83話 小さな約束
83話目投稿します。
この国の王は想像より突飛。
少女たちの小さな約束は叶う日を見る。
『本当にまたラグリア様と踊る事になるとは思っていませんでしたよ。』
「俺もだ。故に一層嬉しく思う。」
ささやかな宴とはいえ、ラグリアがその姿を現した事で急遽用意された舞踏の時間。
以前はラグリアから差し出された手を取った私だったが、今宵は私から手を差し出した。
その行為に少々驚きはしたものの、嬉しそうな表情で受けたラグリアが、今私の目の前に居る。
(やっぱりそっくりだよね…)
周囲は、私たちだけでなくそれぞれにダンスに興じている様子が見えた。
叔父と叔母、オーレンとイヴ。
カイルは私の頼みをしっかりと熟している様子で、パーシィをエスコートしている。
マリーは、嫌がる妹を強引に引っ張る様に踊っているが、遠目で見れば軍服に身を包むその姿は紳士と見られても可笑しくはない。
「キミは相変わらず、周りを見ているな。」
『あ…その、ごめんなさい。』
王城でのダンスでも私はついつい相手をしっかり見る事を忘れていた。
今回ばかりは申し訳ないとは思うものの、皆が楽しんでくれているかは気になってしまうのは仕方ない事だとも思う。
『やっぱり気になってしまって…』
「キミらしいと思うよ。俺が惹かれる所でもあるしな。」
社交の場での定番とされているような一曲目を終え、続いた曲は、少し落ち着いた雰囲気の曲。
決してそう言った場では紡がれない音楽は、この屋敷特有のものか?。
どこか、ノザンリィで耳にする舞踏曲に近い気もする。
町のお祭りで演奏されるものとはその雰囲気は真逆で、当然、私が練習したダンスは一般的な物、こういった演目の踊り方など知る由もない。
故に、会釈と共に腰を落とし、場から身を引こうとしたのだが、その私の手を今度はラグリアが引っ張り、身を寄せた。
『ら、ラグリア様…私、こういった曲は踊れないの…ですが…』
ほぼ密着する互いの体に戸惑いながら言い訳の口上を述べる私に対し、
「それをエスコートするのが楽しいんじゃないか。俺の首に手を回してくれればいい。」
などと言うラグリア。
こんなの、どうしたって顔と体が紅くなる。
私が戸惑っている中、気付けば周りは脇へと退き、踊っているのは私とラグリアだけだ。
「少し冗談が過ぎたか…すまない、フィル。だが…」
耳元に口を近づけ、囁く。
「あの回廊で待っている。」
以降、ラグリアは口を紡ぎ、漂う音に合わせてその身を揺らせた。
「卿らはこの後の予定はあるのか?、あぁ、今日の、ではないよ?」
ダンスの時間も終わり、再び訪れた歓談の場でラグリアが私たちを含める意を持って問われた事。
「これと言っては特にありませんね。ただ…」
マリーに目を向け、
「復興にはまだ時間を要します故、再び東に出向くのは考えの一つ、といったところでしょうか?」
その言葉に感謝を表してマリーが頭を下げる。
共に行くのであれば、個人的にはノームに会いに行くのも目的の一つになる。
少し輪から外れ、カイルに呼びかける。
『そう言えば、エル姉はどうしたの?』
「うーん、どうだろ?。最後にあった時には東の教会にしばらく厄介になるような事言ってたけど…」
言われてみれば公に彼女の同行理由は教会仕事のついでだったのを思い出す。
まぁ間違いなく元気に今日も晩酌を楽しんでいるだろうが、もう一度訪れるなら顔を見に行くのも一つ。
「しかし、復興もある程度の目処は見えているんだろう?」
ラグリアの問いかけに、今度はマリーが答える。
「はい。早急なものはすでに解決しており、避難民も概ね元の村落へと戻ってはいます。」
フム…と一考の後、開いた口は、
「先日、卿から報告を受けた件で、出来る事なら、と思ったのだが…どうかな?」
叔父の報告が何を指すのかは知らないが、察するに、東領ではない所が目的地になる、という事だろうか?
「丁度試してみたいモノもある。」
と付け加え、カイルの立つ方へ向かったラグリアが話しかけたのはカイル、ではなく、その後ろで会話の様子を伺っていたパーシィだった。
「パーシィ…と言ったか、お嬢さん。キミに頼みたい事があるのだが良いかな?」
急に掛けられた声に、それが「自分に」とは思わなかった彼女は周囲、背後へと視線を回した後、己の顔を指差し、
「わ、わた、私ですか!?」
と。
まぁ突然すぎて、驚くのは彼女だけじゃない。
笑顔で頷くラグリアと
「えぇぇぇぇえぇえ!?」
と大声を上げるパーシィに、叔父が助け舟を寄越す。
「ラグリア様、まさかアレを?」
「俺が思うに適任だと思うぞ?」
助け舟と思われたが、逆にこの2人の視線集める形となってしまったパーシィは、より一層その身を縮こまらせた。
『御二方?、あまり私の友人を困らせないでほしいのですが?』
腰に手を当て、僅かに頬を膨らませる私と、小さくなってしまったパーシィを交互に見た2人は、互いの顔を見合わせ、笑ったのだった。
ラグリアが挙げた目的。
それは西領の更に向こう、古の時代に在ったとされる国の調査を名目とした船旅。
そして、パーシィが抜擢されたのは、その舵取り。
当然、彼女の家柄は船旅と縁があるわけでもなく、西方出身でもない。
何故選ばれたのか?
その理由は、私と親しい事と、魔導器操作の経験からだった。
「技術院と西方の協力の下で開発している船舶があるのだよ。」
風を必要とせず、人の手で漕ぐ必要もなく、魔力操作で動く船。
しかも、本来であれば数十人の搭乗を必要とされる大きさの船。
試験的に造られた船舶は、その結果次第で西方の発展に大きく貢献する事にもなりうるという。
「私が…?」
思いもよらぬ内容と、その抜擢に一番驚いているのはパーシィ自身で、もしそれが叶うのであれば、それは彼女自身の夢にも違わぬ事。
けれども憧れや夢以上に、事の大きさが彼女の返事を留まらせる。
もし、迷っているなら…その背中を押すのは、彼女の友人としての私で在りたい。
『パーシィ!、解るよ、今の気持ち。』
彼女の両手を握りしめる。
『約束…』
その右手の小指を取り、己の小指と絡める。
互いの小指を見てハッとなった彼女に付け足し、
『一緒に…行こう?』
告げた言葉は、パーシィの嬉し涙を誘い、私の手を握り返す彼女は、驚きの表情から一転して強い眼差しを以て答えた。
「私で皆さんの、ラグリア様のお役に立てるなら…行きます。ううん…行きたいです!」
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技術院を訪れる2人に来たる出会いはどんな物語を紡ぐのか?
次回もお楽しみに!




