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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第三章 魂の器
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51話 無意識

51話目投稿します。


災厄と称されても可笑しくない巨大な力、徐々に追いつめられる討伐部隊に勝機はあるのか?

(あー…暑い…)

王国の北に位置するノザンリィの夏は短い。

そう長くはなくとも北の地での環境に慣れている私やカイルはすこぶる暑さに弱い。

癒し手による暑さや熱への加護があるとは言え、流石に長時間、活動が活発な火山の、しかも火口付近に立ち続けるのは辛い。

というより、すでに視界にはうっすらと靄がかかったような気もしてくる。

しかし、今はのんびりと腰を下ろして休む事は許されない。

ある意味では()()()()方が楽にはなれるのだろうが…

『ふー…』

肺に溜まった空気を吐き出し、少しでも体を落ち着かせるように深呼吸をする。

「澄んだ空気」とは呼べないソレは私の頭を冷やすには至らないが、動けなくなるよりはマシ。

(今のところ、大きな被害はない…。今のところは、だ)


少し高い位置から見下ろされる視線のヌシは、こちらの様子を伺いつつも何かを待っているようにも見える。

時折口の端から噴き出す青い炎は、この辺り一帯を焦土に出来る程の代物なのだが、一息にそれを使わない理由は何なのか?

(何か起こるってこと?…それともまた別の…)

瞼を閉じ集中。

光の閉ざした意識の中、仄暗い夜空。

幾度かの繰り返しで何となくこの世界の「使い方」が解ってきた。

これも件の遺跡に触れた事が理由なのだろうか?。今はそれに思考を及ぼしている場合ではないが…


大地に付いた掌から感じる事象。

予想が正しければ、恐らくは、割れる。

『皆、揺れに備えて!…マリーさん!!』

声を張り上げ、陣を保つ兵士と、カイル、シロに告げ、同時に後方への合図を送る。

翼を羽ばたかせ中に浮かぶ竜の周囲に、青い炎とは違った青白い光が浮かび上がる。

(魔法陣…これがマリーさんの策…)

呼応するかのように後列の魔術師たちも術式を唱えているのが見える。

多人数の魔力を使った魔法陣の展開、それがマリーが考えた「竜の隙」

後衛の魔術師と、更に後ろの殿部隊の全ての魔力を使う事による捨て身の方法。

『カイル、シロ、ここで決めるんだよ!』

後戻りはできないし、逃げる場所もない。そんなつもりも毛頭ない。


竜を捉えた魔法陣は球体を模りながら、浮かぶ文字から徐々に氷が現れ始める。

流石にこれは自らの予想の範疇を超えているのか、身じろぎをするが足先から徐々に氷に囚われていく。

やった…と思ったのもつかの間。

間もなくその身が全て氷に包まれるかと思われた勢いは完全に魔法陣が形成される直前に動きを停める。

「ぐ…ぐぐ…」

魔導師の口からくぐもった声、中には膝をついて伏す者も出始める。

高度は幾分下がってはいるが…これはダメだ。

『シロ!』

私が叫ぶのと同時に、シロが雷光を放った。

が、やはり完全に動きを止めるまでには至らない。

(だめだ!、破られる!)

足を出そうと、身を傾けた私のすぐ横を、風が駆けた。


「スゥ――……ぜぁっ!」


瞬間、カイルの体は竜の頭上に。

息を吸い、振り上げられた拳は、掛け声と共に額の中心に振り下ろされた。

「っくっそ!、かってぇな!!」

「小僧!」

シロの叫びと同時に、カイルが飛びのき、再び竜に落ちる雷光。一発目よりも大きい。

「っぐ…」

着地し言葉通り動けぬカイルに向かって依然として怯まぬ鎌首は、青い炎を溜め込んだ口を開き、自らの頭部をも上回る大きさの火球を放った。


「体が勝手に動いた」というのは私も聞いた事がある。

自分はそれほど体を動かす事が得意ではないから、聞いた事があっても縁がないものと。

思っていたんだ。


(はは、これが…そうなんだね…間に合って良かった。)


迫る青い火球とカイルの間に割って入った私は、両手を広げカイルの盾になる。


「フィ――」

瞬間、私の視界に入ったのは目を見開いたカイルの顔。

強烈な熱と、ドスンという音と振動。

衝撃と共に、私の体は中を舞い吹き飛んだ。

(…う、ぐ…)

背中に浴びた一度目の衝撃と、吹き飛び転がった二度目の衝撃。

二つの衝撃が私の体の自由を奪い、呼吸すら覚束ない。

(生きて、る…)

体が自分の意志と反して痙攣を起こす。

「フィィィィイイイイル!!!」

痛い。

(耳…大丈夫。聞こえるよカイル…無事、良かった。)

痛い。生きてる。

(目…開かない。ちょっとまずい…)

痛い。意識もギリギリ。

(手…少しだけ動く…)

痛い。大丈夫…大丈夫…多分。

(口…あまり動かないな…まず呼吸…)

『……っぐ、ゴホッ』

喉の奥、血の味がする。呼吸は少しだけ回復したが、喉から上ってきた血を吐き出したくても、体が起こせない…むぅ、困った。

「おい!フィル!!フィル!!!」

『……んぐ、ゴフッ』

駆け付けたカイルが私を抱え起こし、案の定私の喉から血が零れる。

抱え起こしてくれたのは助かったのだが、揺らさないでほしい、と、この時ばかりは心底思った。

その様子を見たカイルは、ハッと我に返った様子で、揺さぶりを止めてくれた。

(逆に死ぬかと思った…)

血を吐き出したおかげで呼吸も少し改善され、手も何とか動く。

添えられたカイルの手に重ね、合図を…


『…っつ…カ、イル…』

重ねられた手を、今できる限りの力で握りしめる。

『まにあ、った、よ…』

感想、要望、質問なんでも感謝します!


弱弱しく光る勝利の鍵を、絶望の淵から掴み取るのだ。


次回もお楽しみに!

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