48話 祝福の激励
48話目投稿します。
何度目かの嫌な予感はずばり的中。立たされたのは勝利への土台。
『グリオス様?、これは一体どういう事でしょう?』
「いいか?フィル。古より可憐な少女からの頼みや激励で滾らん男はおらん。」
右隣に立つグリオスは当然のように言い切る。
『叔父様?、これは一体どういう事でしょう?』
「いやはや、オスタングの名工作の鎧を頂けるなんて素晴らしいじゃないか。」
左隣に立つ叔父は口元を押さえて肩を震わせている。
ギロリと睨むと「おっと、」と叔父は口元を引き締めるが、私が視線を外すと再び肩を震わせる。
確かに身に着けている鎧は、何故か私の体にぴったり合っていて、鎧という割りには何故か立ち並ぶ兵士に比べて面積が少ない。
まぁ…着慣れていない重い鎧を着せられるよりはマシだと思うが。
腕や足を伸ばし、準備運動をするにしても、身に着けた鎧が干渉する事もなく動きやすい。
所謂ライトプレートと称される類の胸当てと、邪魔にならない程度の短めのマントは裏生地もしっかり縫製されていて、品質としてはかなり上質であるのは素人の私でも判る。
とはいっても、この見た目は明らかに戦闘を主眼に置いたものではない。
(まぁ…グリオス様の言い分も解らなくはないけど、皆のやる気が出るなら…)
何でもやる。と決意したものの、こういった方面はできれば遠慮したいとは思う。
例えば高位の魔力を持った賢人などがその力を振るえば大多数の兵士に加護のようなものも与えられそうなものだが…。
改め、ここはオスタングを西に出て設営された王国兵の駐留地の中央。
広場に集まった兵士は、オスタング兵、王国兵と大きく分かれて整列している中、設けられた壇上で東領の参謀であるマリーが竜討伐の作戦内容を兵士に伝えている。
鎧というには妙に小綺麗な装束を着せられた私は何故かグリオスと叔父に挟まれ、壇上、マリーの背後に控えている。
「作戦内容は以上だ!、では次にグリオス様からの言葉を頂く、しっかり拝聴するように!」
立ち並ぶ兵士に壇上から作戦内容を通達し終えたマリーが、脇に控えていたこちらに顔を向け頷き合図を送る。
グリオスが前に出る。
「オスタングの兵士諸君、そして王都から遥々来てくれた王国軍諸君、改めてよくぞ集ってくれた…
此度の作戦は諸君らも良く分かっているだろうが、困難な戦いになるのは間違いない。
だが、この地の安息と未来を勝ち取るため、わしに力を貸してほしい!」
グっと握りしめた右手を高く掲げる。
「兵士諸君らの奮闘に期待するが、命を無駄にすることは許さん!、どんな事になろうとも最後まで諦める事のないように作戦に当たってほしい!、以上だ!」
端的に締められたグリオスの言葉に、兵士から「ワーッ!」と熱気を帯びた声が上がる。
話を終えたグリオスは壇上から退き、私も続こうと足を出そうとした直前、
「では最後に、もう一人、お言葉を頂戴する!、しかとその身に刻むように!」
グリオスと入れ替わるように兵士に伝えたマリーが私を手振りで示したのだった。
『えっ…』
『えーと…』
大勢の人前に立った事なんて…いや確かにラグリアとダンスした時は大勢の目に晒されてたけど、話したのはラグリアだけで…
(何話せばいいのよぉおお…!)
だめだ、何も浮かばないし、緊張で頭が真っ白になる…
何も喋らない私を訝し始めた兵士が次第にざわつき始める。
(あぁ…まずい…えーと…えーと…)
何か…何かとっかかりでもあれば…と、
ふと、整列した兵士の後ろ、大きく手を振る姿が目に留まる。
私がそれに気づいたのが分かったようで、その姿は大きく深呼吸をする素振りを見せる。
(スー…フー…)
素振りに習い、大きく息を吸い込み、吐き出す。
改め、周囲に目を向けると、遠くに避難所も見える。
(そうだ。うん)
『…兵士の皆さん、初めまして。フィル=スタットと申します。』
一先ず、中々話せなかった事も含め、頭を下げる。
『正直なところ、私のような者がこの場に立っている事はよく分かりません…そして私に出来る事は貴方がた以上に少ない。』
先ほどとは違うざわつきが上がるが、一旦それは気にせず微かに見える避難所を指さす。
『先ほど、あの避難所へ訪れました…そこで暮らす人々は、その、とても辛いはずなのに、皆さん笑顔で迎えてくれたんです。』
正確に言えば、盛大に囲まれていたのはマリーではあったのだが。それは置いておく。
『まだ幼い子供もたくさん居ました…私は…私は、あの人たちがこれ以上辛い目に合うのは嫌です。』
両手を合わせ、祈るように願うように目を閉じる。
『だから、私も戦います。だから、だからどうか皆さんの…力を、貸してください…』
もう一度、今度は深く頭を下げた。
(とりあえず、思った事口にしてみたものの…失敗かな…)
先のグリオスの演説とは異なり、兵士たちは静まり返ったまま声を上げる気配もない。
とほほ、と不甲斐なさで少しばかり泣けてくる。
ガシャン!と鳴った音、その出元を探す。
ガシャン!、先ほどとは別の位置からも音が上がる。
ガシャン!ガシャン!。と、徐々に増えていく音の正体は、兵士の足踏みだと気づくのに少しばかりの時間がかかった。
広がる足踏みの音は、次第に歓声をも伴い、各々に手に持った槍や剣を掲げる者も居る。
「フィル様ー!」
「戦乙女よ!!」
「我らも共に!!」
拙い私の話に返される歓声、その想いに胸が熱くなって…
(あれ?…何、これ…)
不甲斐なさの涙とは違う…はは、なんだろこれ…良く分からない、けど。もう一つだけ…
『グリオス様もおっしゃいました。皆さん、必ず生きて、生きて帰りましょう!。』
「「「おぉぉおおおおおおお!!」」」
「全軍、出陣せよ!!」
グリオスの掛け声に呼応して、討伐軍は北上を始める。
『っと、のんびりしてる時間ないや。』
急ぎ、皆と合流する。
「…ったく、姿が見えないと思ったらお前はー…」
カイルは呆れたような口調で声をかけるが、今はのんびりもしてられない。
『ごめん、カイル。頼んでたのお願い。』
「ほらよ。あと鞄は中身放り出してきたけど、いいのか?」
カイルに頼んでいた私の所持品。頼んだものは二つ、石剣と鞄。二つとも親から渡された物だ。
『うん。大丈夫、ありがと。じゃぁ皆、私たちも行こう!』
受け取った荷物を整え、討伐軍が向かっている方向、黒煙立ち上る山脈を仰ぎ見る。
『…うん、行こう。』
もう一度、呟く。
視界に映る黒煙の向こうで何か大きな影が蠢いた気がした。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
黒煙の先で蠢く影は全てを焼き尽くす脅威。絶望を超えるために必要な力は?
次回もお楽しみに!




