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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第三章 魂の器
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52話 結末の形

52話目投稿します。


放たれた最後の一撃。眩い光の中から浮かび上がる影は驚愕の結末を招き入れる。

コヒュ…コヒュ…と喉に響く音。

二度の衝撃は切り傷擦り傷だけに留まらず体の内部にも甚大な影響だ。

(肋骨は何本か折れたかな…肺に穴とか開いてなきゃいいんだけど…)

徐々に戻ってくる視界の隅で、シロが竜の注意を引いている姿と、正面には崩れかけた火口の淵。

握ったカイルの手を少し握った後、その淵を指さす。

時折、その淵から吹きあがる溶岩。

同様に指で示した場所を見てからこちらに視線を戻す。

(大丈夫、カイル。だから…)

そんな意思を籠めて、その目を見つめ、首を縦に振る。

『…つば、さ…たたい、て…か、火口へ…う、ぐっ』

短く、端的に、伝えた言葉。それを聞いたカイルは頷き。

「少し休め。後は…」

任せろ。と


「フィル!、カイル君!、大丈夫か?」

耳に入るのは叔父の声と、数名の足跡。

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」

カイルと入れ替わり、叔父とイヴが私の体を支えなおす。

「待ってろ、フィル、あんまり魔力も残ってねぇけど、少しはマシになるだ…」

視界に入ったエル姉が、私に手を翳そうとするが、何とかその手を掴む。

首を横に振り、カイルを指し示す。

私の意図は伝わったようで、エル姉は頷き、尽きかけの魔力をカイルに向ける。

「ごめん、エル姉。アイン様、イヴ。フィルを頼む。」

すっと立ち上がり、背を向けるカイル。


いつもは気にしてなかったのに、こんな時に改めて気付く。

いつの間にこんなに大きな背中になってたんだろう?

ダンスの時だってそう。

(アンタはいつも背中見せて、任せろって言うんだ…)

だから、カイルはやってくれる。

私がやりたくてもできない事を代わりにやってくれる。

だから私は、カイルを信じてる。

私の頬を伝う雫は、痛む体のせいじゃない。

(アンタに任せるから…お願い。)


「シロ!!」

カイルの掛け声と共に、走る方向を確認したシロが竜を誘導するようにその周囲を舞う。

先ほど魔法陣から展開された氷の欠片はもはや見る影もないが、翼を何とか止めている事が唯一の救い。

あの翼が再度羽ばたくようになれば、私たちにもう勝ち目はないかもしれない。

(お願い、カイル…)

すでに限界のはず。

微量の癒しを施されているとしても、その効果は決して高くはない。

「…そろそろ俺たちも限界なんだ。だから終わらせるんだ!」

時折カイルの体が青白く光るのはそれだけ無理をしているのと同義。

(はは、あの馬鹿、4回って言ってたのに…後の事何も考えてないな…人の事言えないけどさ…)


地が揺れた。

多くの瓦礫をその口に呑み込み、膨らみ、より強い噴火を解放させる大地の力。

「キュキュッ!!」

上がる火柱にこの場の全ての者が気を取られている最中、火口付近から飛び出す黒い影。

「カイル!マタセタ!!」

黒い球体に見えたそれは、その身を回転させながら戦場に辿り着いたノームだった。

その背中に背負った布袋をカイルに向かって投げつける。

「ノーム!!、待ってたぜ!!」

布袋は、カイルの目の前、岩肌に突き刺さった。


「ヴェルンのおっちゃん…助かった。」

布袋の先端から覗く柄。

以前の剣より長いその柄を握りしめる。

岩肌から引き抜いたその剣、決して長くはない刀身は昇る火柱の輝きを反射し、炎のように赤く輝く。

遠目で見守る私たちの視界には、竜の青い炎とカイルの剣が放つ赤い光、その対峙が緊張感を高める。


やがて、火口から立ち昇る火柱が収まり、カイルの剣に灯った光も収まる。

「シロ、少し力を貸してくれ…」

いつの間にか、カイルの足元に戻ったシロ、その頭角が今までになかったほどに輝く。

「どうなっても知らんぞ?、もう加減できる余力もなさそうじゃわい。」

小さなその身を精一杯伸ばし、頭角に集中させた力場がカイルの体に伝わる。

「構わねぇさ、いっそ全部寄越せ。」

「小僧…あとは任せるぞ…」

力を使い果たしたその身は、ゆっくりと地に倒れた。


「いくぜ…」

ぐぐっと足に力を籠める。

ピシッと足元の石が砕ける音を合図に、その体が視界から消える。

少しの間を置いて、竜の体が青紫の光に包まれた。


ズガァァァン!!


耳を劈く音と共に、光の中に浮かぶ竜の輪郭が地に伏した。

消えて行く光の後に残った姿。

カイルの剣が竜の頭に振り下ろされている姿だった。


力尽きた竜と、力を使い果たした少年。

しばしの沈黙の後、動かない両者の均衡を崩したのは、ふらふらと体を起こすカイル。

「あぁ…もう、動けねぇや…」

と呟きながら、起こした体はそのまま背後へと倒れる。

手から零れた剣が、カシャンと落ちる。


その姿を視界に収め、兵士たちの口から次第に歓声が沸き、動ける者はカイルの元へと走り寄る。

「やった!、やったぞ!!」

「あの少年、やったな!!」

などと口々に沸き立ち、喜びと安堵が終わりを告げた戦場に溢れる。




各々、動けぬものは肩を借り、怪我人の治療を行う者、瞑想で魔力を補充する者

すぐさまこの場所から撤退できるような余力はさすがに討伐隊の誰しも持ち合わせては居なかった。

故に訪れる絶望はこの場の全ての人を凍り付かせるには十分だった。


力尽きたと思われた竜の体が動いた。


だが、その絶望は思いも寄らぬ展開と結末を生む事となった。


「竜さん、苦しいよね?」


ふわり、と白い影が竜の眼前に降り立った。

「イヴ!?」

最初に驚きの声を上げたのはカイル。

倒れたままのカイル、駆け寄った兵士たちと竜の間を割って降り立ったイヴの動きは誰も気付いてなかったのだ。

今の今まで私の傍らに居たはずの少女がそこに浮いている。

痛みで動けなかったはずの私ですら、少女が居たはずの場所と、眼前の少女を交互に見る。

が、私の傍らにはその姿は当然無い。


「その影、イヴが喰べてあげるよ。」


掲げられたその手に、竜の口から黒い影が噴き出し、右手に吸い込まれる。

(あぁ…そうか…やっぱり気のせい、じゃなかった。)

瞼の奥の暗闇で見た竜の光は、確かに「何かに覆われている」ように見えたのだ。


幸いというべきか、魔法陣を使った後、即座に瞑想を試みていたマリーは、多少の魔力を回復させていたようで、私の元に駆け付けたマリーは、エル姉を介して私の応急処置を行ってくれた。

全快とまではいかなくとも、肩を借りて何とか動けるようには回復した私もマリーの肩を借り、カイルの下へ向かう。


「竜さん、寂しかったんだね。イヴと同じだ。」

竜の口から噴き出した影を喰らい終えたイヴは、ゆっくりと地に足を付け、その体にそっと触れた。

ぐるる、と喉を鳴らす竜からは先程までの威圧感は消えていた。


私の後ろ、エル姉に拾い上げられたシロが弱々しくも悪態をつく。

「…本当に手間を掛けさせるヤツじゃ。」

感想、要望、質問なんでも感謝します!


長くも短い戦いは終わりを告げ、また新たな幕への道標を生み出す。


次回もお楽しみに!

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