71話 安堵の裏側
71話目投稿します。
寝室の2人に訪れる夜は、小さな願望と安らぎの時間を与える。
だが忘れてはいけない。夜の闇は誰の元にも迫るのだ、と。
寝室に設けられた其々の寝床。
全部で4つあるうち、ここ最近使われているのは3つ。
けれども3つのうちの1つ、綺麗に畳まれた真新しい服が置かれているだけで寝床の使用者の姿はない。
「フィルおねぇちゃん…リルおねぇちゃん大丈夫かな?」
私の胸元から発せられた少女の問いかけは心配と不安を募らせ、日を重ねる事に切実さを増していく。
『…この時期の風邪は厄介って言うけど、確かにちょっと長いね。』
ここ数日、寝る時にメルが私のベッドに潜り込んでくるのは習慣となってしまった。
私としてもこの少女を抱きしめながら眠るのはどこか安心するので嬉しい。
今は会えない少女を思い出す。
互いに横向きだった体を仰向けに動かすと掛布の下でメルがもぞもぞと動く。
胸板の上、這いずりあがってきた少女が布の端を摘まみ、顔だけ外気に触れさせる。
『っ…』
視界目一杯に見える少女の姿が、白いフードを纏った少女の記憶と一瞬ブレた気がした…。
「おねぇちゃん?、重い?」
首を横に。
『ううん。大丈夫。メルは温かくて気持ちいいね。』
頭を撫でると猫のように目を細め、口から漏れる吐息もそれっぽく聞こえてくる不思議。
ついつい笑ってしまう。
「おねぇちゃんが戻ってきたら、3人で一緒に寝たいな。」
小さな願望に、少しの悪戯心で返す。
『えぇ〜?3人でこのベッドで?少し狭いよぉ〜』
えへへと笑う声に、ふふっと自分の笑い声を重ねる。
「えーやぁだぁ、一緒に寝るの〜!」
もぞもぞからジタバタに変わった動きを止めるように、メルの腰に手を添え、わしゃわしゃと指先を動かす。
途端に少女からキャッキャッと大きな笑い声が上がる。
『ほらほら〜、我儘言うとコレだぞぉ〜?』
しばしのじゃれ合いは、メルの目から力が抜けていく様子に合わせて静まり、やがてその目を閉じた彼女は、私の胸板に体を預け、小さな寝息を立てる。
『早く元気になってくれるといいな…リル。』
少女の頭を撫でながら、ベッド脇から見える夜空。
王都の夜はそれなりに明るく、星は見えない。
けれども、静かな夜はゆっくりと過ぎていくのだった。
少々夜更かしが過ぎた翌日、リルを看ていた研究員から彼女の体調が少し回復したとの朗報が入る。
希望があればお見舞いもできるらしい。
喜ぶメルの背中を押して、会いにいくように促す。
「で、でも…今日のおしごとが…」
『大丈夫大丈夫!、やっと会えるようになったんだから、遠慮せずに行ってきなさい。ね?』
メルがこちらを気にしてくれるのは嬉しいが、今日の残りは一人でも何とかなる程度だ。
ほら、ともう一度背中を押すと大きく頷いて、研究員の後に続き奥の研究室へと姿を消した。
(あれ?そういえば…)
リルが治療のためって言われた部屋ってあっちだったっけ?
僅かに私の頭に残る違和感は、今日の仕事に呼ばれた声によって掻き消される事となった。
今の生活に僅かばかり安堵を得ていた私は忘れていたのだ。
ここがどういう場所なのか。
そして…私たちがここに連れてこられた経緯を…
その日以降、メルが寝室に戻る事は無かった。
『会わせられない?、それどういう意味ですか!?』
数日後、一向に戻る気配のない2人の様子に、明らかな不安を感じた私は、ようやく見つけた研究員、メルを連れて行った者を見つけ、問いただした。
曰く、自分の一存では許可はできない。
そう言われ、その日は已む無く引き下がるも、仕事の合間を縫って捕まえたグリムに食って掛かったのだ。
そこで告げられた言葉は…
「残念だが、今のキミはあの姉妹には会えない。」
その言葉は、あまりにも明確過ぎて、恐らくグリムがいうように私がどう足掻いても会わせては貰えないのが解る言い方。
(あんなに…あの時はあんなに優しかったのに…なんで?…)
確かにグリムが明確に優しい言葉をかけてくれたことはない。
けれどその行動の端々から、その優しさは垣間見えていたはずなのに、今はただ冷たく、温もりの欠片も感じない言葉を私に告げたのだ。
「私としても、キミを鎖で縛りつけるような真似はしたくない。あまり変な気は起こさないでくれ?」
そして、念を押すように言いつけられた言葉は語る。
「探すな。」と。
その日の仕事を終えた私は寝室に戻り、ここ最近の事を思い返す。
食事を用意する量に違いはないものの、それ以外の仕事量は確実に減っている。
リルに続いて、メルまでも居なくなってしまったのに一人でも回っている状況はここに来てすぐの頃に比べれば明らかに違う。
減った作業は、各研究員が自室とする研究室の片付けが主。
最近は自室で研究を行う者の数が少ないし、そもそも行きかう人の数自体が少ないのだ。
それはつまり…大勢の研究員がバラバラに仕事をしていない。
『たくさんの人で同じ研究をしている…同じ場所で…』
姉妹も多分、その場所に居る。
単純に研究の手伝いや片付けとしてソコに居るとすればまだいいが、寝室に戻ってこない事を考えればその線は薄い。
戻ってこれない理由がある。
グリムは言った「会えない」と…。
最悪の考えが頭を過る。
その考えを振り払いたいのは山々だが、湧き上がる不安を消し去る方法は今の私には思い浮かばない。
『変な気は起こすな…か…。』
数日前より一層静かな夜空に浮かぶ月は、その青白い光でこの世のあらゆるモノの影を一層大きく伸ばしていた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
思いもよらぬ日常の変化は、不安を膨張させ、真実の闇は確実にソコに存在する。
次回もお楽しみに!




