64話 嫌悪
64話目投稿します。
牢獄で企む逃亡の手立て。
失敗の先に待つものは不幸な未来しか無い。
「…フィルさん。」
食事を運んできた男が立ち去ってから少し、リルが小声でこちらに声を掛けた。
「多分、もう大丈夫、です。」
『ありがと。咄嗟に合わせてくれて助かったよ。』
身を起こし姉妹の様子を伺う。
2人とも男が訪れる直前の私の行動に興味津々なようで、こちらの言葉を待っている様子が見て取れる。
特に妹、メルの方は、自分の首に付けられた首輪を頻りに引っ張ったり突いたりしている。
『ちょっと落ち着いて、ね?』
足首に付けられた傷のせいで互いに身軽に動けたりはしないため、四つん這いのままで近づく。
『メルちゃん、アナタの首輪、今から壊すけど、静かにできる?』
見た目の年齢としては、イヴとさして変わらない印象の姉妹の妹、メルに言い聞かせると、コクコクと頷き期待の目でこちらを見上げてくる。
いいこいいこ、とメルの頭を撫でつつ、もう一方の手を首元に移し、首輪に触れ指先から魔力を通す。
ピシっ!と小さな音と共に首輪に亀裂が走る。
私同様に首輪の見た目はそのままに、その効力のみを破壊する事が出来た。
「ぁあ…おねぇ、ちゃん…おねえちゃん!」
声が出せるようになった喜びに、姉に抱きつくが、私とリルからしーっ!と諭され、しゅんとなる。
が、リルにも頭を撫でられ、笑顔が戻った。
(良かった…)
次は…
『とりあえず、美味しくはなさそうだけど、ソレ食べよ?』
床に転がる布袋を示す。
『2人はここに来た時の事は覚えてる?』
与えられた食料、味に期待はできなくとも僅かに腹を満たす事はそれなりに。
硬いパンを千切っては口に運び、食事の話題として今後の策を練るための確認を取る。
リルは首を横に、対してはメルは思い出すように天井を見上げ、
「ここにくるまえ、おっきな煙突がみえたよ?もくもくーって…」
煙突、煙突…
あくまで私が覚えている王都の景色を思い返す。
普通の家屋に設けられた煙突ならそこまで大きいものじゃない。
印象に残るほどの大きさならその施設も限られるが…
『煙突…鋳造所とかかな…』
何となく挙げてみた私に対して、メルの見た煙突という言葉に思い当たるのを浮かべたリルははっきりと、
「魔導院…」とそう言った。
「魔導院は王都に暮らす者じゃなくても知ってる場所、目指す者にとっての憧れの場所…です。」
恐らくその方面に興味があるのだろうが、然してその表情は暗い。
もしかしたら己や妹が連れて行かれるかもしれない場所、それが人攫いのような不当な扱いの元で、という可能性に戸惑いと不安、失望は隠せない。
同時に、私が思っていた以上にリルの聡明さが解る。
『…民衆の憧れの組織の裏の顔、ね。』
笑えない、が今考えるべきはそこじゃない。
『リル。気持ちは解らないでもないけど、今は置いておこう?。』
今は3人…いや、せめてこの姉妹だけでも無事にこの状況から脱する事。
この牢獄の出口は見える範囲で言えば階段が一つあるだけ。
階段の先は外に繋がってはいるだろうが、誰しもが出入りできるような場所では無いだろう。
監視の目ははっきり言えば雑だ。
けれど、理由を挙げれば当然の事だとも思う。
一つ、足に傷を負わせ走れないようにしている事。
二つ、魔力の使用を阻害する首輪。
この二つの理由が大きい。
『まぁ、そのうちの一つは消しちゃったけどね。』
トントンと首輪を突きながら2人を見ると、クスっと小さく笑う顔が浮ぶ。
気が紛れたのなら良かった。
姉妹に説明しながらも逃亡の話し合いは続く。
ちなみに私の魔力に関しての話はひとまず、説明するのも難しい、と今の所は置いておいた。
3人で無事に脱出できたらゆっくりと話をしようという事で納めた。
バタン!と扉が開く音。
階段の先からこの牢獄に僅かな光が差す。
降りてくる足音と、階段脇の小さなテーブルに置かれたランプに灯を着ける音。
「…よーぅ、お嬢ちゃん方、元気にしてっかよ?、メシの時間だぜ。」
むくりと横たえていた体を起こし、男の顔を睨む。
「おっ、新入りのお嬢ちゃんも起きてみてぇだな?、そらよ。」
仲良く食べな、と昨晩と同じ物を投げて寄越した。
「へっへっへ、そう睨むんじゃねぇよ。あっちの2人みたいに大人しく怯えてりゃ良い買い手が付くだろうぜ?、な!」
下卑た笑い声は演技でなくても虫唾が走る。
「あ、あの!、私たち、どうなるの?!」
鉄格子に喰い付く勢いでリルが男に問うた。
リルも中々に演技が上手い…侮れないな、この姉。
「あー?、あぁ、まぁいいか。」
仕方ねぇな、と前置きをして男は軽そうな口を開く。
「おめぇらの面倒見るのも明日までだ。」
と。
男が言うには明日の夜に奴隷市が開かれ、私たちは目玉商品として並ぶらしい。
鉄格子の隙間から腕を伸ばし、リルの顎を掴んだ男はニヤニヤと笑いながら付け加えた。
「お姉ちゃんは2人と違って買い手がつかねぇかもなぁ?、まぁそうなったらオレ等が面倒見てやるぜぇ?」
舐め回すようにリルの全身を眺める目。
リルも、メルも、そして私も、嫌悪感しか無い。
「へへっ、これ以上遊ぶとそっちのお嬢ちゃんに噛みつかれそうだからな、止めておくぜ。明日まで大人しくしとくんだな!」
リルの体を牢屋の奥に押しやり、男は牢獄を後にした。
『リル、良く我慢したね。辛いことさせてゴメン…頑張ってくれてありがと。』
ううん、と首振り
「こんなの何でもない、です。」
リルの迫真の演技の甲斐もあり、ひとまず私たちの状態はバレてはいない事、動きがあるのは明日という事。
そして、このまま何もしなかったらリルが酷い目に合う事だけは良く解った。
『…絶対に逃げようね。』
3人で顔を見合わせ、大きく頷いた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
策を練り、仕掛けを添える。
3人の小さな戦いはもうすぐ始まる。
次回もお楽しみに!




