86話 技術者
86話目投稿します。
技術院の光景はどれもこれも、どこもかしこも珍しいモノで溢れている。
パーシィに課せられた事は何なのか?
「こんにちわ、所長。」
「後で顔出してくださいよ、所長!」
「先日の爆発の片付け終わりました〜」
「所長、アレの納期っていつでしたっけ?」
「今日も徹夜です。」
所長【ノプス】と名乗った女性の後について技術院の中を歩いていると、脇から次々に話しかけてくる所員たち。
投げかけられる様々な問いに長考もなく返答していく様は流石は所長、と言ったところか?
それ以外にも、短いやり取りを見てるだけで多くから慕われているように見える。
と同時に、この人が受持っているであろう事案の多さと、この施設でどれ程の要なのかも分かる。
「ゴメンねぇ〜、まぁここはいつもこんなだけど。」
足を止める事無くこちらに気を使うところもまた彼女の気遣いと人望の成せる点と思う。
叔父も同様に感じる点はあるものの、彼の場合、言葉に出す事はそれ程多くはない。
快活さの違いとでも言えば分かり易いだろうか?
『皆さん意外と賑やかなのですね?』
「うちの研究室とは大違いですよ。」
私とロニーが各々に口にする感想。
「研究室…あぁ、キミは学術の方か。成程成程。」
白衣を羽織るロニーの姿をまじまじと観察して頷いている。
「ここは何かを研究する事よりも「思いついたらまず造る」って感じだからねぇ。頭よりまずは手や体を動かすのさ。賑やかに感じるのはそういう所だろうね。」
ほぉーっと感心する私とロニーに対して、
「お城で大きな催事がある時の詰め所もこんな感じですよ。忙しいけど楽しいようなワクワクするような…」
と言うパーシィに興味が湧いたのか、彼女の眼の前に立ち、顔を覗き込むように近づけ、顎を指でなぞる。
何と言うか…興味以上の感情が含まれているような気がしなくもない。
「キミ、その感性はいいねぇ。良かったらウチで働いてみない?」
ええと…と照れているのか、頬を染め、返事に困っているパーシィと目が合う。
『ノプスさん、彼女は今、スタットロード家に就いていますので、本気であれば叔父に掛け合ってください。』
「ハハッ、いやいや、可能性の話で言ってみただけだよ。それに、私の直感で雇ってしまっては部下に怒られてしまうしね。」
ホッと胸を撫で下ろすパーシィを他所に足を止める。
さぁ、どうぞ。と辿り着いた部屋の扉を開いた。
所長直々の案内で通された部屋…というより作業場だろうか?、潜った扉の先は思っていたより広い光景だった。
「ここが技術院で今一番熱い部署。魔導船製造工場、そのイチ、だよ。」
視界に映る光景に3人ともほへ〜、と感嘆の声を上げた。
『魔導船、ですか?』
船…という割にはそれ程大きくもないし、形はそれらしくはあるものの、船体の側面に車輪のような物がついてたり、と、船自体をそれ程見た事があるわけではないが、見知ってる姿とは一線を画す所がちらほら見受けられる。
「正式名称は未定だけどね。」
再び歩み始めた彼女の後ろについていくものの、船以外にも初めて見る沢山の光景は私たちの足を遅らせる理由に事欠かない。
「おーい、こっちだよー!」
部屋の中央で手を振っているノプスに声を掛けられ、小走りに近づく。
置かれた作業台には幾つかの装置と、水槽に浮ぶ船の模型。
その装置の中で私の目に留まる物。
早朝の王城に持ち込んだ魔導器に近い印象の物があった。
『ノプスさん…これって…』
私が指さした装置を見て、ほほぅ?と漏らす。
「お目が高い…というか、ソレに興味を持つ所が素晴らしいね。」
魔石を中心にした造りで、取っ手のような物が付いている。
「ええと…パーシィといったかな?。キミが今回の主旨と聞いてるが?」
ラグリアと叔父から技術院に訪れる事を申し遣ったのは確かにパーシィだ。
2人が彼女に課した船の操舵。
この装置は恐らくソレに関するモノだ。
名指しされた彼女が装置の前に立たされる。
「その取っ手…一応は船の操作をするモノだから、私たちは「舵」と呼んでるんだけど、握ってごらん?」
言われたまま舵を握る。
「確かキミは昇降機の操作をやってたと聞いてる。同じような感じで動かしてみて?」
少し考えるような素振りを見せた後、彼女の手から魔力が発せられる。
すると、同じ作業台に置かれた水槽の中、浮かんでいた模型の船が動き出した。
『成程…』
「昇降機は上下運動だけの装置だけど、船はそういうわけにも行かないからね。一応は直感的に解るようにこういった造りにしたんだよ。」
説明を頭の中で反芻したパーシィは、模型を見ながら舵を取る。
「あぁ、上手い上手い!。やっぱりいいねキミ。ウチにこない?」
今度は感激を全身で現し、パーシィに抱きつき、頬を擦り寄せている。
案の定、抱きつかれたパーシィは、顔を真っ赤にして困り顔。
「や!、あ、あぅ…」
あっという間に操作感を覚えてしまったパーシィは、完全に「ノプスのお気に入り」に入ってしまったようだ。
僅かにジト目になる私の顔を見て「冗談だってば」と付け加える。
「いやぁ、良いモノ見れた」
満足感をいっぱいに、大きく伸びをするロニー。
「ソレって所長さんも含まれてますよね?」
対して、満足感はあれど、疲れた様子のパーシィ。
あの後、しばらくの模型の操作と、船に関わる装置や発明品の数々を紹介されたり、で過ぎ去る時間は早かった。
技術院を出た王都の空は、夕暮れを通り越して薄闇になっていた。
『とりあえず帰ろっか。』
頷き、技術院の敷地を後にする。
「私はこのまま家に帰るよ。マリーも戻ってるだろうし。」
そう言えばマリーは本宅の宴の後、ロニーの家に泊まっていたのを思い出す。
『そっか、マリーさん泊まってるんだっけ。東にはいつ戻るんだろ?』
「確か明後日だったかな?、何か伝える?」
東に戻る前に会えるように、と託けを受け、ロニーは別れを告げた。
『私は楽しかったけどパーシィはどうだった?』
随分と疲れた様子だったパーシィ。
改めて彼女が申し遣っている事の重さからすれば、どう感じているのか気になる所だ。
「すっごく楽しかったよ!、所長さんはちょっとアレだけど…」
嬉しそうな顔と、直後の疲れた顔。
体力、というより精神的の疲れの方が大きい様子だ。
けれど、彼女の返事に2人で笑い合う。それもまた楽しい時間だ。
「あの日、家に帰ってベッドに潜っても中々眠れなかった。」
歩きながら語る彼女の言葉を頷きで返しながら聞く。
「フィルと会う前からずっと夢見てた冒険。今、本当にソレが叶うんだ、って思ったら、どんな事でも頑張ろうって。」
触れた手が自然と握られる。
その温もりに体が反応するように、こちらも自然と握り返す。
「だからね?、フィル。アナタに会えて良かった!」
『うん。私もパーシィに会えて良かった。』
薄闇の中、私たちは家路が別れるまで互いの手を握りしめていた。
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技術院に足繁く通うパーシィに付き合う日々は楽しくも忙しく。
最中、東に戻る友人との一時を得る。
次回もお楽しみに!




