55話 願い事
55話目投稿します。
辿り着いた火口の遺跡は予想以上に壮観で、何処となく見覚えのある意匠。
急ぎ足で駆ける先に現れる姿は、新たな物語と忘れられぬ楔を示す。
『何ていうか…』
溶岩の海…とでも言えばいいのか、その中に浮かぶ遺跡…もうこれは神殿と呼ぶ方が正しいかもしれない。
大きさの規模で言えば、領主の館程はあるだろうか?
造りとしては中心から円を描くような形。
今、この時、何故この神殿が溶岩の中に沈んでいたのかは分からない。
本来であれば地上にあったものとは思うが、用途としてはいくつかの遺跡に触れただけでは何も解っていない。
この場に叔父やロニーのような知識がある人でも居ればまた何か解る事もあるのだろうか?
普段私たちが生活するような建物とは異なり、天井は殆ど無く、外周から見た感じ、中央部分と思われる辺りは塔のような造りにも見え、そこへ向かう入り口と思しき部分が…正面から見える範囲だと2箇所…。
背面側にもあるとすれば4箇所だろうか?
『…うーん、何だろう、見覚えがあるような…』
先に訪れた森の遺跡と同種といったところだろうか?
ゴゴッと揺れる神殿にハッと我に返る。
『っと、のんびりしてる場合じゃない。』
少し小走りに中心部へと向かった。
『あった。ここだ。』
色々と調べたい点はあるものの、時間は限られている。
(行くよ…)
膝をついて目を閉じる。
意識を集中させ、伸ばす指先に、溶岩の中とは思えない冷たい石の感触が触れる。
(森の遺跡で聞こえた声…もう一度…)
仄暗い世界に浮かび上がる私の体。
眼下に広がる景色は、何度目かとなる暗い大地と、点在する光の数々。
そして、鼓動に合わせるように上る光の柱。
(柱の数…少なくなってる…と思う。私が遺跡に触れた分、かな?…)
改めて他の柱と思われる位置を探すと…残りは…3本?…
遠くで上がる柱も、散らばる光も薄ぼんやりとしていて、その方向も曖昧。
(王都を中心とすれば…やっぱり西方とか南方…かな?…)
「…待ってた。」
突然頭に響いた声に、体がビクリと震えた。
(声…前と同じ…)
口に手を当て、自分の声を確かめる…
『…あー…、よし。』
辺りを見回すが、やはり姿は見えず。
『…私は、フィル…あなたは誰?。どこに居るの?』
「…大地を…しずめて…」
前は聞き取れなかった声が聞こえる。
(大地を…鎮める…?)
『どういう事?…しずめるって…』
問いかける私の声に呼応するかのように、少し離れたところに光が浮かび上がり…人の形に変化する。
その姿は女性…腰まで伸びた金髪は、この暗い世界の中で輝くように靡く。
その顔は…悲しそうな瞳が印象的だった。
「…世界が、壊れる前に。」
世界が壊れる前に、大地を鎮める…?
鎮める、という意味を考えるなら、今まさに火山の活動を止めるためにこの神殿に来ているわけだが、発せられた言葉は「世界」
とすれば…近年王国各地で発生している災害を示しているのだろうか?
『どうすればいいの?』
遺跡を巡り触れる事で、その鼓動は鎮まる。
彼女の望みはそれで叶うのか…?
「…私を探して…」
眼の前にある彼女の姿は、幻のようなモノというのは解る。
探すのは…彼女そのもの。
光の柱、ついてはその遺跡を探す以上に見つける方法が解らない。
今一度問いかける。
『貴女は何処に居るの?』
幻影は答えるように頭上を指す。
「…空で、空で待ってる。」
空?。
『空って…』
空に浮ぶ神殿でもあるというのか?
想像を超えすぎて私だけでは理解が及ばない。
ベリズに頼めば探せるだろうか?、などと考えてはみるが…そもそも彼女の言う「空」が言葉通りでもない気もする。
『また貴女と話す機会はある?』
足元の柱から上る光が収まりを見せ始め、この感覚の終わりが近い事を察する。
「…西へ」
示された方向は、推測の範囲で言えば西方。
次の目的地となるであろう土地が決まった。
『分かった…また会ったら貴女を教えてね?』
彼女の瞳は依然として悲しみを浮かべたままだが、その顔に、僅かな笑みが現れたように感じた。
「フィル…貴女を待ってる…私の名は…」
明滅始めた視界を遮るように瞼を閉じ、戻る視界に映ったのは、神殿の景色。
先程までとは打って変わって神殿全体が激しく揺れている。
『え?』
周囲を見回し、急ぎ立ち上がる。
肌に感じる熱が降りてきた時より強い。
(陣が…ない!?)
遺跡に触れる直前までは間違いなく私の周囲に浮かんでいた魔法陣が消えている。
『…はは…どうやって戻ろう、かな…』
この神殿を囲む結界の外は、あらゆるモノの存在を許さぬ溶岩に覆われ、私は今まさに戻る手段がない。
『ちょっと考えが甘かった、かも…』
ぺたりと腰が落ち、目頭が熱くなる。
《フィル、戻ったのであれば、少々急いでくれると助かるのだが…》
突如頭に響いた声に、ハッとし、急ぎ足で神殿の入口へ戻る。
『ベリズ!』
神殿の前で待っていたのは火竜ベリズの姿だった。
《まさか我の魔力を以て覆うとは思いもよらんかったが…マリーという者は凄いな。》
まさかの助け舟だ。嬉しさのあまり、その足に抱きついてしまうが、その体表が熱すぎて『あつっ』と、すぐに離れる事となった。
《…急ぐとしよう。流石に我の魔力も無限ではない…》
多少の熱さは我慢する。
背に乗った私にしっかり摑まるよう念を押し、ベリズはその翼をはためかせた。
神殿の結界を抜け、その体が大きく飛び上がる。
気のせいかベリズを囲む魔法陣が小さくなっているような…
《フィル。其方らには迷惑を掛けた…》
上へ、上へと昇りながら竜は語りかける。
《グリオス殿はこんな我にも寛大な言葉をかけてくれた…》
その話はどこか…
《アイン殿、マリー殿のお蔭で最期に其方の役に立てた…》
ちょっと待って…
《迷惑を承知の上で其方に頼みたい…》
ベリズ、何を言ってるの?
《その剣で、我の角を、斬り落としてくれまいか?》
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古より続く命の光は決して触れられぬモノではなく、また、魂の重さは同じなのだ、と少女は識る。
次回もお楽しみに!




