49話 不利の駄目押し
49話目投稿します。
辿り着いた戦場。主は不敵に笑う
『イヴちゃん…何で来ちゃったの?…危ないのに。』
カイル、シロ、エル姉、ノームを伴いひとまず叔父の乗る馬車に合流した私は、叔父と共についてきてしまったイヴに少し困り顔で尋ねる。
イヴもそれなりに解ってはいるようで、しゅんとした顔をしている。
「ごめんなさい…でもイヴ、行かなきゃって思ったの。」
この子が持つ感覚は私や叔父、無論カイルやエル姉には分からない。
シロなら少しは解るかもしれないが…
故に叔父も強く止める事が出来なかったのだ。多分私が叔父の立場だったとしても折れていた。
『ううん。ごめんね、イヴちゃん。多分この先はすごく危ない…でもイヴちゃんが感じたなら、きっと何か意味があるんだと思う…だから、ごめん。』
私にしがみつきイヴは頷いた。
先ほどの野営地を発って少し。
いきなり竜の住処に突撃、なんて事もなく、まずは斥候の拠点地に向かう一団。
その経路は山の道といっても比較的なだらかで馬車での移動も可能だ。
前線基地となる拠点地までは馬車も使える。
拠点地から先の道は険しくなるためそこからは徒歩で目的地を目指す事になる。
当然拠点地から先もイヴは同行するのだが、流石に小さな体で急斜面は中々辛いと思う。
「ふー…ふー…」
と見るからに辛そう。
『イヴちゃん、大丈夫?』
「だ、だいじょーぶ!」
両手の握りこぶしを合わせ、返事。でも顔は辛そう…と思った直後、その小さな体がふわっと浮かぶ。
「どれ、お嬢ちゃん。わしの肩を貸そう。」
イヴを抱えあげ、自らの肩に乗せたのはまさかの東領主グリオス=オストロード。
抱えあげられた本人は、一瞬ぱちくりと驚いた表情をしたものの、高くなった目線が嬉しいようで、今はもう疲れた顔は見られない。
『グリオス様。ありがとうございます。』
こちらに手で合図を送り、笑顔を浮かべるその顔は、大きく無骨な見た目とは裏腹に柔らかで、纏う優しい空気は…そう、父とどこか似ている。
『叔父様、大丈夫ですか?』
「ふー…ふー…と、歳は取りたくないものだね…」
と見るからに辛そう。
流石にイヴのように誰かに抱えてもらうわけにもいかないのだが…どうしたものか。
『それ、貸してください。持ちます。』
ひとまず荷物を引き受けるくらいしかできそうにない。
『んで、今更ですけど、叔父様なりの作戦みたいなのあるんですか?』
「ふー…ふー…私が…考えてた…事は、ある、のだけれど…ふー…」
こりゃだめだ。話する余裕はなさそう、と
『もう少しで休憩になるでしょうから、その時にしましょう。』
すまない、と手を上げ、必死に足を進める叔父。
『無事に帰れたら、もうちょっと普段から運動しましょう。叔父様。』
はぁ、と半分呆れた溜息が口から洩れた。
(私もそこまで体力ある方じゃないんだけどなぁ…)
額に浮かぶ汗を拭いながら、向かう先に目を向ける。
近づく黒煙はより大きく、肌に感じる熱気も一層強くなってきている。
「近いな。」
いつの間にか私の足元に居たシロが呟いた。
「さて、ここから先、私に話をする余裕はなさそうだから、キミたちには伝えておかねばね。」
休憩の時間で一団の各員、迫る戦いの準備を念入りに行っている。
叔父の元に集まったのは私、カイル、シロ、イヴ、エル姉、そしてオスタング勢としてはマリーの姿。
『作戦…ですね?』
ある程度の無理難題は覚悟できて、るかな?。でも出来る事はやらねばと、きゅっと身を引き締める。
「まず一番重要なところなのだが…シロ様。今の見立てではいかがでしょう?」
声がかかったシロは「ふむ」と頷き、カイルに目を向ける。
「7割…と言いたいところじゃが、精々5割程度と想定すべきじゃろうな。」
叔父とシロからの視線に、カイルは意味も解らず二人の顔を交互に見る。
(…あぁ、成程。)
シロと契約を結んでから今日まで、カイルは毎日毎日欠かす事なくシロが与えた修行を熟し、習慣として身に沁みつく程に取り組んでいるのを私は知っている。
勿論、叔父もシロも、恐らく私以上にそれを解っているはずだ。
『カイル。解る?…今回の戦い、叔父様の見立てではアンタが鍵ってこと。』
「へっ?」
私の言葉、視線。叔父とシロの様子を再度見回し、意味が分かったようなのだが「あー…」と声を上げるカイル。
「すいません、アイン様…そのぅ…大変言いにくいんですが…武器がないんす…」
『へっ?』
今度は私が素っ頓狂な声を上げる。言われてみればいつも腰にぶら下げているはずのショートソードが見当たらない。
改め、この場の全員の視線がカイルの腰元に集まるが、何度見てもそこに在るべき剣は見当たらない。
『あ、アンタ!何でよりにもよってこんな時に忘れんのよ!!』
「ち、ちげぇって!、忘れたんじゃなくて修理?っていうか整備中!」
カイルの話によれば、オスタングに到着した際に別れた足で向かった雑貨屋に剣の手入れを頼んだそうだが、思ったより話が盛り上がって、より使いやすく改造してくれるという事で預けたらしい。
その話を聞いたマリーがカイルに問う。
「その雑貨屋…鍛冶師とはヴェイルでしょうか?」
頷くカイル。
「分かりました。急ぎ足の速いものを向かわせましょう…間に合うとよいのですが…」
立ち上がり、マリーは近くに待機していた伝令係を呼び止めたのだが、私の頭に一つの案が浮かぶ。
『マリーさん!、待ってください。』
手を握り、伝える。
『マリーさん、急いでヴェイルさん?宛ての伝言を書いてください。』
私の目を見つめたマリーは何かを察してくれたようで、頷き、一旦この場を後にする。
辺りを見回し、見つけた相手を呼ぶ。
『ノーム!、お願いがあるの。』
きゅっ?っと喉を鳴らしたノームが私の元に駆け寄ってくる。
休憩を終え、再び進軍を始めた一団。
ついに辿り着いた目標地点、連なるオスト山脈の中で大きく黒煙が立ち昇るその火口。
その淵についに私は足を掛けた。
眼下に見えるのは、黒煙と時折舞い上がる火の粉、眩い程に輝くマグマ。そして…
『あれが…竜…』
足元に立つシロは、私と同じモノを睨み、喉をぐるると鳴らす。
「アヤツめ…良く分かっておるようじゃな。まったく腹立たしい限りじゃ。」
シロから聞いていた話だと、竜は長寿の存在で、その知識、知能も高い。
眠りから目覚めて、自らに向けられた多数の殺気を感じながらも動かず、待ち受けているのは、この場が自らの領域と解っているから。
この環境は人にとって過酷。その中で戦うなどこちらからすれば端から不利。
シロの視線と殺気を感じ取ったのか、持ち上がる頭、そしてその視線がシロと傍に立っている私の姿を捉える。
その口角がニヤリと動いたように見えた。
『さぁて…どうしたものかな?』
正直なところ、アレが何とかなるような気がまったくしない。
環境、時間、準備…あらゆる事象が不利な方へ傾いている。
この状況を好転させるための手段を考えなければいけない。
できるだけ短い時間…いや逆だ。時間を稼ぐ方法を探すんだ。
(…探せ、この絶望的な状況を何とかする手段を!)
感想、要望、質問なんでも感謝します!
重要なのは時間、早ければ勝ち目は薄く、遅くても勝ち目は薄い
その手に掴めるモノは何か?
次回もお楽しみに!




