7話 闇を駆ける
7話目、何とかペース保ててます。
無理せず行きたいけど、楽しい。
宴の最中、カイルとの思い出話に盛り上がる私達を余所に、何やら宴の中央がザワつき始めた。
『何かあったのかな?』
「みたいだ。行くぞ。」
差し出された手を握ると、ぐいっと体を引き起こし、手をつないだまま足早に騒ぎの中央へ向かう。
『父、どうしたの?』
私とカイルの姿を見た父は苦笑いを浮かべつつ、首の付け根をボリボリと掻いた。
(あぁ…これはホントに困ってるやつだ)
父の癖はよく知ってる。
幼かった私が泣いた日とかによく見た光景だ。
「とにかく…皆、済まないが手を貸してくれないだろうか。」
少し離れた場所で叔父、アインが集まった町人に頼んでいるのが見える。
「でもどこに行ってしまったんだ?」
「ちょっと目を離した隙に…」
「まだ幼子だ、そう遠くへは…」
幾人かが呟く内容を聞いた私は、領主夫人の様子を伺う…案の定泣いている。
(成程、ね)
宴の外側へ顔を向け、耳を澄ます。
遠くで獣…おそらく狼の鳴き声も聞こえる。
(のんびり探せるような猶予はない…でも町の、この広場から少し離れた場所に居るとしたらちょっと厄介だな)
嫌な予感は大体は当たる。私の場合は特に…
(どうする?どうすればいい?…考えろ。)
足を地につけろ。
((何がある、何かある、何ができる、何かできる))
根を張り巡らせろ。
(((何がしたい、何をしたい、何処へいく、何処にいける)))
『…思い出せ。』
体は走る。場所は決まっている。
背中に私を呼ぶ声が聞こえる。今は気にしない。
走れ!
息を切らせて辿り着いた場所は…
(意識をしっかり保て、お昼の二の舞は御免だし、そんな余裕はない!)
少し震える指を伸ばす。
(躊躇うな!)
触れる。土は冷たい。雪は片付けられているのに、いやもっと、指が氷に張り付くように感じるほどに…
(まだ、まだ弱い!)
靴を脱ぎ捨て、素足で身を屈める。
『…来る。』
ドンっと身体が跳ねた。喩えではなく、大地に拒絶されたかのように身体は跳ね、そのまま仰向けに私は倒れた。
『まだ、まだだよ!』
飛びかけた意識を何とか保てた。
(…もう一度)
身を翻し、両手、膝から地に触れる。
(そうだ…そうか。)
あの時見ていたのは夜空じゃない。星じゃない。
閉じた瞼の裏に浮かぶ光。
少し離れたところに沢山集まってる。
でも今見るのはそこじゃない。
もっと暗いところだ、探せ!
暗闇で浮いたような感覚を逆手に見下ろすように意識する。
光が集まる場所から離れたところ、弱々しい小さな光を見つけた。
と、同時に私の居る場所へ近づく光も視界の隅に確認できた…といっても目は閉じているのだが…
閉じていた目を見開き、体を起こ…せない。
『む…』
「ったく、突然走り出したと思ったら、おまえは!」
仕方ないと愚痴りながら、カイルが私の肩に手を回す。
『大丈夫、立て…ない。』
はぁぁっとカイルは大きくため息をつき、そのまま私を肩に担いだ。
『ちょ、カイル!?』
「いいから!、どっちだ?」
暴れたところで、どうしようもないと諦め、震える腕を何とか持ち上げ、森の奥を示した。
抱えて走るカイルの腰には、ここに来る前に用意したのであろう、一振りの剣と小さなナイフが見えた。
さすがに今の自分の状態では、剣は振れない。元からそんなに使えるわけではないけれど…
私を抱えて走るカイルの姿は、私が思っていた以上に逞しかった。
父に叩きのめされて泣いてた頃のカイルは、きっと私の思い出の中だけだ。
森の中だというのに、カイルは正確に私が示した方角へと走っている。
きっとこれはカイルが手に入れた努力の賜物だ。
『カイルは、すごいね。』
「お前の父ちゃんに鍛えられたからな!いつか超えてやるって、必死になって、さ!」
足場が悪くても、雪に足を取られる事もなく、闇の中を駆け抜ける。
人を、私を抱えたまま、速度を落とすことなく走り続けるこの力は、並大抵の努力で身につくものじゃない。
それくらい誰にだって分かる。
「でも、それじゃダメだったんだ。誰かより強くなるってだけじゃ、さ!」
カイルは速度を落とし、辺りを警戒するような素振りを見せ足を緩める。
「護る力をつけろって言われた!」
完全に走るのを止めたカイルは、私を肩から下ろし、腰に携えた剣を引き抜いたのだった。
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おまけ話
今日、スマホ落下して壊れて執筆時間がすごく遅くなってしまいました(笑
次回はカイル君格好よく魅せれればいいですね!悩ましい!