50話 勝利への賭け
50話目投稿します。
辿り着いた竜の住処。護るため、取り戻すため、鎮めるための戦いが始まる。
「重装隊!前へ!!」
火口から少し離れた距離に展開する陣は、背丈の半分以上ある盾を構えた重装兵を先頭に、食い止めた相手を叩く歩兵、遠距離攻撃を降らせる弓兵や魔法兵、その後方に回復や支援の魔法を受け持つ癒し手の兵が位置する。
大規模な戦場で使われる一般的な形だ。
陣形の更に後方には王国兵と共にイヴや叔父、グリオス、マリーやエル姉が防衛線として控えている。
まず私たち討伐隊がやるべきことは整地。
「爆破準備完了しました!」
火口を囲むように設置された火薬筒に点火して火口付近の地面を崩し、あわよくば竜の生き埋めも狙う算段ではあるものの、後者は望めないだろう。
その程度で済む話なら苦労はない。
一時でもこの場が火山の脅威に見舞われないようにすること。
『シロ、行こう!』
私たち同様に竜の様子を伺っていた監視役と共に後ろに下る。
安全な距離まで戻ったのを確認した所で後列に陣取っていた魔導師の一人が幾つかの火球が火口と同じ形、円状に飛ばす。
ドドドゥン!!、という爆発音と振動とほぼ同時、別の魔導師が発した風魔法が火口を囲むように巻き上がり、火薬の爆発と相まって巨大な火炎竜巻を生み出した。
竜巻の熱気がこちらにこないのは魔導師の力量に依る物だろうが、恐らく使い手はもう大きな魔法は使えないだろう。
火を防ぐための手段は現状数えるに心許無い。
最初の作戦はひとまずの成功。
竜巻が消えた視界にはそこそこ広くなった岩肌と揺れる地面。
「来るぞ!」
青紫の光が宿るシロの頭角は竜巻に巻き上げられた小石を弾き、宛ら雷の結界を作ったかのようだ。
「フィル!、下がれ!」
シロの横に飛び出してきたのはカイル。こちらの体にも時折小さな雷光が見て取れる。
シロの力に呼応しているのだろうか?
『アンタ、武器ないじゃん!』
「それくらいの時間は何とかするさ、任せろ!」
とは言ったものの、カイルの額の汗はこの場の暑さのせいだけではなさそうだ。
眼前の地面が次第に盛り上がり、岩間から青白い炎が噴き出す。
『さぁ…ここからが本番!』
いざ「やるっきゃない!」と開き直ってしまえば不思議なことに恐怖に対しての笑みすら湧き出す。
(集中しろ…護りたいもの、思い出せ!)
目を閉じる。
周囲を視る。
瞼の裏は仄暗い夜空だ。
(感覚が…被る…あの世界…)
『右』
炎が右手側に立ち昇る。
『二人共、3歩後ろに。』
(凄い光…でも何か…変だ…)
カイルとシロが立っていた場所に炎が掠める。
「わわっ、あつっ!」
前髪までは避けきれなかったみたいだ。
瞼の裏の世界に光る竜の輝きはとても強い。
でも何故か…いや、何かに覆われているような…
『…ん…飛ぶ…?』
青い炎を噴き上げながら、竜が岩の下から勢いよく飛び出した。
翼を羽ばたかせ、滑空した後、ゆっくりと高度を下げるが…地表に降りる様子はない。
『あ、危ない!』
竜は私たちの後ろ、陣を敷く部隊に向かって炎を吐いた。
陣の先頭、重装兵が構えた盾がみるみるうちに赤く染まる。
盾を持つその手から煙が上がり、彼らの顔が歪む。
熱で高温になった盾を握るその手を離せばあっという間に陣形は崩れる。
後衛から風が吹き荒れ、炎を押し返す…が何とか押しとどめている程度。
『シロ!』
ぐぉぉおおお!と吠えたシロの頭角が光り、切っ先から光る槍のような雷光が走る。
僅かに怯んだ竜、今度はこちらに向かって口を開く。
(ま、まずっ!…)
と思った瞬間、私の腰に添えられる手。
気付いた時には私の体はカイルに担がれ、その左に青い炎が走る。
ギュンっと耳に聞こえる音。
(今の…音より早く動いた?…これがカイルの…)
「っつ…!」
少しカイルの顔が歪む。
『カイル!』
「大丈夫か?」
『う、うん…ゴメン。』
抱えていた私を降ろしたカイルがそのまま膝を付く。
その体を支え、寄り添いながら立ち上がる。
竜は今のカイルの動きに驚いているのか、こちらの様子を伺っているのだろうか?
『カイル、今のあと何回使える?』
「動ける限りは…と言いたいけど、連続で使えるのは精々3回。4回目は多分動けなくなる。」
と言うカイルの体が仄かに光る。
「…これは」
癒しの光。陣形の更に後方、手を高く掲げるエル姉の姿が見えた。
「助かるぜ、少し楽になった。」
拳を上げエル姉に合図を送る。
(癒しを貰ってもあまり無理はさせられない…)
『ん…これは…』
足に感じる振動に火山の揺れとは別の振動。
『カイル、多分あと少し。』
それにしても、どうやって隙を作るか…何か方法は…
『二人共、少しの間注意を引いて?…頼める?』
カイルとシロが頷く。
「任せろ!」
私も頷きで返し、急ぎ陣の後方へ走る。
『マリーさん、竜に隙を作りたい。何か方法はありますか?』
唐突に言われた内容にしばし頭を悩ませ、
「後衛の残りの魔力を使い尽くせば、ですが、方法はあります。」
ただし、と付け加えた言葉は自分も含めて身動きは取れなくなる、と。
『…分かりました。では準備を頼みます。必ず止めますから!』
合図の段取りだけ行い、再び前に。
「よう、フィル。戻ったか…すまねぇ。あと1回だ。」
肩で息をしているカイルの体はエル姉の癒しの光を帯びているものの、限界は近そうだ。
カイルほどではないにしろ、よく見ればシロの体もところどころ傷が目立つ。
『カイル…この後、マリーさんたちが必ず隙を作ってくれる。だからそこにあんたの全部を出して。』
「分の悪い賭け、だな?それも楽しそうではあるけど、さ…ノームはどうだ?」
『ギリギリ間に合ってくれそう…かな?』
「まぁ…はなっから一発勝負みたいなもんだしな、っと」
疲れた体をよっこらせ、と持ち上げ汗を拭う。
「ふぅ…ヌシら、そろそろ準備はできたか?」
竜の注意を引いていたシロが一合の後に舞い戻りこちらに問う。
後方のマリーからの合図を確かめ、向き直る。
『さあ、行こう!』
感想、要望、質問なんでも感謝します!
満身創痍の兵と前線の2人。
勝利への賭け、伸るか反るか?
次回もお楽しみに!




