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8話 光る命

8話目 懐かしい思い出話、楽しい宴の場、一転して訪れる闇、その先は?

狼は獰猛な生き物だ。

と同時に賢い。

群れを成して行動し、狩りをする。

カイルの肩の上で少しばかり体を休める事が出来たおかげで、何とか動けそう…ではあるが。

(狼を撃退できるほどに動けないしなぁ…どうしよ)

私の前で剣を構えるカイルは、狼の群れ…ぱっと見だと3匹から視線を反らさず向かい合っている。

辺りは暗く、視界という意味では圧倒的に私たちの方が不利。

無論、狼の群れもそれを理解している。

縄張りに踏み入られたというのは、規模はともあれ人に例えれば領地や住処を占領されることと同義だ。

(そりゃ怒るよね…けど…)

『あまり時間もかけてられないのよ。今は。』

ゆっくりと立ち上がった私は、カイルの後ろから前に出る。

「お、おい!」

『大丈夫。』

小さくカイルに返して、私は群れの前に立つ。

群れの頭であろう一匹が低く唸りながら私ににじり寄る。

『ごめんね、あなた達の居場所に踏み込んでしまって…』

一飛びに飛び掛かれるくらいの位置まで近づいてきている狼に、背後のカイルの緊張が私にも感じられる。

怖くないわけではない。

噛まれたら痛いに決まっている。

『でも…私たちは迷子の子供を探しに来ただけなのよ…』

ゆっくりと、ゆっくりと、狼に手を近づける。

そして、触れる。

静かに、目を閉じ、意識を集中させ、願う。


ここに辿り着く前に覗き込んだ暗闇の中で、私が見つけた光の傍には別の光もあったのだ。

他の光とは少し違う色だったけれど見間違いじゃない。


背後のカイルは、剣を収めた。

その緊張感の緩みを狼も読み取ったのか、ひり付いた空気が少し和らいだ。

『…ありがと』

手を放す直前に、狼の頭を撫でる。

「ガフッ」と短く吠えた狼は、促すように森の奥に顔を向けた。

私の傍から離れた狼は、残りの2匹の元に近づき、しばし互いの体を摺り寄せ、示した方角と別方向へ駆けて姿を消した。


ストン、と落ちる腰に慌てたカイルが私に寄り添ってきた。

「だ、大丈夫かよ?」

『は、あはは…さすがにちょっと怖かった。』

カイルの方へ向き直ると、背中をこちらに向けてしゃがみ込み、ほれ、と促す。

『むぅ…』

動けるようになったばかりに腰を抜かした私は大人しくカイルの背に体を預ける事となった。

「とりあえず、どっちだ?」

『あっち。』

今度はしっかりと方角を示し、先ほどよりゆっくりと周囲を確認しながら歩みを進めた。


『そこ滑るから気を付けて。』

『そっち、雪の下に穴がある。』

『そこの木、ちょっと腐ってる。踏んだら抜ける。』


私の言葉に合わせて、ひょい、ひょいっと苦も無く駆ける。

疑問も不満もなく進むカイルの背の温もりは、冷え切った森の空気も気にならない程だ。

(それにしても…いや、今はいい)

『カイル、あそこ。』

目的の場所に辿り着いた頃には立てるようになっていた私は、カイルの背から降り少し太めの木の根元に近づく。

目ざといというか運がいいというか…

駆け付ける前は狼に襲われないかという心配があったものの、偶然であろうか木の洞を見つけた少年がその空洞にすっぽり嵌るように隠れ、体を震わせていた。


『キミ、大丈夫?』

びくっと大きく肩を震わせ、恐る恐るこちらを伺う少年。

顔立ちはまぁ当たり前というか、あの領主夫婦の子供なのだから出来はいい…が、

(泣きすぎてくしゃくしゃだ)と苦笑する。

「うううううう!」

年頃特有の強がりからか、大泣きする声を上げまいとするその姿を見て、自分たちにも経験のあった気持ちを思い出しながら『ふぅ。』と安堵のため息を漏らす。

「うぐぅ!」

言葉にならない声を上げ、私の体にしがみついてくる少年の体温は低い。

羽織っていたケープで少年を包み抱きかかえる。

『カイル、急ごう。体が冷え切ってる。』

まかせろ!と再び背中をこちらに向けるカイル。

背中に少年を抱えさせ、とん、と背中を押す。

「行くぞ!」

全身に力を漲らせ、カイルは駆ける。

さすがにこの速さについていくことなどできないが、私も必死にあとを追いかける。

今のカイルに私に気を遣わせるような事は出来ない。

少年の無事を最優先にしなければ…。


(大丈夫。間に合う…このまま走り抜ければ…)

そう、カイルの背で今は荒い息を吐いている様子の少年は大丈夫だ。


『カイル、何があっても、その子を皆の元へ!』

「あぁ、任せろ!」

『何があってもよ!』


もう一度カイルが口を開く前に私の体は中に浮いた。

カイルが走り抜けた直後、その場所に、視界の隅から現れた黒い影に私は包まれたのだった。


「――――!!」

影の隙間からカイルが私に向かって何かを叫ぶ様子が見えた。

(その子をお願い、カイル!)

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