80話 招待状
80話目投稿します。
宴への招待状を心配してくれた人に渡すフィル。
近く訪れる旅の前にできる事は、いつか日常へ戻るための準備だ。
本宅に到着して数日経った日の早朝から私は王立学術研究所に訪れた。
随分と久しく感じる施設。一応私の職場としての場所、書庫を覗き中の様子を確認する。
やはり普段から誰かしらが常駐しているわけではないこの部屋は、私の留守もあったせいか少々埃が積もってしまっているようだ。
とりあえず目につきやすいところだけでも、と掃除道具を手に書庫を回る。
『ふぅ…こりゃ思ったより重労働ね。』
昼を過ぎた頃、流石に疲労を感じ、休憩を取るためここで主に使っている書斎机へと足を向ける。
書庫の入口も見えるこの机は、時に読書を、時にお茶の時間を、時に職員とのやりとりで利用する場所だ。
予め用意していたお茶をカップに注ぎ、一口。
それとほぼ同時に、書庫の扉がギギギと重苦しい音を立てて開く。
あの扉もいい加減整備しないといけないだろうな、と思いつつ、そちらへ目を向けた。
顔を覗かせたのは、見知った顔。
「フィル!、やっと戻ったんだね!!」
私の姿を捕えた声の主は、勢いよく扉を開き、こちらへ走り寄り、飛びつかれる。
『わわっ!。』
寸でのところでカップを机に置き、声の主、ロニーの体を受け止めたが、勢い余って体制を崩してしまう。
『ごめん、ロニーさん。長い事留守にしちゃって…』
首を振り背中に回された腕でパンパンと私の背を叩く。
「そんなの何でもないよ。ある程度の事は聞いてたけど、無事で良かったよぉ~。」
嬉し泣きの表情に安堵し、私も彼女の背に腕を回して少しだけ力を込めた。
『ありがと。ロニーさん。』
休憩がてら、しばしの時間、ロニーと会話を楽しむ中で思い出したように彼女に伝える。
『そういえば、急な話なんだけど、ロニーさん。明日の夜は何か用事ありますか?』
片付けの手伝いを申し出てくれた彼女が一旦手を止めてこちらに向き首を横に振る。
「ううん、特に予定はないよ?、何かあるの?」
『何か、スタットロードの本宅で宴を開くみたいで、呼びたい人が居たら声をかけるように言われてるんだよね。だから…』
「ほほぅ…それはつまり、美味しい食事にありつける…という事かな?」
そこですか…と少しばかり苦笑して、了解を得た。
『教授にもお伝え頂いて大丈夫ですよ?』
付け足した言葉に、親指を立てての返事が返ってきた。
陽が落ちる前に、今日の作業を終え、研究所を跡ににする。
研究所から近い別宅に戻りたい気もするが、流石に数日の間は本宅に戻らないと叔母のお叱りを受けそうなので諦める事にする。
『まぁ、会いたい人もいるしね。』
上層へと戻るために向かった水門。
その手前に、こちらに気付いて片手を上げる人の姿。
心配症だな、と苦笑しながら、私は彼に向かって駆け出した。
『前、2人で歩いた時、シロが降ってきたんだっけ。』
「あぁ、あったなぁ、そんなの。」
流石に、見上げた夕日の空にはそんな影は見えない。
『今、どうしてるの?』
「うーん…生きた死んだって意味ならわかるんだけど、細かい気配まではまだ分からんのよなぁ。」
わしゃわしゃと自分の頭を掻き、カイルは呟く。
『ふーん…まぁ、そのうち返ってくるよね。』
「返ってきた時に小言言われないようにしないとな。」
シロの小言にうんざりした様子。そんな光景は何度も目にした事がある。
ふふっと笑いながら、先日のオーレンとの特訓を思い出す。
『アンタもそれなりに頑張ってるじゃない?。オーレンは憧れてるみたいだし?』
だといいな、と満更でもなさそうに照れている。
「で、お二人さん、乗りますか?」
会話に夢中で気付くのが遅くなってしまったようだ。
昇降機の中から見知った顔の少女が、少々ジト目がちにこちらに呼び掛けていた。
『元気にしてた?』
「えぇ。私は変わりなく…でも、フィル様、こうしてご無事な姿が見れて安心しました。」
先ほどの雰囲気とは打って変わって、公の作法での振る舞いで口を開くパーシィ。
「心配したんですよ!」
と、その雰囲気を崩して、抱きつかれた。
『ごめん、パーシィ。』
首を横に振るパーシィの背中に手を添え、しばしの抱擁。
落ち着いた彼女に、一通の封書を渡す。
『お詫びといっては何だけど、明日の夜、何か予定はある?』
「いえ、特には…。」
『良かった!。明日、本宅で宴があるの。友達として、来てくれる?』
嬉し涙の雫を拭い、彼女は微笑んだ。
「喜んで!」
多くの人が寝静まる深夜、私は少しばかり確認したい事があった為、本宅の外に出向いていた。
当直として待機していた本宅の使用人たちに、『夜風を浴びてくる。』とだけ伝えての外出。
確認したかったのは、この上層部の南側。
あの世界で見た光景。
地下の広大な空間で各所を繋いでいた魔法陣。
あの時に感じた既視感は、こちらの世界に戻ってから見た光景でその理由を得ていた。
この上層部を浮かせている機能の一旦を担う外周魔法陣。これがその既視感の正体。
だが、今確認したいのはそこではなく、あの空間でグリムが身を置いていた場所。
つまり、遺跡と同様の物。それがもしかしたら上層部の南側にあるのかもしれない、と思ったからだ。
何だかんだと足を進めるものの、やはり広い。
外周魔法陣。これと同様な規模のものがあったとしたら、あの空間は相当広かった。
軽口でニコラに言われたものの、あそこを見て回っていたら、それこそ戻ってこれなかった可能性さえあった。
南側の昇降機は、深夜であってもその動きを止める事はない。
王都外部から緊急に飛び込んでくるような事案があった場合、ここを通過するためだ。
こちらの施設で当直に当たる衛兵に挨拶と、少し中を見せて欲しいとの旨を伝え、施設周辺も含めての確認を行った。
結論から言うと、私が見たかったものは無かった。
流石にあの石造りの建物が簡単に見つかるとは思わないが、少なくともあちらの世界で見たような魔法陣に結び付いたような形では存在していなかった。
『まぁ、そもそも同様のものがこんなに近くにあれば、アイン様が気付かないわけもない、か…』
あとは、門に飛び込む前、グリムから託された魔導器。
叔母に頼んだ事が叶えば、また新しく解る事もあるかもしれない。
上層部の町並みに設けられた設備のおかげで過ごしやすい環境ではあるものの、やはり冬の夜となればそれなりに体は冷える。
はぁ、と口から零れる吐息は、わずかに白い。
『明日は忙しくなりそうだな。』
叔父とイヴの帰還に、夜は宴だ。
早く2人にも会いたいし、宴の場はまた少々恥ずかしい服を着せられるのだろうが、まぁ…楽しみだ。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
再会は涙と喜びに溢れ、宴に華を添える。
新たに紡がれる縁はこの先にどのような未来を示すのか?
次回もお楽しみに!




