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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第五章 大海に眠る
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82話 宴の始まり

82話目投稿します。


祝の場を騒然とさせる一人の姿。

珍しい光景に誰もが息を呑む。

そんな空気を壊すのは、無邪気な心を持つ者だ。

『お集まりの皆々様方、今宵は私のためにお忙しい中、お時間を頂き感謝いたします。』

私が招いた数人、叔父や叔母の懇意とされた数名の者たち、そしてカイルやイヴなど、身内の者たちが集う食堂で、それっぽい口上を述べ、うやうやしく着せられたドレスの裾を持ち上げ、頭を下げる。

『また今日の場を用意してくださったスタットロード夫妻、並びにその家人の皆様も含め、この場でお礼を申し上げます。』

少し脇に外している叔父と叔母に向けて述べた感謝の意に、夫妻は同じように頷く。

後ろに控えている執事やメイドも同様に頭を下げてくれた。

『改めまして、不肖、このフィル=スタット。無事に皆様の前に帰還と相成りました。』

胸に手を当てると、この場の温もりがより一層感じられるようだ。

『今宵、皆様方と楽しい時間を過ごせればと思います。』

と歓談の場へと宴の始まりを告げた。


『ご来臨頂いた皆様に、この場の縁を深める事ができれば私は嬉しく思います。故、改めまして皆様に私の友人を紹介させてください。』

招待客の元へと足を進め、

『まだ知り合っての時間は多くはありませんが、掛け替えのない友人、パーシィ様。』

名前を呼ばれたパーシィは当然、驚きと恐縮で固まってしまう。

しかし、それがまた可憐なのだ。

脇に立つレオネシアの視線が少々怪しいのは今は無視しておくことにする。

「わ、私は…その、こういった場は本当に場違いだと、思っています。でも、私を友人と言ってくれたフィル様立ってのご希望を伺い、ご一緒させて頂きました!」

言葉の尻は半ばヤケクソな言いっぷりではあったが、彼女らしい挨拶だと思う。

他の者からの拍手で、紅かった顔をより一層染める事にはなってしまったが、そんな彼女に抱きつき感謝を述べた。

『来てくれてありがとう、パーシィ。本当に嬉しい。』


『東領主名代であり、血縁、更には東領では軍師、参謀も担う、マリアン=オストル様。』

紹介された内容もあってか、ピシッっと敬礼を行うマリー。

絵になるなぁ、とか一部の女性のファンが出てきそうだな…とか妙な事を思い浮かべてしまう。

「東領主グリオス=オストロードの名代として、またフィル様にも個人的に懇意とさせて頂いております。この場に居られる事、恐縮と共に、フィル様のご厚意に感謝致します!。」

用意されていたかのような挨拶に聞こえるが、パーシィにしてもマリーにしても打ち合わせもなく熟してしまう辺り尊敬する。

マリーに至ってはこういった場もある程度の慣れもあるのだろうな、と言葉の端々から良く分かる。

そして彼女と知り合えたのは何という幸運だろう、とも思った。

軍人として、執政官として、領民に頼られる存在としての彼女は、同性の目から見ても間違いなく恰好いい。私が男だったら…いや、でもフラれるのは目に見えるか?

脇に立ってるカイルの目を見てれば解る。後でオシオキだが。


『王都学術研究員、ロニルダ=オストル様。彼女は述べた通り、学術研究所の古代史研究員であり、そこに於いて私の仕事仲間でもあります。』

マリーに向かって手を差し伸べ、

『また、彼女は先のマリアン様の妹君でもあります。』

それなりに綺麗な服を着てはいるものの、やはり机に齧りついて居ることが常な彼女はこういった場に慣れてはいない様子だが…

「いやぁ、ご紹介に預かりました。ロニルダ=オストルですが…えーと、まどろっこしいのは得意ではないので、ロニーとお呼びください。姉がしっかり者過ぎて中々どうしたものかといったところですね!」

はははっと笑う彼女の脇腹をマリーが小突き、強引に頭を下げさせられている。

しかし、その姿はこの場に笑いを生み、それはそれで彼女らしくて良い。

「ロニーくんは優秀だが、もうちょっと教授と一緒にこういった場に出るべきかもしれないね。」

と、叔父がロニーに声をかける。

一応は学術研究所を統括する立場からの言葉に、ロニーは「すいません」と苦笑いで頭を搔いている。


『さて、次が最後の紹介となりますが…私としても親しいかと言われると迷ってしまいます。』

合わせるように私の後方の扉から姿を見せたのは、ラグリア=エデルティスその人だった。

「これも其方が私に願った事の一つだ、と余は思っているよ。」

私と叔母、屋敷に訪れた際に出迎えた執事ら以外が、見事に呆気に取られている。

恐らくだが執事が取次に走った際、レオネシアに止められていたのだろう。

他は兎も角として、叔父の驚く表情は珍しい光景だ。


「あ、おーさまだ!」

固まった空気を切り崩したのは、イヴの素直な言葉。

「小さいレディ?、歓迎してもらえるかな?」

イヴに歩み寄ったラグリアは、腰を落とし、彼女の視線の高さに合わせて問いかける。

その手を取られた小さいレディは、嬉しそうに「うん!いいよ!」と微笑む。

こういった変に構える事を知らない雰囲気は、ラグリアが私に求めたものと同じだろう。

「皆もあまり大事と思わないで貰いたい。此度の宴に参ったのは公議ではないのだから。な?」

レオネシアが夫の肩に手を添え、微笑むと叔父も頷きラグリアに歩み寄った。

「流石に驚きました。ラグリア様。」

ここでついつい「陛下」と呼ばない辺りは、見ているこっちも流石だな、と言える。


「フィル…ま、まさかとは思うんだけど…あれって…」

恐る恐る私に駆け寄ったパーシィ。

ロニーもロニーでマリーに耳打ちしている様子。

恐らくは今のパーシィと同じような問いかけをマリーにしているのだろう。

『うん。ラグリア陛下だよ。』

「だよ、って…えぇぇぇえ…」

精一杯の小声で驚きを見せるが、まぁ…直接私が呼んだわけではないけれど、この状況を作ったのは私だ。

「フィル様ってもしかしなくても凄い人なの?」

『たまたまだよ。』


「フィル。改めて、お招き頂いて嬉しく思うよ。」

こちらに歩み寄るラグリアに、流石にパーシィは私の背後へ隠れるように身を縮こめる。

「おやおや、隠れなくても良いよ、昇降機のキミ。」

『えっ』

「えっ」

これは私も驚く。

「何か変かな?キミも王都で暮らす民の一人で間違い無いだろう?」

掛けられた言葉の意味を、頭で反芻したであろうパーシィがその目に涙を浮かべるのは、私が彼女の立場であっても同じだろう。

「キミは、いや、キミたちはこの王都で間違いなく重要な役割を担っているんだ。身分違い、場違いなどと己を卑下する必要などまったく無いよ?。だから姿を見せてくれると嬉しいのだが…」

少し申し訳なさそうなラグリアに、感動と恐縮を抱えながらもパーシィは私の背後からおずおずと姿を見せる。

「あ、あ…ありがとう、ごじゃいます…っ!」

噛んだ。

彼女の様子を見たラグリアと目が合う。

彼は微笑み、次はマリーとロニーの下へと「襲撃」に向かった。


「何か…すっごい人だね…何ていうか…さすがは王様?」

『何考えてるかは解らないけど、ね』

率直なパーシィの言葉に返した私の台詞は、彼と、彼に纏わる事、聞いてみたい事にも及ぶ意味をも込められていた。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


一度固まった空気も混ぜてしまえば和やかな温かさになる。

最中受ける命は思いもよらぬ旅の始まり。


次回もお楽しみに!

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