65話 暗き催事
65話目投稿します。
強引な脱出は困難で、已む無く事の次第に任せる先、地下室で開かれるその催しは狂おしさを抱く。
ガチャりと手首に嵌められた手枷が音を立てる。
世話係の男の連行のもと、牢獄の外に連れ出された私たち3人は別の建物へと連れられる。
出来るなら違っていて欲しかった所だったが、リルの不安が的中している。
ここは魔導院と呼ばれる施設の敷地内。
その知識がまったくない私が見ても、この中庭から見える範囲の様子だけでもそういった施設という事は見てわかる。
(技術研究所も似たような感じだったしなぁ…)
ちらりと後ろを歩くリルの様子を伺うが、案の定、その表情は暗い。
最初は、取引が行われる前に脱出する方法を考えてみたものの、結局のところ足の傷をしっかり治療できない事には儘ならないという結論に至ったため、ここぞという時に狙いを定める方向となったわけで、今まさに取引が行われるであろう場所へ向かっているというわけだが…
改めて魔導院の敷地内の確認が取れた時点で私の中にいくつかの疑問が浮かぶ。
(何故、捕えてから時間を空ける必要があった?…)
取引の相手が魔導院である事がはっきりしているなら、数日とはいえ私たちが牢獄に監禁されていた理由は何なのか…。
牢獄が施設の中にあるものだった事、私たちに対する監視が御座なりだった事、下卑た男ではあるが眼前を歩く男の雰囲気からすれば、恐らくこの男は人攫いの連中とは別の集団…むしろ魔導院側の人間なのではないだろうか?
監視が薄かった理由は、私やメルに付けられた首輪の事もあるだろうが、施設内からの脱出は簡単ではない事と、改めて付け加えれば私たちの身柄としてはすでに魔導院の監視下にあるから、というところだろうか。
少なくとも、この男の雰囲気や印象は、とてもじゃないが人攫いの連中のように荒事に慣れているような感じはないし、金銭のやり取りが行われるほどの…つまりは私たちに逃げられると困るといった緊迫感はない。
(男が言っていた「買い手」というのは何なんだろうか?…)
疑問に挙げた推測に重ねるようにはなるが、魔導院の中である程度の勢力のようなものがあるとすれば、そこに万人に通用するモノとなれば、単純なところで金銭。
そう考えれば、私たちを未だに「商品」として扱う理由としては間違ってはいない…と思う。
しかし、そこに発生する金銭があるとすれば、それは恐らく手間賃のような物だとは思うが…。
ここで「買い手」が付かなかった場合として言われたリルの行く末は、運が良ければ魔導院の下働き、運が悪ければ慰み者…といったところだろうが、この男の感じからすれば、後者の可能性が高い。
それは断固阻止したいところではあるが…逆に考えれば、魔力を擁する私やメルの場合、扱われ方の想像は難しいがすぐに命の危険に晒される事は無いだろう。
(魔導院が魔力に長けたものを求める理由は…)
この予想、詳細はともかくとして、難しくはない。
少なくとも、この魔導院という施設に勤める者の中に魔力が使える者が居ないという事はあり得ない。
しかし技術者、もしくは研究者としてであれば、代えが利くわけではない。
つまり、人体実験…そういった類いの目的があるとは思う。
しかし、それは先ほどの推測からの考えも同様だが、すぐに消費される物ではない事も解る。
もしそうであれば、もっと頻繁にこういった取引が行われるわけで、頻繁であればあるほど人攫いという行為は一般の危険とされる常識として根付くはずだ。
リルとメルの姉妹にしても、親ないし保護者から注意はされているだろうが、あくまで怪我などに対しての物だろう。
(結局のところは出たとこ勝負…って事になるか…)
中庭を通り抜け、再び扉を潜った先、魔導院の敷地の中なのは間違いないはずだが、私の知る研究施設の意匠は建物からは感じられない。
陽が落ち切った時間というのもあるが、片手で数えられる程度の灯と、主に外気を取り入れるためだけのような窓のせいで、真っ直ぐに伸びる廊下の薄暗さを際立たせる。
廊下の先の扉の前で男はこちらに振り向き言い放つ。
「この扉の先の階段を降りろ。下で別のヤツが待ってるはずだ。グズグズすんじゃねぇぞ?」
脇に立ち、私たちを扉の先へと促した。
3人共に扉を潜ると、扉は閉ざされ、重苦しい金属音と共に施錠される。
牢屋ではないものの、再び閉じ込められたような形になったが、螺旋状の階段が見える程度には明るいし、少なくともこの階段部屋に私たち以外の気配はなさそうだ。
『リル、メル、多分この先は話すのも難しいと思うから良く聞いてね?』
前置きをして、推測した内容を出来るだけ簡単に説明して、この後の私の行動に合わせてもらうように伝えておいた。
2人の頷く様子を確認し、私たちは改めて地下へと続く階段に足を踏み出した。
方向感覚が無くなる程度に下った先には予想通りに扉が設けられており、手枷で少々不自由な腕を伸ばして扉を開く。
扉を入ってすぐの様子は薄暗いものの、奥に見える幕の先は地下施設としては十分過ぎる光量が見て取れ、その脇には白衣の人影が立っているのが解る。
「こっちよ。」
顔は見えないが、声色は女性。
この場所や状況の中、さも当然のような振る舞いに少しだけ狂気を感じてしまう。
「あまり時間をかけたくないの、早くして。」
冷たい物言いに従い、私たちは言われたとおりに光が差す幕の向こうへと進む。
幕の先はそれなりに広い部屋なか、私たちの立つ位置は部屋全体から見ると僅かに高い壇上のように造られており、こちらより僅かに抑えられた明りの中で十数名程度の姿、その殆どは先程の女性同様に白衣を纏っている。
改めて、ここが魔導院なのだと言う事が浮き彫りになった。
私とメルに着けられた首輪についてはまだバレてはいないようで、ひとまず周囲に立つ人影の様子を伺う…のだが…
その中の一人の姿が私の視線を釘付けにさせ、同時に大きな動揺を招いた。
腰元まで伸びる美しい金髪。
整った顔立ちに宿る瞳は、純真さを醸し出す印象と、その場に居る者たちに安堵感を与えるようにも感じられた。
『嘘…でしょ…』
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催事に集う姿の一つはフィルの動揺を誘う。
揺れる感情の中で3人が無事に解放される方法はあるのか?
次回もお楽しみに!




