73話 王城地下の真実
73話目投稿します。
言葉より見える物が語る事実。見える物より言葉が語る真実。
世の理を捻じ曲げるほどの事象は、何の犠牲もなく出来るほど甘くはない。
『な…何、これ…』
背筋がゾクゾクと震える。
視界に映る目の前の光景は、私の予想どころか、この世の物かと思えない程で瞬きすらも忘れた私の目は、これでもかというくらいに大きく開かれている。
広い空間は丸く形どられた空間で、中央には大きな硝子の筒。
取り囲むように設置された同様の筒が…恐らくは5つ、こちらは中央の物より一回りほど小さい。
5つの筒を繋ぐように描かれた床の紋様は魔法陣だろうか?遠目でははっきりと見えない。
部屋の広さも相まって、巨大な物ではあるが…どこかで見たことがある気がする。
『6つ…じゃないんだ…』
あまりの驚きに呆けている私にニコラが問いかける。
「フィル?今、なんて?」
『えっ?』
今、何か言った…?
ハッとなり、口元に手を当てる。
『わ、私、何か言いました?』
「あ、いや…気のせい、かな。6つとか何とか聞こえたんだけど…」
6つ…私の口から出たのだとしたら、何を思って言ったんだ?
『ニコラさん、ここって王城の地下なんでしたっけ?』
「うん、それは間違いないよ。何しろこの研究は第一だけじゃなく、魔導院全体での合同研究でもあるからね。」
ついでの話として、ここは各研究所のどこからでも専用の道が通じているらしい。
『ここまで大きいと周囲の筒?ですかね?を回るのも大変そう…』
「あー…うん、そうだね。大がかり過ぎて移動に時間が取られるのはちょっとね~。」
改めてこの部屋?というか空間は広すぎる。
「回ってみる?。多分夜が明けるよ。」
『えぇ…そこまで広いの?』
「まぁ…実際の広さでいうなら外壁も含めて王城がすっぽり入るからね。」
床の紋様をなぞる様に一定の間隔で柱があるものの、それを除いた中央部分は支柱のようなものは見受けられない。
下手したら天井が落ちてこないかと心配にもなる。
『というか…忍び込んだのにこんなにのんびりしてていいの、かな?』
「あぁ…まぁグリム様にはもうバレてると思うけど、だからってここまで広いとねぇ?」
部外者が紛れ込んだとしても、携わってる人の数からしてすべての者が把握しているわけではない、と。
「逆にさ、こうやってのんびりしているにも関わらず大騒ぎになってない、って事さ。」
『…諦め、でしょうか?…』
「期待…もしくは懇願、かな。」
今の状況を鑑みた上でのニコラの言葉は、どこか確信を得ているような説得力がある。
「行こうか。こっちだよ。」
歩みだしたニコラの背中を追う。
向かう先は中央の巨大な筒…遠目で見る限り、筒の中は何らかの液体で満たされているようで、その内部にはナニカが浮かんでいる。
『…グリム様…』
中央の巨大な筒の前、慌ただしく駆け回る数十名の研究者の中には第一研究所で見る顔が多い。
その中心で指示を飛ばしている彼の姿を見つけた。
「…ニコラ、処罰を与えなければいけないところだが…今は時間がない。働きで返してもらえるかな?」
ハハハッと冷や汗をかきながらも笑うニコラは、キョロキョロと周囲を見渡し、適当な研究者に話しかけてこの場を去っていった。
『説明して、貰えるって事でいいですか?』
巨大な筒の中を指さす。
硝子の筒の中、液体に満たされたその内側に浮かんでいるのは、数日間、私たちが無事を願っていた少女の姿。
リル=バーンズ、その姿だった。
『リルの体調が悪いのを治す。なんてはずがないですよね?』
「彼女の体調不良はとっくに治っていたよ。あの日、キミに渡した薬の効果は確かなものだ。」
『だったら!』
押さえきれぬ感情の昂ぶりに任せ、グリムの胸倉に掴みかかる。
「彼女が望んだ事だよ。これは。」
『…信用、できるはず、ないって解りますよね?』
「無論、承知している…だから、少し時間をくれ。フィル=スタット。」
私の視線を正面から受け、決して逸らすことなく発せられた返答に、何とか感情を抑え、手を離した。
グリムは近くを通りかかった研究員を一人呼び止め、いくつかの指示を与える。
伝達を終えたグリムは、私に向き直ると、ある一角を指さし、私を連れ歩き出す。
数分の時間をかけて辿り着いた場所には、石造りの…
『…これ…』
しっかりとした建物としての造りにはなっているが、その骨子に見覚えがある。
間違いなく何度か訪れた遺跡と同様のものだ。
「…少しは冷静に聞いてくれる気になっただろうか?…入ってくれ。」
「さて…キミが望むなら全てを話そう…と言いたいところなのだが、あまり時間がないのだ。」
先ほどからやたらと時間を気にしているのは分かるが、その理由もこの研究に関わる事。
でも、その言葉は聞いた事には答えるという事。
なら…限られた時間で知りたい事、知るべき事は…
『リルとメルはどうなるんですか?』
「…すまないが、バーンズ姉妹の命はこの研究の結果で失われる事となる。」
心がザワつく。
リルだけでなくメルの命も失われる、と彼は言った。
拳がワナワナと震え、押し留めていなければ、今にも目の前の男に飛び掛かってしまいそうだ。
『…本当に彼女たちの意思なのですか?』
「私の言葉だけでは納得いかんだろうが、本当の事だ…あの姉妹は自らの命より、キミの事を憂いていたのだ。」
グリムの言葉に証拠は無い。
でも、それが虚言である事にも確証はないのだ…それならせめて、今知りえる事を。
『研究とは何ですか?…その目的は?…』
「門を開く事。」
「そして、キミを元の世界に還す事だよ。フィル=スタット。」
続けざまに発せられたグリムの言葉は、あまりにも唐突すぎて…
言葉を失い、全身から力が抜け、膝が折れる。
床に打ち付けられた膝が痛む。
『な、んで…』
「…すまなかった、フィル。あの日の後、キミに訪れた事柄は「楽しい事」とは程遠い形になってしまったね。」
この時の私が少しでもしっかりと意識を保てていたのなら、彼の謝罪の意味も分かったはずなのだ。
落ち着いてその言葉を思い返した時は、すでに遅かった。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
意識はあっても朦朧。
力無く連れられるその場所に開く門。
何故、と問いかけに応えるは闇の中に響く声。
次回もお楽しみに!




