39話 大地の名
39話目投稿します。
ふとした疑問が新しい絆を生み出す。
「ニンゲン ニンゲン! コッチ コッチ ダゾ!」
長から紹介された案内役のコボルトは、昨夜私が下敷きにしてしまった子だった。
コボルトの洞窟はところどころに地上に出るための出入り口が設けられており、道すがら点在するソコに辿りつく度、地上の様子を伺うと共に、時間の経過と現在の位置を確認する。
景色としてはあまり変わり映えしない地下の道は、地上を歩く以上に短い時間で距離を稼げているようではあるが、慣れない環境という面での疲れは大きい。
「コノサキ ヤスム デキル!」
点在するのは出入り口だけでなく、昨夜寝床として案内された休憩所のような場所も一定の間隔で造られているらしい。
一つ手前の出入り口から伺った地上の様子からすると、案内コボルトの言う場所が今晩の寝床となりそうだ。
『コボルトさん。今日はここで休む事にするわ。』
昨夜の場所同様に、休憩所にあたる空間では、中央に焚火ができるような炉が設けられており、到着早々に、エル姉もカイルもてきぱきと夜を明かす準備を始める。
「ニンゲン ゴハン ツクル オイシイ!」
「あぁ、待ってろよー?」
エル姉は楽しそうに晩御飯の準備をしている。
(ん…?)
『エル姉、何か呼んだ?』
炉に火を入れ、上に置かれた鍋の様子を見ていたエル姉がこちらに顔を向け、首を横に振る。
『カイル?』
「ん?俺も別に呼んでねぇよ?」
カイルもエル姉同様に首を横に振る。
シロは…焚火の傍で暖を取っているようで、二人に問いかけた事にも特に気に留める様子もない。
エル姉の手伝いをしているコボルトからもこれといった反応もない。
(気のせい…かな?)
目を閉じて、深呼吸、耳を澄ませ、意識を集中する。
昨夜からこの洞窟に入って、足元に感じていた微弱な振動は、遠くから感じていたものの、これは話に聞いていた火山活動によるものだと思ってはいたのだが…。
今私の意識に入り込んでくる感覚は、ソレとは違う感じがする。
(この感覚…どこかで…)
何かの鼓動のような…と考えたところで思い出した。
ノザンリィで味わった感覚と同じ。
そう、あれは北方領主の館に務めるメアリの頼みで訪れた場所。
あの感覚と同じだった。
(あれに近い…同じものがあるってことかしら?…)
旅立ちの前の数ヶ月、ノザンリィの町を上げての発掘作業で姿を現したのは石造りの古い祭壇。
見た目は明らかに石なのだが、日常的にその類に触れているはずの石切や石工は口を揃えるようにその異質さを語ったという。
父がその石材を鍛冶屋に持ち込む理由になったのもそういった経緯があったと聞いた気がする。
腰に下げていた革ベルトに縫い付けられた父譲りの石剣に触れてみるものの特にこれといった反応は無い。
(まぁ、これはこれで震えてたとしても怖いか。)
いずれにせよ明確に意識される事であれば近いうちに解ると頭の片隅に留め、休息と明日の準備に戻った。
翌日の私たち一行は揃いも揃って寝過ごしたようで少々遅めの出発時間となった。
ある程度は目覚めの時間は身体に染み付いているはずだが、それが働くのはあくまで「普通の環境下」での話。
ほぼ丸二日洞窟探検してみれば身体の習慣も乱れて当然。行軍のペースとしてはかなりの前倒しにはなっているので一先ずの問題はない。
改めて修正された旅計画では今日中に最初の目的地であるエルフ族の集落に辿り着けるはずだ。
そうすると案内役のコボルトとは今日でお別れとなってしまうのだが、短い間の同行者とはいえ少々寂しくなる。
『ねぇ、コボルトさん。』
前を進む背中に声をかけると彼は振り向き後ろ歩きしながら返事をする。
「ナンダ? ニンゲン」
コボルト族に遭遇してから少し気になっていた事がある。
『んと、あなた達にそれぞれの名前はないの?』
「ナマエ? ナンダソレ?」
疑問で返されるが、それがすでに答えになっている。
『んー…呼び方というか…例えば、私の名前はフィル。』
カイルを指さして『あれは、カイル。』
エル姉を指さして『あれが、エルメリート。』
シロを指さして『これは、シロ。』
『アナタは私たちをニンゲンって呼ぶけど私たちには其々に呼び方があるの。わかる?』
コボルトは目をキラキラさせ、私の話に頷きながら聞いている。
その口は私たちの名前を反芻。
「ふ、ふぃる…かい、る…えるみぃ、と」
もう一度、今度は私たちを指差しながら、
「ふぃる!」私が頷く。
「かいる!」カイルは親指を立てる。
「えるみぃと!」エル姉はガクっとなるが空かさず「エルでいいぞ!」と加えた。
「える!」ともう一度。今度はエル姉もしっかり親指を立てる。
私たちの名前を知ったのが余程嬉しいのか、ピョンピョン跳ねながら喜んでいる。
『それで、キミには仲間や家族に呼ばれる名前はないの?』
改めて聞き返す私の言葉にコボルトは急に大人しくなる。
「オレタチ ニンゲン チガウ ナマエ ナイ」
聞けば彼らコボルトは普段人語は使わない。鳴き声で互いを認識、識別しているようだ。
「ナマエ モラウ ドコ? オレ ナマエ ホシイ」
名のない者に名を付ける。
私たちの中で身を持ってその意味を理解しているカイルは「あー…」と頭を搔く。
当然、コボルトはその意味を知らず、私たちの顔を交互に見つめる事となる。
『ねぇ、キミ。』
コボルトは私の目を見つめる。
円で、好奇心旺盛で、無邪気。
『名前が欲しい?』
頷く。
『仲間の所に戻れなくなるかもしれないよ?』
頷く。
『辛い事や痛い事が沢山あるかも知れないよ?』
頷き、口を開く。
「オレ ふぃるタチト イッショ イル」
『…分かった。』
後ろ手にカイルが「おいっ」と声を上げるがそれを止めたのはシロだ。
私はゆっくりと彼の頭に手を乗せた。
『キミの名前は…ノーム。』
自然と頭に浮かんだ名を彼に告げた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
冠した名は大地。浮かんだ名前が示すものは?
次回もお楽しみに!




