表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/412

5話 いざない

5話目投稿です。

逆に長くしようと思っても案外うまくいかないもので…

雪かきされた一角の地面。

メアリの後について辿り着いた農園の一角は、雑草ではあるが確かに生え方が明確に違う箇所がある。

土の色や高低差などに違いはない。

例えば、土の中に岩が埋まっていて阻害しているというのであれば、雑草の生え方にここまで明確な違いはないはずだ。

私はまずそれなりに雑草が生えている土に触れる。

意識を集中するも、特に気になるような感じはしない。

同じように今度は雑草の生えてない土に触れる。

『…!』

(一瞬意識持ってかれた?…ここ何かある…)

膝から崩れるように倒れかけた私に、傍から見ていたメアリが慌てるように寄り添う。

突然の出来事に驚いた私は、無理せずに支えてくれる老婆に少しだけ体を預けた。

『ご、めん…お婆ちゃん。よく判らないんだけど…きっとこの下に何かあるんだと思う。』

思いもよらぬ事に私もメアリもしばらくの間動けずに居たが、幸い私を襲った一瞬の倦怠感は幾度かの深呼吸をすることで回復した。

ひとまずは館で休憩しようという事で立ち上がった私から、こんな結果になった事への申し訳なさからメアリは支える手を離さなかった。

「お嬢ちゃん、すまなかったねぇ…あんな事になるなんて…」

『大丈夫。驚いたけど、嫌な感じじゃなかったし、それにお婆ちゃんのせいじゃないよ。』


メアリに抱きかかえられるように館に辿り着いた私に、何事かと駆け付けた母とメアリの夫であるセルヴァンは血相を変えてすぐさま横になれる部屋に案内してくれた。

『お爺ちゃん、母も、大丈夫だから…ちょっとびっくりしただけ。お婆ちゃんも、私大丈夫だから。』

半ば強制的に寝台に放り込まれた私は体を起こそうとするも、母に止められる。

それに私が今いる場所は確か領主本人の寝室でもあったはずだ…せっかく綺麗に準備していたはずなのに…。

「フィルお嬢様、お心遣いには感謝致しますが、今は自分のお体を気遣ってください。」

お爺ちゃん、セルヴァンは優しく口を開く。

『…様はやめてよ、お爺ちゃん…』

考えている事もすべて見透かすような優しい目を向けられた私は、何も言い返せず大人しく横になり目を閉じた。

「少し休みなさい。アレには私から言っておくから。」

と母は言う。

(いい加減、領主を「アレ」扱いするのはやめたほうがいいと思うのだけれど…)

程よい微睡みに誘われるように私は少しの眠りにつく。



(…あ…これ夢だな)

仄暗い空間に体が浮いているような感覚

周囲を見渡すと夜空の星のような小さな灯りが見える

点在する光はそれぞれが不規則に、時にゆっくり、時に早く、踊るように動く

ふいに何かの鼓動のようにいくつかの光の柱が上がり、それぞれ別の柱に向かうように光が走る

(あそこにも柱がある)

光を生む柱の根本に近づき、恐る恐る手を伸ばす

ドクン、と光の鼓動が私の体を突き抜けると同時に立ち上がった光が先ほどと同様に他の柱へと走る

(あ…この感覚、さっきと同じだ…)

その感覚を思い返しているところで夢は覚める



扉をノックする音で目覚めた私は、あまり見覚えのない寝室で思い返す。

寝台から見える窓の外は夕闇に染まり、思ったより長く眠っていたようだった。

(あ、そうだ。領主様の寝室をお借りしてたんだった…)

「フィルお嬢様、お目覚めでしょうか?」

私を呼ぶ声の主はセルヴァンだ。

『大丈夫、どうぞ。』

ゆっくりと開いた扉から顔を覗かせたのはセルヴァンではなく、母…でもなく、母と瓜二つの顔をした男だった。

『…あ』

と声を上げた私に、男はこちらに手を上げ「そのままで」と合図する。

私が眠っている間に帰還した領主、アイン=スタットロードその人だった。


『叔父様、すいません…お迎えもできなくて…』

領主は微笑み、寝台の傍に用意された椅子に腰をかける。

「構わないよ、普段から使ってない部屋なのだから、むしろこうして使ってもらった方が私も嬉しい…やはりセルヴァンやメアリに領主代理を任せているのは間違いじゃなかったね。」

とウィンクした領主の軽さに、私はプッと噴き出してしまう。

『叔父様は相変わらずみたい。以前戻られていたのは8年ほど前でしたか?』

思い返すように頷いた領主は、改めて私を見る。

「大きくなったね。前に見たときはこんなに小さかったのに。」

人差し指と親指を広げてこちらに向ける。

『叔父、それはさすがに小さすぎ。』

そのまま中指と親指でパチンと指を鳴らし

「その呼び方だよ。フィル。それが聞きたかった。」

領主の些細な希望が叶って嬉しかったのを、私は目をパチクリとさせて笑う。

「さて、改めて聞くんだが、体の調子はどうだい?」

叔父は私の体調を鑑みながらも、帰還早々、身支度を整える事もせずにこの部屋に訪れた理由を話す。

到着早々に私の身に起こった事や、寝室で休ませている事を母、メアリ、セルヴァンから聞いたようで、その原因となる事に思い当たる節があるのか、私に話を聞いてみたいという事だった。


農園で感じたモノ、その正体は判らないが、嫌な雰囲気ではなかった。

私の話を聞いた叔父は、自分の仕事(本人曰く領主は仕事ではないらしい)の話をして私にこう言ったのだ。


「その正体とキミの力、その探求に興味はあるかい?」

感想、要望、質問なんでも感謝します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ