67話 魔力の素養
67話目投稿します。
案内された部屋は予想外に普通過ぎて、少女たちの心は安らぎに揺らぐ
第一研究所。
一般的な印象では魔導院といえばまず始めに思い浮かぶ施設で、そこに勤める者たちの間では本院と呼ばれる事もある場所であり、内外問わずその方面からの憧れを一身に受ける集団。
世に多く輩出される魔導技術の殆どがここて発見、発明されているのも周知の事実という。
「こっちだ。」
取引きの場でその代表者として立っていた男は端的に口を開きながら私たちの収容場所へと案内する。
また牢獄生活か、と思っていた予想は裏切られ、通された部屋は普通に生活を送る上での不便さを感じる要素は今の所はない。
「不思議、かね?」
背後から掛けられた声に驚き振り返ると、部屋の入口から件のそっくりさんが覗いている。
入れ替わりで代表者の男が部屋を後にする。
何故か代表と言う割にこの謎の男の方が高位に感じるのは私の記憶のせいか?
「無理して演技しなくても良いのだぞ?、いい加減押し黙るのも退屈だろう?」
室内には3人の少女と、謎の男。
隙あれば、と僅かに考えていた出鼻は、男の言葉で挫かれる形になってしまった。
「…おじちゃん、何でわかった?」
最初に返事をしたのはメル。
その手の平の上に不自然に揺蕩う水の球体。
「メル!、待っ!」
リルの静止を遮り放たれた球体は男の端正な顔目掛けて飛び出した。
「おや、これはこれは。」
メルから投げつけられた水球は、見事に命中…したかに見えた、が。
水の塊は男の目の前で弾けとんだ。
制御を失った水が部屋の壁に無数の沁みに、
(なってない?!)
足元に飛んできた小さな水の玉、しゃがみ込んで指を伸ばす。
「触れない方がいいぞ?」
僅かに遅かった男の忠告、瞬間、触れた指は水の刃に刻まれ、小さな玉が朱に染まる。
『っつ!』
「だから言っただろうに…フィル=スタット。どれ、見せてみたまえ。」
脇に抱えた紙の束を机の上に置き、こちらに歩み寄る。
間近で見るその顔は…間違いなくラグリア=エデルティスそのものだ。
見知った顔は私の心を揺さぶる。
『っ…』
触れられた指先がチクリと痛む。
小さな痛みのせいにして俯いた。
温かい光と共に切れた指先の傷が消える。
私の指先から完全に傷が消えたのを確認し立ち上がる、振り向き元の位置へと歩く後ろ姿はまるで…
「フィルさん、大丈夫ですか?」
歩み寄ってきたリルが私に声をかけたところで、ハッと我に返る。
『うん、ありがとうリル。大丈夫だよ。』
そこにメルも歩み寄り、自然、3人で部屋の入口付近で書類を捲る男に視線を集める事になる。
「あの人…つよい…」
部屋に置かれた椅子に腰かけ、書類を片手で捲りながら、もう一方の手、その指先をクルクルと回している。
周囲に散ったままの水の玉が、指の動きに合わせ揺れている。
(魔力を扱う練度がメルとは段違いだ…)
「さて、お嬢さん方。」
立ち上がり、遊ばせていた指を止め、拳を形作ると同時に散り散りになっていた水が集まり、元の大きさに戻った。
再び指先を中に走らせ、部屋の隅に置かれている水桶を指すと、水球は弧を描くように中に収まり、男の制御から外れた。
「しばらくはこの部屋で過ごしてもらうのだが、第四、第六の連中にはあぁは言ったものの、我々はキミたちにそれ程急ぎの用があるわけではないのだ。」
小さな溜息と合わせてやれやれ、と首を振る。
「とは言ったものの、のんびりと過ごされるのも他の連中の目があるのも確かだ。故に…」
ビシリと指を差し言い放った言葉。
「無理のない程度に我々の雑用してもらおうと考えている。」
あまりに普通過ぎる言いつけに意表を付かれた私たちの思考が止まる。
「……ん?、何か変な事でも言ったかな?」
動かない私たちの様子に困り顔で問いかける。
『っと、えっと…それだけ?』
今度は逆に不思議そうな顔を向ける。
「他に何か?…あー、そうだな。」
こちらに歩み寄り、眼の前で腰を下ろし、グイっとリルの足を掴む。
「きゃっ、」
とリルが小さく悲鳴を上げるが…彼女の両足首の真ん中辺りに癒しの光が灯る。
「…あ…傷が…」
続けてメルの足にも治癒魔法を使う。
癒しの光が収まり、すっかりと安心した様子のメルがピョンピョンと跳ねたのを確認した男は、彼女の頭をポンポンと撫でてから立ち上がった。
こうして見てると数刻前にあの会場で見た空気はまったく感じない。
翌々考えてみれば、魔力を持つ者が贔屓される事にしても牢屋の世話係をしていた男の話でしかなかったし、人体実験なんてのも私の思い込みだったのかも知れないな、と考えを改める。
金銭で人を売買すると言っても行き着く先が絶対に不幸とは限らないんじゃないか、と。
目の前の人物からはそんな雰囲気は感じないのも確かだ。
だからこそ、余計に感じてしまうのだ。
(ラグリア様…)
王の姿を。
押し黙ったままの私に視線を向けた男の姿が記憶の中の姿とブレる。
『あの…』
その顔をしっかりと見据えて口を開く。
『貴方の名前、まだ聞いてません。』
私の問いかけは予想外だったのか、はたまた忘れていた事に気付いてか、苦笑を浮かべた表情で彼は言った。
「そうだな…私の名前はグリム、グリム=ライドだ。」
そう告げたのだった。
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与えられた生活は平凡でありながら目まぐるしく、新たな知識を生み出す空間は心地良さで埋められていく。
次回もお楽しみに!




