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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第四章 異世界
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60話 銀の証書

60話目投稿します。


成果の上がらない調べ物、図書館の主は一つの提案を挙げる。


『…キュリオシティ。長らく交易の要点として機能していた町の開拓がはじまったのが今から5年前…』

つまり、この図書館は開拓の始まりと共に建てられた…という事になる。

むしろ、この図書館こそが開拓の第一歩と言ったところだろうか?

その問いかけをリーブに聞いてみると、

「その喩えの方がこの町の成り立ちとしては正しいと言えるかもしれませんね。」

一般的な学術書や物語を綴った本が並ぶ区画とは別の一角、この町の歴史書とも言える文献が並ぶ本棚の前で数々の蔵書を手に取り頁を開いていく。


この一角は今は棚から取り出された本が積み上げられ、注意してないと本の雪崩が起きそうだ。

「フィルさん、朝からずっとです。お茶を淹れますので、休憩にしませんか?」

『あ、すいません。ついつい…』

早朝から始まった本との睨めっこは開拓と銘打つ前の記録から始まり、漸く「開拓」の始まりに辿り着いたといったところだろうか?

集中しすぎて回りが見えなくなってしまうのは悪い癖と解ってはいるものの、リーブに掛けられた言葉に少々恥ずかしい気持ちが湧いてくる。


ぐぅ~~~…気の抜けた音が鳴り響く。私のお腹だ。


『あぅ…』

「ふふ、ついでに何か口に入れるものでも用意しましょう。キリのよいところであちらの机にお越しください。では。」

連日私の調べ物に付き合って貰えるだけでなく、食事やお茶の用意までしてくれるとは…

『リーブさん、いいひと~』

どうにも緩む顔を何とか引き締め、再び本に視線を戻す。


『うーん…やっぱり少ない、か…』

もう少し目を通したい本を何冊か抱えて、読書用に設けられた机に向かうとリーブが軽い食事の準備を済ませたところだった。

「どうですか?」

『色々分かった事もあるんですが…やはり蔵書が少なくて…』

食事の席に促され腰かけた椅子の向かいにリーブも腰を下ろしながら「ふむ…」と思案する。

「フィルさん。旅の途中という事であれば、王都の図書館などに足を運んでみてはどうでしょうか?」

少し考えこんだリーブの口から提案されたのは、私も考えていた事の一つでもあった。

『王都…ですか。でも旅の途中の私が簡単に立ち入れるものですか?』

旅人という身分は私が居た世界ではある意味特殊なものだ。

冒険都市キュリオシティのように自由に過ごせる町においては、さして困る事はないが、王都のようにしっかりとした規則、規律の元で防衛や警護されているような都市ではそれなりの手続きや証明がなければ公的な施設の利用も限られてくる。

「本来であれば難しいでしょうね。」

と言いながら、懐から取り出した銀色の小さな板をこちらに差し出す。

『これは?』

「分かりやすく言えば紹介状のようなものですね。それを持っていれば、王都である程度は施設の利用ができるでしょう。」

腐ってもこの町の司書代表ですので、と苦笑しながら口を開く。

『で、でも…昨日お会いしたばかりで、それこそ私は身分を証明するものすら持っていないんですよ?』

お茶を一口すすり、ゆったりと背もたれに体を預けながらリーブは言う。

「フィルさん。僕も多少なり人を視る目は持ってるつもりです。」


「アナタは僕が今まで出会った誰よりも強い探求心、そして何より知識に対する純粋な心を持っています。少し気掛かりと言えば…そうですね。焦り…でしょうか?」

確かに人を視る目は持っているようだ。

この世界を調べる事の楽しみはあれど、それは出来るだけ早く元の世界に戻りたいという焦りから来るところが大きい。

あまり考えないようにしてはいるが、分かる人には分かるようで…少々照れ臭く、頭をポリポリと指先で弄る。

『はは…そんなに分かりやすいですかね?』

えぇ。と断言されるくらいだから周りからみたら余程なのだろうか?…困った。


昼食の後、この町の歴史をまとめた本棚の前、山積みになってしまった蔵書を片付け、図書館を後にする。リーブの勧めに後押しされる形で王都への出発準備をするためだ。

「フィルさん。この二日間。とても楽しく過ごさせてもらいました。ありがとう。」

頭を下げられた私は、両手をぶんぶんと左右に振りながら、

『いえ、お礼なんて滅相もない…私のためにこんなに良くして頂いて、感謝しきれませんよ。』

と返事を返す。

「…気のせいであれば嬉しいのですが…フィルさん。」

入り口まで見送りに付き添ってくれたリーブが口を開く。

「きっと僕は二度とアナタに会えないのではないか?と思うのです…それはとても残念な事ですが、けれど…アナタにとってはきっとそれが良い事なのだという事も分かるのです。」

苦虫を噛むような顔で話すリーブ、恐らく、話すべきか最後まで悩んでいたのだと思う。

『リーブさん…』

「アナタが望む、その場所に辿り着く事を祈っています。」

差し出された手を握り返す。

この町の労働者に比べれば柔らかい手と、その温もりは僅かばかりだが、探し求めているものが必ず見つかるであろうと安心させてくれる程の想いを感じた。

『リーブさん。色々とありがとうございます。私も…アナタに会えて良かったです。』

ありったけの感謝の想いを、握られた手に籠めた。


宿に向かって歩きだし、見上げた空は雲一つなく、王都への出発の日としてはこれ以上ない空と思った。

思ったのだが。


『…今日は宿の特製スープを頂いてから、明日出発しよう!。うん、そうしよう!』

そう口に出し、「焦るな」と助言をくれた図書館の主に感謝した。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


一人歩む旅の新たな目的は王都。

開拓の町を出て目指すその先に映る景色は果たして?


次回もお楽しみに!

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