6話 宴の傍に
6話目の投稿です。
領主サマの言葉に返事が出せないフィルに、この先何が待っているのか、まだまだ先は長いですね。
領館前の広場は、すべての町人が集まっても狭く感じる事がないほどの広さを有し、お祭りや祝い事、さまざまな用途に使われる場所だ。
8年ぶりの領主帰還を盛大に祝う宴も、今この場所で行われている。
広場中央には大きな焚火がくべられ、外周に設置された篝火と共に、この寒空の下でも暖かさを届けてくれる。
領主であるアインと、その同行者と思しき面々は広場が見渡せる席に集まり、宴の主旨宛らの盛り上がりが伺える。
広場に集った町の人々は、領主帰還に喜び、各々が領主との挨拶を交わす。
(ほんと、慕われてるよね。町の事ほとんど何もしてないのに…人柄って大事ね)
人から進んで敬われたいわけではないが、自分に同じことができるか?と問われれば答えは否となるだろう。
そういった意味ではとても羨ましくも思う。
領館にほど近い場所に置かれた椅子に腰を下ろして、先ほどの領主との会話を思い返す。
「その正体とキミの力、その探求に興味はあるかい?」
唐突に言われたその言葉に戸惑いを隠せなかった私を見た領主は「ゆっくりでいいよ」と残した。
焚火の温もりがあるとは言え、冷えてきた気温に縮こまっていた体を背もたれに預けるように夜空を見上げ、伸びをする。
夢で見た光景とは違う、本物の星空に向かい、「ほう」とため息をついた私の口から白い息が漏れる。
ドカッ
と、私の隣に腰を下ろし、手に持った椀を私に差し出す者が現れた。
「よう、フィル。浮かない顔してどうしたんだい?」
温かなスープが入った椀を受け取った私は、隣に腰かけた女性の顔を見やる。
『なんだ、エル姉か…ちょっと考え事~』
言動が性格を表すような豪快さを持つ女性、エル姉ことエルメリート。
町の中では比較的年齢も近く、その性格と面倒見の良さから同年代から下の者たちから総じて「エル姉」と呼ばれている女性だ。
その性格に反して、普段は教会で「修道女」として勤めてはいるが…
まぁ面倒見の良さは仕事柄もあるのかもしれないと、思わなくもない。
「かーっ、相変わらずフィルは難しい顔してんなぁ?」
バンバンっと自分の膝を叩き、もう一方の手に持った瓶の飲み物を煽る。
『あー、お酒〜。聖職者なのにぃー。』
ふへへとにんまり笑い、「今日の仕事は終わったからな!」と反論。
そういう問題か?と「教義」という言葉に疑問を覚える。
「お前はちっこい頃から何でもかんでも考えすぎなんだよ。アタシの爪の垢でも飲むか?」
『いい。馬鹿がうつる。』
もう一度、ふへへと笑い。
「馬鹿でいいじゃあねぇか。難しく考えてたって判らんものは判らんし、そもそも人一人の考えなんざ、この世界に比べりゃちっせぇもんさ。」
言ってる事は単純明快だが、確かに一理ある事に、エル姉をまじまじと見つめた。
「?、あ、お前今、やっぱり馬鹿だ、とか思ったろ?」
少し頬を膨らませながら、私の頭をつかんでわしゃわしゃと撫でまわす。
『あぅぅ、もう!やめって。』
手を放し、改めて私を見下ろすエル姉は先ほどよりすっきりした顔をして、ニカっと笑った。
『…ありがと。元気出た。』
私の言葉に満足したのか、エル姉は私に手を振りながら、領主ところへ挨拶に向かった。
その姿を目で追っているところで、ふと、
(あぁ、そうか今回の帰還は領主様だけじゃないんだな。)
今日の自分にあった出来事のせいか、領主の同伴者が居た事に今更ながらに気付く。
領主の傍らに座る女性、話には聞いた事があったが、恐らくあれが領主夫人。
(ということは私の叔母になるのだが…「叔母」って形容しづらいな…)
「見目麗しい」という言葉を絵にしたような女性で…
(はて?…そう言えば…)
母から聞いた話だと、領主夫人はあまり体が強くない方だったはずだ。
(わざわざ体に鞭打ってまで何で同行されたんだろう?…と、あれは?)
よく見ると、もう一人、領主と夫人の傍で賑やかに振る舞う姿を見つける。
それは恐らく初めて訪れる土地と、今宵の宴に興奮しているのか…
(あぁいうのが水を得た魚とか言うのだろうか?…いや何か違うな。)
齢10歳かそこらの少年の姿が伺えた。
ともかく、病弱とまでは言わないが体が弱い夫人が此度の帰還に同行したのは、領主の息子の存在が理由なのだろう。
改めて、はしゃぐ少年の様子を伺ってみると、傍らに父と母の姿も見える。
どうやら少年の好奇心の対象は父なのだろう、年相応のじゃれ合いに笑う父と母の姿に、自分の幼き日を少し重ねる。
(そう言えば…)
と思い耽ろうとしたところに、その思い出の一端であった声が耳に入る。
「よっ、フィル。お前なんか大変だったらしいじゃんか?大丈夫か?」
同い年のカイル。件の少年くらいの頃はよく喧嘩もした友人だ。
私の視線の先を見たカイルは、ハハっと笑いながら言う。
「何か、昔のオレみてぇだ。あの子。」
『懐かしいね。』
物心ついて間もないくらいだったか、うちに良く遊びに来ていたカイルの目的は、私の父だった。
冒険者だった頃の話と、普段から狩人としての姿を見ていたカイルは、父への強い憧れから弟子入りを求めて毎回断られるというのを繰り返していた時期があったのだ。
「あの頃、結局弟子入りはさせてくれなかったけどさ…最近、おっちゃんが言ってた事もちょっと分かるようになってきた気がするんだよ。」
『何?』と聞くと、少し考えた後に、「やっぱ秘密!」と鼻の下を指で擦りながらカイルは答えた。
変なの、と笑う私に釣られ、カイルも笑い、私たちはしばしの間懐かしい話に花を咲かせたのだった。
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