９話 月の問いかけ
９話目 領主の息子を見つけた二人は森を駆ける。
襲い掛かる闇の正体は？
暗闇に蠢く影がその中からナニかを吐き捨てる。
勢いよく森の木に当たったソレは重力に伴い地に落ちた。
（なんだ、アレ）
大砲宛らの勢いで木に激突したソレは私の体だ。
激しい衝撃に視界がチカチカする。
『ぐ…』
でも今気を失うわけにはいかない。
直感で理解できる。
（まだ死にたくはないなぁ）
木と平行な向きで衝突出来たのは運が良かった。
垂直方向に当たっていたとしたら受け身を取れる自信は無い。
『まだ動ける、っつ！』
軋む体を何とか持ち上げ影の正体を確かめる。
吐き捨てられた時に受けた傷か、額からドロリと垂れる血が片目の視界を赤く染める。
半分赤い視界の奥でで蠢くモノ、その正体は…
わからない。黒い、暗い、まさに影そのものが小さな竜巻のように渦巻いている。
野生動物とか、稀だけど魔物や魔族の方がまだマシだ。
あの物体は見たことは疎か、聞いたことも、読んだことも、感じたこともないモノだ。
向こうは向こうでこちらの様子を伺っているのか、あまり位置を変えずにグルグル回ってるようにも見える。
休む間もなく襲われていたら一溜まりもなかった。
が、運はいいみたいだ。
でも、隙を見せれば死に繋がるという感覚はあながち間違っていないと感じる。
（最悪の状況を考えるんだ…）
私にとってのサイアク、死ぬこと。
でもそれ以上に、
（町への被害…）
物的被害だけでなく勿論人的被害も含む。
有り得る可能性は、
（万が一にでもカイルが引き返して来るようなら後でぶん殴る。）
でも信じている。
カイルならあの状況下でこちらに駆けつけはしない。
少なくともあの少年の安全が確保できてからだ。
（遠慮とか躊躇してる余裕もないから…）
先程から一層冷えてきた空気にうんざりしながら素早く靴を履き捨てた。
一番「近くに」感じる振動はカイルの移動音。
間もなく森を抜ける。
次に感じるのは、恐らく先程の狼の群れ、方角は反対側。
そう、判らないのだ。
私の目の前、もっとも近い場所に居るはずの「ナニカ」は何もかもが判らない。
『…このまま逃がしてくれると嬉しいのだけれど。』
町の方角を塞ぐように蠢く影を見据えて迂回しようするが…
（まぁ、そうだよね）
私の動きに呼応するように影も動く。
でも何故か…いや明らかに先ほどより影の勢いは無い。
影に体を包まれ、飛ばされ、ぶつかり、その痛みから恐怖を感じた。
でも逆にその痛みがあったからこそ、死ぬ事への恐怖より、何としても生き抜いてやると思った。
体は熱い。怪我で節々が悲鳴を上げてる。
でもおかげで寒くない。
（もしかして…）
一度深く息を吸って止める。
足に力を籠め、木々の少なくなっている方へ向けて駆けだす。
一間置いて影が私を追いかけてくる。
何にせよ、木々に囲まれた森での視界は悪いと判断して、少しでも開けた場所を探す。
（…やっぱり運はいい）
少しの不安はあったものの、影に追いつかれる事もなく、無事に開けた場所へたどり着けた私は、中央に陣取り背後の影に目を向けた。
ズズ、と丸い竜巻状の形をしていた影が、その姿を変えた。
「オマエハ コワクナイノカ」
人型を模したその姿は、頭に直接響くような声で問いかける。
『…怖いよ。』
「ナゼ アガクノカ」
人型の体を確かめるように、四肢を動かしながら問いかけは続く。
『生きているから。』
「ソノサキニ ナニガアルノカ」
影の片腕が伸び、剣の形を作る。
『判らないよ。』
「オマエノ ナハ」
雲間から月明りが私を照らし、影と影が重なる。
『フィル。』
ドスリと、影の剣が私の体を貫き、消えた。
ドサリと、私の体は地に倒れ、そこで私の意識は途切れる。
感想、要望、質問なんでも感謝します！
戦いの風景って難しいですね。
