47話 迫る脅威
47話目投稿します。
目まぐるしく動き出す状況は、脅威を加速させる。
万事は都合よくはいかない。
オスタングの西、王都方面に広がる土地は岩肌が目立つ荒野が大半を占める。
山脈から吹く風は、熱気を孕み、本格的に暑くなってくる今の時期は、快適さなど微塵もない。
『せめて冬なら良かった。』
マリーに周囲の地理を調べてもらっているとはいえ、流石に全て押し付けてしまうのは申し訳ないと思った私は、叔父が到着するまでの時間を、自らの足で確かめる事にしたのだが…
「季節も環境も悪すぎますね…」
自らも調査に出る予定だったマリー。
この地で暮らす彼女ですら、額にはうっすらと汗をかいている。
無論、私は彼女以上に汗をかいているわけで、町から出発して間もないというのに衣服はすでに水気を多く含み重い。
「フィル様、あまり無理をなさいませぬよう…」
心配そうに差し出された水筒を受け取り、一口含む。
『あぁ、生き返る…』
今日、マリーが私に同行する事となった理由の一つとしては調査の一環もあるのだが、オスタングの南西に今なお設営の途である避難所への訪問もその一つだ。
それなら私も一緒に、という事でマリーの駆る馬で避難所に向かっているのが今現在。
水筒を返し、『ありがとう』と礼を言う。
「では参りますよ。」
ベルトに水筒を掛けなおし、両足で馬に合図を送る。
鞍は二人用のものを用意してもらったとはいえ、しっかり掴まってないと振り落とされるのだが…
(うーん…流石に悪いな…)
汗だくの身で密着するのは少々憚られる…。
私の様子に気付いたマリーは
「気になさらず。しっかり掴まっててください。フィル様。」とは言ってくれるものの…
腰に添えた私の手をぐいっと引っ張り、私の体はしっかりと密着させられる。
「あなたに怪我をさせようものなら、私はきっと妹に叱られてしまいますので。」
にこっと笑うマリー。参謀として執務を行う顔と違い、可愛らしい笑顔だった。
「さぁ、間もなく到着しますよ。」
野営キャンプ地、といった方がしっくり来る気もする避難所は、思っていたよりは活気がある。
でもそれはきっと何時来るかも分からない恐怖を隠すもの。
失った家族や親しい友などに対する供養の一種。
避難所で暮らす者たちの顔からはそういった意思を感じる。
「マリーさまーー!」
「マリー様だ!」
マリーの姿を見つけた避難所の子供が数人走り寄ってくる。
「皆、元気にしてた?しっかりお手伝いできてる?」
あっという間に囲まれ、しゃがみ込むマリー。
頭を撫でたり、抱きつかれたりと人気者なのが良く分かる。
「マリー様はわしらの事をそりゃもうすっごく気にかけてくださっておるんじゃ。子供も無碍に扱わず、ああやってあやしてくれたりのぅ。ありがたいことじゃよ。」
端から近づいてきた老人が呟く。
子供の声を発端に、あっという間に避難所の民に囲まれるマリーの顔は、時に参謀としての顔、時に優しい女性の顔、と目まぐるしく変わる。
『凄いなぁ…』
「おねぇちゃん!」と、私の服の裾をひっぱる少女の姿。
マリーに習って、目線を合わせるようにしゃがみこむ。
『なぁに?』と頭を撫でると猫のように目を細める。
「えへへ。おねぇちゃんはマリー様のともだち?」
『んー…ともだち、なのかなぁ?。』
良く分からないや、と答えると、ふーん、と返す。
『でも、私も、あなたたちと一緒かも。マリーさんのお世話になってる。』
「じゃぁ、おねぇちゃんもマリー様にめいわく?かけないようにしないとね!」
『そうだね。私も頑張る!』
もう一度、頭を撫でる。
そうだ。この子たちのためにも、頑張らないとだ。
すっと立ち上がり、遠く黒煙が立ち上る山脈を見つめた。
マリーの用事が終わるまでの間、周囲を観察していると、西の方から進んでくる一団の姿が見えて来た。
王都からの軍隊だろうか?。
しばらく眺めていると、遠目にも解る見覚えある馬車の姿も見えた。
(あれは叔父の馬車だな…マリーさんに伝えて、私たちも戻らないと。)
未だ人だかりの最中のマリーに急ぎ駆けよる。
『マリーさん!、国軍来たみたい。』
笑顔を振りまいていた顔から一転、凛とした表情に戻り、傍らの子供に「ごめんね?そろそろ行かないと。」と名残りを振り切るように私に駆け寄る。
「フィル様、私たちも急ぎ戻りましょう。」
こちらも気持ちを切り替え、馬を留め置いた場所へ走った。
オスタングに着いた国軍一行は町の手前に到着するや否や、その規模に見合う野営地の設営に入った。
避難所から走る私はその様子を眺めつつ、マリーに告げる。
『マリーさん。私に出来る事、全部出し切る…だから、手を貸してほしい。』
馬を操りながら、腰に添えられた私の手に自分の手を重ねる。
「無論です…今は、領館に急ぎましょう!」
「やぁ、フィル。久しぶりだね。元気にしていただろうか?」
かなり急いだと思ったのだが、領館に戻った私たちを迎えたのは、同様に到着したばかりであろう北方領主アイン=スタットロードだった。
「イヴも早く会いたいと言っていた。後で顔を見せてやっておくれ。」
『叔父様、お早いお着きで…お元気そうで何より、ですが…イヴも一緒に来たんですか?』
少々困り顔で「どうしても、と言われてしまってね…すまない。」と頭を下げた。
だがしかし、イヴが聞き分けない程であればきっとあの子なりに何かがあるのだろう、だとすれば叔父を責めるわけにもいかない。
「あー、そろそろ良いかな?。」
と、奥に控えていたグリオスが口を開く。
「先ほど斥候から連絡があった。あまり時間もないようなのだ。」
「まさか、動いたのですか?」
驚くマリーの言葉に、うむ、とグリオスは頷く。
「斥候が言うにはしばらく眠りについていたヤツが目覚め、そういった素振りを見せているという事だ…もはや一刻の猶予もならん。」
今度はマリーが頷き「急ぎ出兵の準備をさせます!」と言い残し、待機していた別の兵士と軽くやりとりをして部屋を後にした。
『私も一度宿に戻らないと…皆に…』
と立ち上がろうとした私に、「伝令を使わせよう。どこの宿かな?」とグリオスが声を掛けてくれる。
呼ばれた兵士に凡その宿の位置を伝え、カイルたちへの伝言を告げる。
「フィル。其方には別にやってもらいたい事があるのだよ。」
グリオスの目配せに、叔父が頷く。
二人の顔を見た私は…
(…嫌な予感がします…嫌な予感がします…)
と頭に浮かぶのだが…パチンと鳴らされたグリオスの指と共に、部屋に入ってきたのは、兵士ではなく数名のメイド。
『何を…』
と聞こうとした直後、私の両脇は二人のメイドに抱えあげられ、
『なんなんですかぁぁああああ!』
私の叫びは廊下の先へと消えた。
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一刻の猶予もならない状況でメイドに攫われたフィル。
慌ただしく動き始めたオスタングの町。熱に魘されるように東の地に戦いの狼煙は上がる。
次回もお楽しみに!




