オスタングいちの鍛冶屋
閑話休題シリーズ第4弾。
丁度面白そうな話が浮かんだので…
カーン!カーン!
耳を通り腹に響くような金属音は、この建物、ヴェルン雑貨店と書かれた看板を構える店の裏手から鳴り響いている。
店内に入ったカイルの身成を見た店の女性は物珍しそうに声を掛けてきた。
「こりゃまた珍しいお客さんだねぇ?いらっしゃい!」
キョロキョロ店内を見渡す一見さん。足元には可愛い子犬のような小動物。
普通の冒険者ならば大通りをもう少し進んだ武具屋に行くのが当然というものだが。
「旅の道具でも探してるのかい?」
「あー、いや、打ってる音が気持ち良さそうに聞こえたから打ち手が見たくなっちまって…」
キョトンとした顔は笑顔に代わり、
「珍しい以上に稀なのが来たもんだ。窯は奥にあるが見てくかい?」
店員の好意に笑顔で返し案内されたのは言葉通り店舗こ裏手にある石造りの建屋。
屋根に設えた煙突からは勢いよく黒煙が立ち昇り、威勢よく鳴り響く金属音に呼応するように火の粉が舞っている。
「アンタ!珍しいのが来たよ!」
中には雑貨店に併設するにしては大掛かりにも思える炉と、岩と見間違いそうになるような背中。
投げられた声に気付き、打ち付ける手を一瞬止めるが、
「少し待て」とその背中は語る。
顔を見合わせたカイルに店員は頷き、建屋の中へと促す。
扉を潜った途端、激しい熱気に包まれ足が止まる。
全身から湧き上がる汗は、その温度で即座に乾き、肌に感じるヒリ付きを我慢すればそれほど苦ではない。
とはいったものの、この環境は慣れない者にとっては長時間いられるものでもないだろう。
数回の金属音を繰り返し年季の入った金槌を置く。
傍らに置かれた水桶から水を汲み取り、何事かを呟きながら橙色に輝く刀身に浴びせると、勢いよく昇る蒸気。
立ち上がり、少し離れて設置された大きな水釜に差し入れる。
ゴワッという音と少しばかりの衝撃と共に水蒸気が噴き出し、そう広くもない室内は一瞬で大量の蒸気で満たされる。
視界が遮られたのも束の間、天井に開いた穴に吸い込まれて消えた。
「ほぇ〜、すっげぇなぁ。」
鍛冶作業から建物の構造と興味津々のカイルを眺めながら岩のような体躯の男が口を開いた。
「あんちゃん、何の用だい?」
無骨に見えた第一印象は種族特有のもののようで、話しかけてくる声色は人の良さそうな気さくさを感じる。
「っと、夢中で忘れるとこだった。おっちゃん、これ診て欲しいんだけど…」
腰に下げたショートソード。
一般的なものに比べると刀身幅が太く、刃物としての斬れ味だけでなく叩く事も想定された一品物。
どれ、と受け取った男は「ほぅ?」と唸る。
「中々いいもんもってるじゃあねぇか。」
気さくでありながらも鋭い眼光をカイルに向け、口元には笑みを浮かべる。
「へへっ、そりゃ北の刀工の一品だからな。」
ノザンリィの町の鍛冶屋のオヤジは昔、ここ東領での修行と研鑽の末に北領に住み着いたという。
理由としては、「寒いとこの方が鋭く作れる気がする」だそうだが、果たして明確な根拠なのかは怪しい。
「ふん、ガルドのやつめ。また腕を上げよったな。」
「やっぱり知り合いか。」
まぁな。と剣を目の高さに掲げ歪みと欠けを確認する。
「刀身は少し欠けがあるが、この程度ならワシでも大丈夫じゃろ。それより…」
ふむ、と柄に目を向ける。
「むしろこやつは柄の劣化のほうが大きいな。」
剣を鞘に戻し、ふむ、とカイルの全身を眺める。
「左利きか?」
頷くその左腕を掴み、じっくりと掌を見つめる。
「こやつの柄は今のあんちゃんの手にあってないのぅ。それに…」
叩く事を想定するなら柄も両手で持てる長さの方が良いと言う。
「あやつは昔から刀身の方ばかりに気がむいておってな、こやつも案の定といったところか…どうじゃ?わしに任せてみんか?」
「おっちゃんの言う事、すげー合ってる。握りはちょっと物足りなかったんだ。」
この先にある戦いを考えると少しでも憂いは消しておきたい。
親指を立てて返事をすると、男も同じ合図をして、直後がしっと互いの手を掴んだ。
「俺はカイル。ノザンリィから何やかんやで旅してる。」
「わしはヴェルン。この雑貨屋の小間使いじゃ!」
威勢よく名乗った割に、小間使い…とは?
不思議そうな顔のカイルの肩にポンポンと手が置かれ、振り向くと先程の女性店員。
「おにいさん、砥代は相談させてもらうよ〜?」
「えっ」
「妻じゃ」
「店主兼妻ですわ」
カイルはこの時はじめて「悪い顔」というものを見たと言う。
「そこはせめて妻の方を先にしてほしいのぅ…」
寂しそうに呟く姿に先程までの威勢は微塵もない。
その後頭部をスパーン!とはたいて急かす。
「ほらっ、さっさと必要な物を言いな!」
ヴェルンは改めカイルの剣を手に取り、思案する。
幾度かのヴェルンとカイルのやりとりで必要な素材は固まり、勢いよく奥さんは飛び出して行った。
妻の姿が完全に見えなくなったのを確認したヴェルンが更に警戒した上で耳打ちをする。
「いいか、あんちゃん。女ってぇのはこえぇぞ?」
「おんな こわい」
頭に浮かんだ顔はそうでないといいな、などと考えるが、今はひとまず手伝いだ。
「おっちゃん、俺も手伝うから…その…」
「なんじゃ?」
「まけてね?」
「しらん。」
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45話の次回予告の回収がしきれなかったお詫び…
同日46話も投稿します。




