79話 継がれる志
79話目投稿します。
容易くわかる程に変わってしまった己に僅かな戸惑いと気恥ずかしさ。
けれど、幼い少年に見る姿は決して悪い事ではないのだ、と思う。
「さぁさぁ、早速準備しなくちゃね!」
張り切って私の手を取る叔母の様子はとても活き活きしている。
『叔母様…まさかアレですか?』
嫌過ぎる予感に肩の震えが止まらない。
ンフフーと鼻で笑いながら答えるレオネシアの肌がツヤツヤしているのは気のせいだと思いたい。
「アレよ!」
この人の栄養源は間違いなく私の着せ替えに違いない。
『いやぁぁぁぁァァァアアア!!』
何故こういう時にカイルは助けてくれないのか?
後で殴ってやる。
キュリオシティを出て数日、今となっては懐かしくも、嫌な思い出も感じる森、湿地帯を越えて辿り着いた王都で、まさに言葉通り、待ち構えていた叔母に捕まってしまった私は最早恒例となりつつある「社交の儀」用の準備に付き合わされる羽目になった。
「あら…フィル、貴女…もしかして…」
私の細かい所作に違和感を感じた叔母が発した。
反論をしようにも、この手の隠し事は私には向いてないようで…
「お相手はやっぱり彼かしら?」
などと言われる始末。
採寸作業の合間を縫って、叔母は私を抱きしめ微笑む。
「オーレンだけじゃない。貴女やイヴ、カイル君もそう。私はね、貴女達の成長を間近で見られて嬉しいのよ。いえ、私だけじゃない。あの人も同じ。」
叔母の言うあの人は叔父の事だろう。
本宅に到着した時に聞いた話だと、私の無事の報せを聞いてすぐ、東の復興を一段落させイヴを伴って急ぎ王都に向かっている、との事だ。
「奥様、そろそろよろしいですか?」
メイドが叔母に声を掛ける。その手に私にとっての良からぬ物を持って。
ソレを見た叔母は、「あら?同じ物で大丈夫そう?」と予想外といった様子。
どういう意味か。
「さて、フィル様、始めましょうか。」
『ひぃっ!』
逃げようと後退る肩を掴まれる。
「うん。これなら大丈夫そうね。明日からが楽しみだわ〜」
あれこれと多数の洋服を並べて楽しそうにしている叔母。
対して私はゲンナリだ。
『あの、叔母様。』
そう言えば、と思い出す。一つ確認すべき事がある。
『お願いがあります。出来れば叔父様にも内密に…』
二言目に反応した叔母がこちらに向き直る。
「何かしら?私に出来る事だとよいのだけれど…」
『陛下と会えるように取り次いで頂く事は可能ですか?』
口元に手を当て考える。
「…少し時間を貰えるかしら?」
返された声色は、了承と、少し時間がかかるという事だ。出来ない事ではない、と。
『お願いします。』
叔母から解放され広間に戻るとカイルの姿は消えていた。
何となく建物の外に足を伸ばす。
木を叩くような音が耳に届く。本宅の庭、芝生に覆われたその一画から聞こえるようだ。
音の出元は、カイルとオーレン。
剣の稽古か。
昔、似たような光景を見た憶えがある。
幼かったカイルが、私の父と剣の特訓という名目で叩きのめされていた。
『あのカイルがねぇ…』
想い出した光景は、私を笑わせるには十分だ。
痣だらけ、腫れぼったい頬に、悔し涙。
ボロボロの姿で負け惜しみ。
「あしたはぜってぇ勝つんだからな!」
何日も、何回も同じ事、同じ言葉を繰り返していた。
『馬鹿ね…』
と何日も、何回も私は呟いていた。
その負けず嫌いのカイルが今はオーレンに剣を教えている。というのもまた変な感じだ。
少し離れた場所で腰を下ろし目を閉じた。
耳には変わらず木剣がぶつかる音が響く。
肌に感じる風は、冬空の下にしては温かい。
再び目を開き2人の様子を見ると、それなりに汗をかいているようだ。
立ち上がり、裾についた草を祓い、屋敷に向かう。
家仕事に勤しむメイドの1人に声を掛け、2人の稽古の様子を伝えると急ぎ足で浴布を用意してくれた。
とって返した庭では、へたり込んでいるオーレンと、打って変わって…あれは瞑想だろうか?
何だかんだで欠かさずシロの言いつけを守っているようだ。
翌々思い出してみれば、父との特訓も余程の理由でも無い限り欠かさず行っていたな、と変に律儀な所に改めて感心する。
『お疲れ様、キミも真面目だねぇ?』
オーレンに浴布を手渡すと、「有難うございます。」とこれまた律儀に礼を言う。
「ボクもカイルさんのように強くなりたい。」
護れるように、と。
図らずも彼の在り方は幼い少年の心を射止めているようだ。その相手もまた、幼い少年の近くに在る者なのだろうな、と1人の少女の姿を頭に浮かべる。
『ありがとうね、オーレン。あの馬鹿の背中を追いかけてるとしたら、きっといつかそうなれるよ。』
少し汗ばんだ頭を撫でる。
『後は私が残っておくから、屋敷に戻るといいよ。』
再度「有難うございます。」と言い残し、オーレンは屋敷に戻っていった。
私も再度、芝生の上に腰を下ろし、カイルの特訓の終わりを待つ。
あまりにも平和で、長閑なこの時間は、私を眠りに誘う事にさしたる苦労もないようだ。
コクリコクリと首を上下に振りながら、私の意識は眠りに落ちたのだった。
「フィル?、寝ちまったのか?、仕方ねぇな。」
落ちる意識の途中、そんな声が聞こえた気がした。
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取り戻した日常は和やかに、ゆっくりと過ぎていく。
催される宴は何を伝えるためか?
次回もお楽しみに!




