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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第四章 異世界
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68話 研究所の日常

68話目投稿します。


一応は囚われの身なのだけど、あまりに普通過ぎる生活はソレを忘れさせる。

「皆さん、お食事をお持ちしましたっ!」

魔導院第一研究所。

その中でも一番広いこの研究室は、この施設に勤めるものが一堂に集う場所だ。

長く大きな机が中央に置かれ、部屋への出入口以外の壁面にはところどころ研究道具や素材などが散乱している。

『ふぅ…もうそんな時間か。』

元気な声を上げながら食事を運んできたのはリルとメルの姉妹。

今日の食事当番は彼女ら。私は掃除。

「おっ、今日の当番は姉妹の方か~、良かったぁ~」

嬉しそうに食卓に近づいていく研究員。名前はニコラ=ノル。研究員としては若手で知り合ってからの印象はお調子者、といったところか。

『へぇ、誰が食事当番だと悪いんですかねぇ~?』

埃取りを振りかぶりながら嫌味を告げる。

「いやぁ?ねぇ?」

顔に書いてある、口が滑った、って。

『ふーん?、わかりました。明日はニコラさんの研究室には行かなくていいんですね?。さっきすっごい音してましたけど?、あー良かった良かった。そういえば明日は所長もいらっしゃるんでしたっけねぇ、ニコラさん?』

「あわわわ…えーと、そのぉ…フィルさん?」

明らかな動揺に足して顔が青ざめるニコラの背後から、食卓に置かれたサンドウィッチを一つ摘みながら、グリムはこちらへ声をかける。

「フィル、そう虐めてやるな。実際、バーンズ姉妹の方が料理は上手いだろう?」

『うっ…正論言われても困るんですけど…』


第一研究所筆頭研究員グリム=ライド。

所長を差し置いて、この研究所随一の権限を持っている。という謎の男で、私としてはとある理由であまり関わりたくない部類の人物。

(アイン叔父様やラグリア様、あとオスタングのマリーさんとかに似てるんだよなぁ…)

権限も実力も兼ね備えてるくせに、力押しじゃなくて悪巧みするような性格がどうにも…

「うん、今日も美味しいね。助かるよお二人さん。」

私を宥め終えたグリムは、小脇に立つ姉妹の頭を撫でる。

嬉しそうな顔を見てると、改めて二人が離れ離れにならなかった事に安堵する。

そして恐らく、この光景を作り出したのはグリム本人に間違いない、というのもまた事実。

『ほんと、この手の人間は…』

ついつい溜息が出てしまう。




『ねぇ、リル、メル。結局逃げ出せてないんだけど…そのごめんね?』

ここ数日、第一研究所の雑用として過ごす私たち。

当初はこの姉妹が生き別れになるような事になるなら、大暴れしてやるか、と息巻いては居たものの、正直ここでの暮らしは今のところ平穏過ぎて、ついつい忘れてしまう。

少なくともこの姉妹は、両親と離れ離れになっているのだ。

だが、リルは首を横に振る。

「ううん、フィルさん。少なくともメルと一緒に居られる。それが嬉しいの。」

抱きつくメルの頭を条件反射のように撫でるリル。

「おねえちゃん、一緒。メルも嬉しい。」

じゃれあう二人。そう思ってくれるなら助かる。

「わわっ、メル!、泡ついたままだよぉ~!」

皿洗いに浮かぶ泡が調理場に舞い、しゃぼんを照らすランプの光が描く二人の楽しそうな光景は、見ていて和む。

笑いながらもつれて倒れるリルの腕から、ほどけた包帯がこぼれ落ちる。

『っと、リル。その腕…』

じゃれあいを止めたリルが、包帯に隠されていた腕を押さえる。

「昨日、ちょっとぶつけちゃって…念のために、って診てくれたんだぁ。」

えへへ、と笑うリルに今度はメルが頭を撫でる。

「おねえちゃん前からよく怪我する…ドジっこ?って皆言ってた!」

あはは、と二人で笑う。

『ちょっと気を付けないとね…ここ研究所って言われてるくらいだから危ないのも沢山あるだろうし。』

中々収まらない姉妹のじゃれあいに、仕方ないなぁ、と苦笑いを浮かべた。




『ちょっとぉ…ニコラさん、この部屋暑くないですか?』

翌日、やむなくニコラの研究室に訪れた私は、部屋の隅から散らかった道具や資材を整理していた。

「まぁ…今は火属性の研究してるからねぇ?。あともう暑い季節って事だし、仕方ないんじゃない?」

『何で暑い季節に火属性の研究とか…バカですか?』

私のあからさまな侮蔑を意にも介さず、チッチッチと指を振る。

「違うよぉ、フィル。暑い季節だからこそやるんじゃないか。」

まるで真逆の思考に驚く。


私の中では、この手の研究はあくまで人の暮らしに役立つものを生み出すモノだと考えていたため、特性を突き詰めるような思考はまったく頭になかった。

「限界や常識を超えてこそ研究の価値があるってもんだろぉ~?」

といいつつ、扇で仰いでいる。

『言葉と行動が合ってないんですけど…』

「それとこれとは別だよぉ〜、ボクだって暑いものは暑いし。」

でも、と。

「例えばだけどさぁ、火に強い存在が居たとして、そこにも限界はあるでしょう?、う〜ん…溶岩、とかさ。」


私が、研究所に居る人たちへの不気味さが拭えない原因はこういうところだ。

節々に現れるさり気ない会話の中に、私が体験した、もしくはそれに近い事象の喩え。

ニコラの例え話はまるで…私の中に在る存在の末路と同じだ。


「真に火に強い、この場合は「火属性に強い」存在という意味だけど、ボクはその限界を越えてなきゃ意味がないって思うんだよねぇ〜。ね、フィルはどう思う?」

気のせいだ、と自分に言い聞かせ、問いかけに応える。

『少なくとも今の私は暑いのを何とかしてくれた方が嬉しいんだけど…』

無理繰りでも片付けに意識を戻し、愚痴で返事を誤魔化したのだった。


『って言うか、そうやってのんびり涼んでるんなら手伝って下さいよ。』

「うえっへっへ。いや何、ボク片付け苦手だし、一応はキミの仕事でしょ?。」

それに、と

「可愛い子が掃除してるのっていい景色じゃん?」

『っ…こ、この…』

単純な褒め言葉?に赤面する。

というか、言ってて恥ずかしくないのか、この男は!

「わー!、それ駄目!投げちゃ駄目なやつ!」

あまりに必死な留めに我に返り握ったモノを見る。

小瓶に入った紫色の液体。

仄かに異臭を放つソレを再確認した私は『うぇぇ』と吐き気を催したのだった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


柔軟な思考を生むのは才能か?、はたまたソレも狂気の一種か?、多様な考え方はいつの世でも可能性を秘めている。


次回もお楽しみに!

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