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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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85話 三人散歩

85話目投稿します。


旅の仲間となる3人は、技術院へ向かう道を歩く。

広大な遠回りは捨て置け無い安堵の時間。

『あぁぁぁぁあ!、もう!』

技術院を訪れるため、パーシィと待ち合わせに選んだのは研究所の書庫。

ロニーに話すと自分も同行したい、と興味津々な様子の彼女は今、午前中に使用した書籍の片付けをしている。

「前にもなかった?こーゆーの。」

『あったねぇ…』

その時の話題は確か、領主会談での社交場に関してだったはずだ。

「今度はどうしたのさ?」

『あー…ゴメン、今はちょっと話せない。』

「まぁ、フィルは何かと厄介事に事欠かないやね。」

ホントにそう思う、と返すと苦笑する彼女。

気持ちを切り替え立ち上がり、抱えている本を半分奪い取った。


大した量でも無く、片付けを終え、2人でパーシィを待つ事にする。

『紅茶でいい?』

「他には?」

『西方産の茶葉貰ってきた。』

「じゃあそれで。」

書庫を後にして調理場へ向かう途中、慣れない様子で周囲を伺う少女の姿を見つける。


『パーシィ!、こっちこっち!』

「フィルさん!、良かったぁ〜。」

知らない場所で見知った顔を見つけた彼女は心底安心した様子だ。

『ゴメンゴメン。家から近いって言ってたから丁度いいかな、と思ったけど入った事があるわけでも無かったね。』

連れ立って調理場に向かい、合わせて3人分のお茶を用意する。

「あ、私やりますよ。この香りは西方の、ですよね?」

淹れ方もコツがあるんですよ〜、と得意げに言う少女。

『そうなの?、じゃあお願い。私はお茶菓子でも用意するよ。』




ちょっとしたお茶会になってしまった一時の休憩を終え、3人並んで歩く町並み。

メイド服に似た装用、研究所支給の白衣。

その2人に挟まれ歩く私。

一部成り行きではあるものの、この後に訪れる旅の仲間だ。


「そういえば、ちゃんと挨拶してなかったね。私はロニルダ。ロニーでいいよ。知っての通り、研究所勤務。」

気さくに言いながら右手を差し出す。

「あ、私はパーシィって言います。昨日までは()()()()()階層昇降機北西担当員でした。」

と返す言葉。

『昨日まで?って。』

空かさず挟む私の疑問に少し複雑そうな顔で彼女は答えた。


今朝、担当である昇降機に向かう前に立ち寄った係員の詰め所には私の叔父であるアイン=スタットロードの姿があり、彼女の上役に手続きを取っていた。と言う事だ。

内容としてはスタットロード家として、彼女を引き取るようなモノだったそうで…。

『って事は今のパーシィの雇い主って叔父様って事?』

「みたいですね。」

急ぎ帰宅し両親に事の次第を伝えたところ、大層な驚きと、新しい雇用主に随分と喜んでいた。と言う。


『でも、昇降機の係員って大元は王立じゃないの?』

名家とは言っても個人に雇われるより、国主管の組織の方が職業としては良い気もするが…。

「解ってないねぇ〜、フィルは。」

と今度はロニーが答える。

「アイン様はさ、フィルが思ってる以上に国民人気は高いんだよ。そもそもあの方が持ってる役職の殆どは王立の組織で、尚且ついずれも高い位置に居る。そんな家名から直接雇用って私たちみたいな末端からすれば名誉どころの話じゃあないよ?」

身内だと解りにくいかもね、と付け加える。

確かに。

『あぁ、でも確かにノザンリィでも特に忙しそうでもないのに領民には好かれてるね…成程、言われてみると一理はあるねぇ。』

「なので、今の所は今回の旅の名目って事だけど、終わった後は…どうなるんでしょう?」

答えに疑問が加えられる。

『私のお抱え付き人、なんてね!』

悪戯半分で言ってみたのだが…

2人が私の顔をマジマジと見つめ、同時に「「ソレだ!」」と叫んだ。

『えっ、えぇぇー?いいの?ソレ。』

パーシィの様子を見る限りは嬉しそうだ。

何でだ?

「そうなれたら…毎日が飽きなさそう、フフッ。」

どういう意味か。




王立技術研究所。通称はそのまま技術院と呼ばれる建物は、学術研究所から上層部を挟んだ反対側にある。

上を経由しないとなると、それなりの遠回りになってしまう。

図らずも、といった所だろうか。


あちらの世界…魔導器から伝えられた話だと未来の王都地下で見た空間を一周り大きくした土地。

訪れた時、ニコラに冗談半分で「回ってみる?」と言われた所を歩いているわけで、案の定その広大さを改めて認める事と、同時に、ロニーから疲れを訴える声が上がる。

私としてはこうした散歩様は慌ただしく訪れる厄介事の中で落ち着ける時間でもある為に嬉しいモノではあるが…

まぁ訴えも解らなくはない。




「あぁぁ〜、やっとついた。」

敷地の門を潜った前庭にあるベンチを見つけたロニーは早々に腰を下ろし、大きく息を吐いた。

「ロニーさん、研究も大事でしょうけど、もっと運動しないと…」

前屈みにロニーを覗き込むパーシィには疲れている様子は微塵もない。

『ロニーさん。これで疲れてたら旅するのはキツいんじゃない?』

「うっ…」

ヨッと掛け声と共に、立ち上がる様子のロニー

「が、頑張る…」

と何とか口にして腰を上げようとするも、パーシィは肩に手を乗せて、

「無理しなくていいですよ。もう少し休んで行きましょう?」

と、優しく押し返す。

2人共に、らしいな、と思い、光景に和む。


「おんやぁ?、そこにいるのは最近話題のフィルちゃんじゃあないかい?」


突然掛けられた声、名指しされた事に驚き、向けた視線の先に立っていたのは…


褐色肌の女性。

薄紫色の髪の毛を纏め、目には…眼鏡…だろうか?

橙色のレンズを通してこちらを観察する姿。

恐らく、男性であれば間違いなく目に付く胸元は、その服装も相まって刺激的。

『えっと…寒くないですか?ソレ』

天気の良い日中とはいえ、この季節で半袖…というより袖の無い服装は、彼女の正体以上に気を取られてしまう。

「アッハッハッハ!!」

私の言葉に一瞬きょとんとした直後に豪快に笑い声を上げる謎の女性。

「最初にソコかいー!」

と腹を抱えて大笑い。


「ックックック……ふぅ…」

一頻り笑い終えた女性が私に手を差し出す。

握り返す手に合わせて、開いた口。

「始めまして、王立技術研究所所長ノプスよ。ヨロシクねっ!」

と、名乗った女性は、嬉しそうに、楽しそうに、握った手をブンブンと大きく振った。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


突如掛けられた声の主は嵐のように無遠慮、無邪気に3人を振り回す。

突飛な技術者はさもありなん、といったところか?


次回もお楽しみに!

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