53話 癒しの焔
53話目投稿します。
火口から昇る火柱を眺め、激闘をそれぞれに労うところ、竜の名と、その力を知る。
『イヴちゃん…その竜。』
振り向いた少女は私の姿を見るや、パァッと明るく笑い抱きついてくる。
あまり力を込められると体が軋む。
「あっ、ごめんお姉ちゃん。大怪我してたよね?」
言いながらサッと手を離す。
先程までの戦いが無かったかと思える程に消えてしまった緊張感。
その顔を見上げる私の視線と竜の視線が交じる。
《人の子よ…済まなかった。》
頭に直接語りかける声は竜が発したものか。
この場に居る全ての者が、耳元に手を当てたり、周囲を見回すような動きを見せる。
長い年月を孤独に生きてきた中で、ふと目にした「人の営み」は竜にとって感じたことのない羨望と、同時に激しい孤独感を生み出す事だったという。
胸の奥に湧き上がる寂しさは世界を彷徨っても癒えることなく、より一層の闇を深めるに相成った。
突如として世界に巻き起こる天変地異を誘発するように気がつけば黒い影に取り込まれ、内なる孤独は抑えきれない破壊衝動に変貌する事となり、本能の赴くまま目に映るモノを焦土と化した。
《少年よ。汝の、いや汝等の御陰で我に返る事ができたのだ。改めて礼を言おう。》
頭を垂れるその姿は至る所に傷を抱えながらも凛々しい。
「じゃから人の世を識れと言ったのじゃ。」
やれやれ、とシロが歩み出る。
《…おぉ、其方、雷狼か。》
「今頃気付くとはの…相変わらずじゃな、ベリズよ。」
『シロ、あなた知り合いだったの?』
「然り。」
古い知人。
そもそもシロはこの地域にあった住処を取られたような言い振りだったと思ったが…
「そもそもわしが本気を出しておれば…」
ピシャリと立ち上がり…というか四足歩行はどうした?
腕を組み口を開くシロの様子を見たカイルの顔がゲンナリしている。目配せしてみると案の定両手開いて溜息と共に肩を落としている。
『シロー、話長くなるなら後にしてねー』
むぅ、と口を紡ぐシロを他所に、
『えぇっと…ベリズ、さん?、さま?』
《呼び捨てで構わぬが…その前にどれ…》
ベリズという名の竜は、私に指を伸ばし爪の先で私を突付く。
『っつ…』
やはり、と頷き今度は大きく息を吸い込み、口を開く。
喉元が赤く輝いたと思った瞬間、私の体が赤い炎に包まれた。
私を含め、周囲の全員が驚き、中には武器を構える者すら居る。カイルもその一人だが、
『わっわっ、待ってまって!、これ熱くない…というかむしろ心地良いよ。』
《本来我の炎は活性を司る。今、其方の治癒力にソレを使ったのだ…他にも我のせいで傷を負った者が居れば出てくるがよい。》
結局、少しばかりの遠慮もあってか、ベリズの前に歩み出たのはカイルのみだった。
「小僧、両腕、両足、しっかり動くか確認しておけよ?。一瞬とは言え、わしの力を全て宿したのだからな。」
ぐっぐっと準備運動のような動作。
「んー…なんか足が変な気がしなくもない。」
「ただの痺れじゃろ。」
二人のやり取りを横目に見ながら、私は先ほどまで倒れていた場所へと向かう。
母から譲り受けた旅行鞄は革の肩紐が焼き切れてしまった。
『あぁ、黒焦げだわ…母が見たら怒られそう。』
拾い上げた鞄を払い、土埃を落とす。
(お母さん、ありがとう。命拾いした。)
母から譲り受けた旅行鞄は曰く火竜の革で造られたというソレは、見事に燃え尽きる事なく私の背中を護ったのだ。
おかげで盛大に吹っ飛び、全身の骨に傷を負わせ、別の痛みで死にそうにはなったわけだが…
『眉唾モノだったけど、持ってきて良かったわ。』
『イヴちゃん、アナタは大丈夫?』
影を喰らい、「空腹感」が多少満たされたのか、どことなく嬉しそうな様子。
「大丈夫だよ。良かったねお姉ちゃん。竜さんに治してもらって。」
そうね、と彼女の頭を撫でると、まるで猫のようにゴロゴロと嬉しそうに目を細める。
『今回はイヴちゃんのお蔭で助かったけれど…できれば危険な事はしないで、ね?』
「フィル。体はもう平気かい?」
叔父とグリオスが話しているところに足を運ぶ。
周囲にはオスタング、王国の両兵士たちに、マリーの姿も見える。
『えぇ。流石に肝が冷えましたが、ベリズのおかげで何とか助かりました。』
「フィル、お主もカイルやシロ殿同様によくやってくれた。戻ったら盛大に宴を開くからな!楽しみにしていてくれ!」
『ありがとうございます。グリオス様…マリーさんもありがとう。助かりました。』
「恐縮です!、私も流石にフィル様を見た時は肝が冷えました…しかし、妹に叱られなくて済みそうです。」
マリーもグリオスも笑顔を浮かべ喜ぶ。
その姿を見て、安堵するが…私としては竜の今後が気になる。
『グリオス様、一つ伺いたいのですが宜しいですか?』
うむ、と頷き、私が言うより先にその問いを並べる。
「ベリズ…と言ったか?、あの竜の今後について…だな?」
『えぇ、その通りです…』
「わしとて話は聞いていたし、実際にこの目で見ておるからな…あの御方の処遇は特に考えておらぬよ…ただし、今後は辺り構わず焦土とせず、逆にこの地の護り手となってくれれば嬉しいのだがな。」
ふむ…と一旦考える。
(ベリズの印象からすればしっかりと話せばグリオス様の希望は叶う、と思うけれど…)
「町に戻ってから改めて時間を設けましょう、この場で全てが解決するわけでもないでしょうから。」
とマリーの提案。
それが合図となるように、激戦を終えた私たち一行は、オスタングの町へ凱旋するのだった。
当初よりの形をほぼ失ってしまった火口は、未だ短い間隔での火柱を立ち昇らせている。
(竜の問題が解決したら、今度はこの火山を何とかしないとね…)
輝くような赤い光は、空を穿ち、灰の粉を舞わせる。
(何だろう…胸騒ぎがする…)
一定の間隔で立ち昇る火柱は、どことなく生き物の鼓動を彷彿とさせた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
一つの「戦い」は終わった。全ての戦いが終わったわけではない。
感じる予感が示すものは何か?
次回もお楽しみに!




