は案外普通で、まずは選んだ植物の香料を抽出するところから始まる。

「ふふ、ただ花と魔石を融合させるだけならそこまで難しくはないわ。香りをつける事がミソなのよ。」

ミソとは?

『でも、香料の抽出って時間はかからないんですか?』

「そこは、コレがあるからね〜。」

とテーブルに置かれた装置を小突く。

細かい原理ははぶかれたものの、これも魔力を使う事をで比較的容易に作れるらしい。


使いたい植物を選ぶ。

不純物を取り除く。

蒸留装置に入れる。

香料を抽出する。


加護などを付与する。


使用する魔石を選ぶ。

魔石の純度を高める。

融合装置に入れる。

香料を圧縮する。


上げられた作業は大まかに香料、結晶それそまれの製造に分けられ、それぞれの工程の中で叔母から念入りにとされたのは、不純物の除去と魔石の加工。

「昔から伝わる言葉だけれど、「木を倒す制限時間があるならばその殆どの時間は斧を研ぐ」と言ってね、あらゆる事に於いて、どれだけ念入りに準備をしたかで結果は大きく変わるのよ。覚えておきなさい。」

と。

「モノを造る事だけじゃない。カイルやオーレンの鍛錬だってそう。パーシィちゃんが技術院に通っているのだって同じ事よ。そして、フィル。アナタが今学びたいと思ってる事もそう。」

言葉にして貰って改めて気づく、誰もが未来の為に今自分に出来る事をする。

私が今学びたい事…成り行きでこの身に宿り、眠ってい魔力の制御。

『あっ…そうか…成程…』

装置を動かすための魔力操作は繊細さが求められ、その鍛錬としては申し分ない。

というか、つい午前中に叔父に頼んだ事がすでに実践されている点が意味不明すぎる。

この夫婦、恐ろしや。


初回という事で香料と結晶の工程を2日に分けて行う事となった作業。

言われた通り、念入りに不純物を取り除く。

鉢から取り出した花、根に付く土を払い、丁寧に汚れを取る。

私が選んだ花から香料を作り出すために必要な量もまた多く、この作業が一段落したのは温室の硝子が夕陽に照らされるまでに及んだ。

「では、フィル様。こちらに。」

叔母を納得させる程度に仕上げた準備を終え、サクヤに促され抽出のための装置の前に立つ。

作業の疲れと、この後の工程で魔力を使う事。

この二つは私の額に汗を浮かべる理由としては十分だ。

サクヤに花を手渡すと、手慣れた動きで装置の中に入れてくれる。

「大丈夫、落ち着いて、ね?」

背後に立った叔母が私の肩に手を置き囁く。


何故か…いつもは気にもしない事なのに、今はこの魔力を使うのが少しだけ怖い。


操作は苦手。

例えるなら井戸水。

勢いよく出すのは難しくはない。

桶一杯分の適量を出すのは加減が必要なんだ。


『加減…加減か…』


「フィル。魔力の操作に必要なモノは、経験や才能も勿論あるわ。でも一番大事なこと、何だと思う?」

考えてみるが解らない。

差し障りのない事ならいくらでも挙げられそうだが…

『…心、ですか?』

「あら、解ってるじゃない。でも今のアナタに一番必要なのは、それであってそれじゃない。」


装置を動かす前に考える時間が必要になった。

予定を変えて、残った時間で魔石の削り出しを行う事となった。


「レオネシア様…これで宜しいのですか?」

「あら、こうなる事が分かってたから保持したんでなくて?」

「…御分かりでしたか。流石でございます。」

「まぁ…無心になって考えるには、これもまた大事なことでしょう。」




「さて、そろそろ屋敷に戻りましょうか。」


レオネシアの声で、今日の作業時間は終わりを告げた。

『結局、叔母様が言った事の意味が分かりませんでした…。』

屋敷に戻る道すがら叔母に言うが、一晩考えてみなさい。と返された。


「フィルおねぇちゃん、これ!」

私に差し出された小さな手の上に青色の宝石が収まっている。

『イヴは凄いなぁ、私はまだ香料も出来てないよ。』

サクヤに手伝ってもらったらしいが、本人は満足気だ。

完成を褒められ、一層誇らしく見える。

「おねぇちゃんにあげるね?、でも、レオママに一回わたすの。」

装飾品に加工するために預ける、という事だろう。

『ありがと、楽しみにしておくね?』

「うん!」

イヴが私に対して向ける想いは何だろう?

聞いてしまうのは簡単だ。

でもきっとそこに、今の私が考えなきゃいけない事があるような気がして聞き返せなかった。


私が無事に造り終わったら聞いてみよう。




夕食を終え、寝室に戻る。

中途半端になってしまった魔石の削り出し。

温室から持ち出したソレを枕元に置いて眺める。

『はっ!?…』

眠気が来なかった手元を見ると、いつの間にか削り出しを行っていた事に驚く。


魔力を使う事。

軽度であれば、明かりを点ける。

冷たくなった手を温める。

人に依っては無くし物を探したり、壊れた物を直したり。

戦いに於いては、単純に戦力として。

相手を攻撃する事は勿論、逆に防ぐ事。

マリーさんは火竜の動きを止めたし、カイルは体内に循環させる事で身体能力を高めているようにも見えた。

操作という意味で言うなら、私は、シロから「素養に欠ける」とまで言われたカイル以上に下手くそだ。

カイルに教えを請う事もできるかもしれないが、その光景はあまり予想できないし、それはそれで何か悔しい。


『心…か…』

余り上手く纏らない頭に対して、私の手先は魔石の加工を続けている。

完成品を想像して、

渡す人の顔と、

コレを身に着けた姿を、

加護も加えられると言うなら、願わくば…

『…笑っていられるように。』

感想、要望、質問なんでも感謝します!


夜を越して辿り着いた答えは?

フィルに必要なモノとは。


次回もお楽しみに!

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