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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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90話 硝子の庭

90話目投稿します。


冬の日に感じる一足早い春の空気。

造られたモノと分かっていてもそれは美しい。

昼食の時間に食堂に現れたのは使用人を除外すれば、叔父を除く私たち4人とレオネシアだった。

いつもは普段着用の落ち着いた感じのドレス服を着ている印象だったが、今日の叔母は珍しく何かの作業用の装いだ。

ついついその服装が気になり問うてみた所、サクヤと共に温室の手入れを行っていたという事だ。

もしかすると、サクヤが声を掛けてきたのはレオネシアからの助言か何かがあったのかもしれない。

当の本人、サクヤは今日の昼食の給仕係として脇に控えている。

『叔母様、先程サクヤさんとお話していたのですが、その「温室」というのを見せて頂いても良いですか?』

「ふふ、興味を持ってくれて嬉しいわ。むしろこちらから誘おうと思っていたよの。この子は中々にして恥ずかしがり屋だから…頑張って声を掛けてくれたのね。」

やはり叔母から何か申し遣っていたようだ。

本人を見ると、照れている様子も伺える。

『サクヤさんのお花に対する接し方というか、愛情でしょうか?。聞いていると私も見てみたいと思ったんです。』

目が会い、照れ顔の彼女はそれでも頷いてくれた。

「私の趣味と、サクヤの愛情の形が奏して、あの場所は掛け替えのないモノなの。」

機会があれば招待したい、と予てから考えていたそうで、今日、ようやくその機会に恵まれたようだ。




昼食後、私とイヴは、レオネシア、サクヤの案内で温室に訪れる。

何故か事前にレオネシアの服装同様の作業着に着せ替えられたのは服が汚れるかもしれない、という配慮だろう。

そう考えるとサクヤは、汚れることも想定されているであろうメイド服で午前中にも何かやっていたはずなのだか目立つような汚れはない。

とは言っても、レオネシアが泥だらけ、といったわけでもないが。

『動きやすい服。楽でいいや。』

「そりゃ、ウチのお抱えが造ったんだもの。前にも会ったでしょ?」

と言われ、そう言えば社交用のドレスを着せられた時に居た人を思い出す。

踏まえてみれば、この服も相当に手の込んだ技巧のモノなのだろうな、と思う。

にしても、私とイヴ用の服が用意されていたのはまた改めて何と言うか…レオネシアの計画性、先見の明のようなものを感じる。

これもまた夫婦故だろうか?


「わあぁぁぁ!!、すっごい!すっごいキレイ!」

硝子張りの建物、その意匠もだがほぼ全面に張られた硝子の中は外部から見ても色とりどりの様子が見て取れる。

外から見てもイヴのこの反応。

サクヤによって開かれた扉を潜ると、目に映る鮮やかさだけでなく、鼻を擽るような香りに包まれる。

『これは…確かに…凄い…』

他の言葉が出てこない程に感動する光景だ。

恐らくは魔力を使った設備だろう、外気は肌寒い季節にも関わらず、この温室の中はまるで春の暖かさ。

サクヤが運んでいた花々が美しく咲いていたのも、季節関係なく育てられるこの温室のおかげだ。

「ふふ、サクヤ?」

「はい。とても嬉しく思います。フィル様、イヴ様の今のお顔が見れただけでもう十二分に…」

互いの手を取り、喜びを噛み締める2人の姿。

2人の年齢としてはそこまで近くは無いだろうが、その様子を見てふと思う。

私とパーシィも、いつかあんな風に喜びを分かつ事ができればいいな、と。


「さぁ、花結晶でも作ってみましょうか。」

とレオネシアの提案で作業の開始となるが…

『叔母様。花結晶っていうのは…?』

曰く、少量の魔力で作れる装飾品の一種らしく、気に入った花を使って作るソレは、使用した花の香りをも籠める事ができるという。

更に手慣れた上級者であれば一層強い香りを籠めることができるらしい。

「フィル様、参考までにこういった物ですよ。」

長くはないが、耳に掛かる髪を上げると、サクヤの耳に新緑の色をした耳飾りが見える。

香りがある、という事で顔を寄せて鼻を吸うと…

『なんだろ…花ってより、草?草原みたいな匂いですね。』

「そうなのです。本来であれば花を使うのですが、コレは草原にあるような草を使ってます。春と夏の間、風に靡く爽やかな草の匂いを籠めました。」

『いいですね、コレ。花の香りもいいですけど、落ち着く感じがします。』

耳飾りを指先で揺らしながら説明は続く。

「こういった耳飾りにすることもできますが、花結晶は核のようなもので…例えば指輪や腕輪のような装飾品などに加工することもできますよ。無論、仕上げは専門の職人さんにお願いする形にはなりますが。」

「うふふ…実をいうとね、最近王都で話題だったりするのよ?、花香りの装飾品ってね。」

お金稼ぎとして、というよりはお洒落を広めるという意味合いに重きを置いている様子。

「早速作りましょう。好きなお花を探していらっしゃいな。」


説明を聞いてる間、温室の中を探検していたイヴと合流。

『イヴちゃん。好きな花とか見つかった?』

掛けられた問いに、目移りする様子で、あれもこれも、と決めるのが難しそうだ。

「うーん…どれもキレイできめられないよぉ〜。」

『そうだねぇ…贅沢な悩みだ。』

香りで言えば、どれもこれもそれぞれに良い香りのため、他の要素が欲しいところだが…。

一つ思い当たり、水差しの用意をしていたサクヤを呼び止める。

『サクヤさん、花言葉って詳しいですか?』

「はい、ある程度ならわかりますよ。ご参考になればお答えします。」

少し考える。贈り物、渡す人、伝えたい事…。


『えっと…例えばですけど、「ずっと、仲良く」みたいなのってありますかね?』


思い浮かんだ顔は、今日も恐らく夢に向かって頑張っているであろう少女の顔。


『あと、もう一つ。それは…』


正直な気持ちを言えば、故郷を出て出会った人たちにそれぞれ贈りたいところだが…完成にどれ程の時間がかかるか解らない。

時間があれば沢山作りたいな、と口元は楽しい予感に笑う。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


想いを籠めて生み出す結晶は、輝きよりも心に触れる香りを運ぶ。


次回もお楽しみに!

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