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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第四章 異世界
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58話 旅立ちの景色

58話目投稿します。


新たな旅立ちの始まりは、優しい温もりに背中を押され、また始まる。

『ふぅ、ふぅ…』

以前、ここと似たような山道を臨んだ時は馬車だった。

登山道として整備されている道は、体力面はともかくとして歩きやすい傾斜で峠へと続いている。

気になると言えば、冬の終わりと共に溶けかけ始めた雪で湿った道。

グニャリと靴底に伝わる感触は乾いたソレより消耗が多い。

『…ふぅっ。』

辿り着いた山道の峠。

ここから先は下り道、頭の中の地図では王都へ向かう下山の山道だ。

疲れた体を休める為、休憩の椅子代りに良さ気な岩を見つけ腰を下ろす。

歩いてきた側の方へ目を向ける。

新たな旅の始まりとなった町、遠目でみれば間違いなくノザンリィの町だ。

(クレン…優しかったな…)

数日前、出発前夜の事は…色んな意味で忘れられない。




『クレン。私、明日に町を出るよ。』

夕食の片付けに手を動かしながらクレンに告げた。

「そっか…そろそろかな?とは思ってたけど、少し寂しくなるね。」

改め数えた一ヶ月半。成り行きのように転がり込んだ私とクレンの同居の日々。

『私もだよ…』

短い間でも共に過ごした中で、私の心の中で暴れる焦燥感を幾度も鎮めてくれたのはクレンとの何気ない暮らしだったのだ。


片付けを終えたクレンは、自室に向かい、何かをその手に持って戻ってきた。

「これ、キミを見つけた時に着てた服…出来るだけ直してもらってたんだけど…」

差し出された装束は、討伐隊の遠征前に半ば無理矢理着せられた服と装備品だ。

『わっ、直してくれてたんだ?…気づいた時は別の服だったからすっかり忘れてたよ…ありがと。』

「元通り、とはいかないかもだけど。ね?」

苦笑混じりに手渡されたソレを有難く受け取った。




その夜、最後の準備を終え、就寝前にゆるりと借りていた自室で紅茶を飲んでいた私の耳に扉を叩く音が聞こえた。

『クレン?、どうぞ。』

促した言葉に、扉が開きクレンの姿が見えた、が、何故か部屋の中に入ってこない。

『どうしたの?』と声を掛けると、意を決したような面持ちでクレンが部屋の中へと足を踏み入れた。

椅子のないこの部屋では、腰を下ろせるのはベッドしかなく、自然クレンも私の横に腰を下ろすのだか、横目に見るクレンの顔は先程までとは違い少々暗い。

伺う表情から、大事な話なのだと思った私は中々口を開かないクレンから視線を外し、彼の言葉を待った。


「べソーク。今更なんだけど…キミの本当の名前を教えてくれないかい?」

べソークと言う名は、目を覚まさない私を指すために診療所で付けられた仮の名前、「来訪者」という意味を関する言葉だ。

目覚めてすぐに名乗る事もできたが、余りに故郷に似たこの町で名乗るべきかを迷い、そのままとしたのだ。

『あー…うん、私の名前はフィル、だよ。』

「フィル、か。いい名前だね。」

『ありがと。』

もう一度、小さく私の名前を呟く。

「…フィル。明日ここを発つと考えてるところで悪いと思った。きっと…何も言わずに送り出した方が、キミのためだって…」

ポツリポツリと紡がれる言葉は、そのひとつひとつが独特の重みを以て私に伝わってくる。

「でも、このままだと俺はきっと後悔するから、聞いて欲しい。」

真っ直ぐにこちらを見つめる視線に少々気圧されながらも、こちらもその目をしかと見返す。

「このまま、この家で…一緒に暮らさないか?」

『………』


『クレン、アナタとの暮らしは私に懐かしい安らぎを与えてくれた…とても感謝してる。この町の人たちも…』

クレンが自らの膝の上に置かれた彼の手に触れ、そっと握る。

『でも、ごめんなさい…アナタの想いに応える事は出来ない。』

彼の提案に魅力が無い、と言い切れぬ程に、この町で過ごした時間は尊い。

『この町の皆が私に付けた呼び名は、その名の通り来訪者でしかない。』

私があの丘に倒れていたのはきっと偶然じゃない。

でも、だからこそ、私は足を止めるわけにはいかない。

『解らないかも知れないけど…ううん、私もまだ良く解ってないんだけど、多分この世界は私が住んでた世界とは違う世界なの。』

この町も、その名前も、この家も、故郷に瓜二つでも違うものだ、とクレンに告げる。

『だから、私は…私の世界に戻る方法を探さなきゃいけない。元の世界で離れ離れになってしまった人たちにもう一度会うために…』

ベッドから立ち上がり、クレンの正面に立つ。

後悔が無いように、と話してくれたクレンの想いの全てを受け入れる事は出来ない。

が、せめてもの感謝の気持ちを籠めてその身を抱きしめる。

「…ゴメン。ありがとう、フィル。」

怖ず怖ずと私の腰に回された腕は、僅かに震えているように感じた。




視界に映る町の景色、やや遠く外れた一つの家。

一時の「オヤスミ」の時間を与えてくれた男性と、その家は、新しい温もりと共に私の道行きに活力を添えてくれた。

『さぁ、行こう!』

振り返り、大きく、強く、私は足を踏み出す。

この世界の正体と、私がここに来た理由を。

あの世界で私を待つ沢山の顔を思い出して。


新しい旅が始まったのだ。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


異なる世界で見る景色は、故郷に感じた違和感をより一層際立てる。

異世界で触れ合う人々が語る世界の歴史は何を示すのか?


次回もお楽しみに!

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