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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第十章 光の帰還
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404話 未来の王

404話目投稿します。


王のお偲びは終わり、一つの決断は動き出す。

小さな身体を抱きかかえて少女の自宅に到着したのは日が暮れて随分と経ってからだった。

玄関口の外で待っていた母親は、こちらの姿が見えた途端に駆け寄り、深々と頭を下げた。

「色々とご迷惑をかけてしまってすいません。」

少女の母は心からの言葉として私に詫びたが、本来であれば自らがやらなければいけない事だと言いながらも、突如として現れた私に押し付けてしまったと。

「貴方の目を見て、この子と共に探してくれると思ったんです。何故かしら、以前一度だけ見た優しい御方に近しいものを感じたのです。」

それは誰か?と投げた答えは私には予想外、そして自分自身が一時でもそんな目をしていたという事実に驚いた。




王城への帰路、きっと私の口角は上がっていただろう。

これもまた彼らが私に示した道の一つとすれば、いずれ私の願いも叶うかもしれない。

長い時の中で諦めてしまった熱の高まりを見過ごす事などできるものか。

自分が思っていた以上に事は小さく、されど大きな気分転換になった。

この帰路の先には愚鈍で大仰な座が待ち構えている。

けれど今の私はそれを苦と感じることは無い、むしろ自分の中で出来ることを探せる、行える力として頼もしくもある。

同時に、この座の呪をかけた先代への記憶、当の昔に忘れていたと思っていた記憶を手繰り寄せる事にも繋がった。

「父上…あの時貴方はどんな気持ちだったのですか?。この王の呪縛を私に継がせると決めた時、どんな気持ちだったのですか?」

虚空への問いかけは返る事はない。

己の掌から全てが消えるその時に、自らの身が言葉通りに無となる時を決めた時に、この国が、或いは頭を挿げ替えて変わる国に、何を願ったのだろう?

少し肌寒くもあろう風が首筋、耳元を通り抜け、笑う様な音を届ける。

「…御飾りの王となる日もまた一つの道よな。フフッ…」




「何度も思いますな、懐かしい、と。」

こうしたお偲びから戻った時、初老の執事は言葉通りにこの台詞を私に投げる。

この城に勤める多くの者を驚かせぬように通る帰り道は付き添うには少々酷だ。

窓から踏み入れた自室の中は程よい暖かさに保たれ、見計らって用意されていた紅茶の香りが心地よく鼻腔を擽る。

「今まで苦労をかけたね。」

「…いえ、貴方様にお仕えするのは毎日の楽しみでありますので。」

初老の執事は微笑む。

「此度のお偲び、楽しまれたようですな。」

「あぁ。」

気付き、喜び、選ぶ未来の形、己の中で進むべき…いや進みたいと思うその道は、混乱を生むかもしれない。

「私は我儘になってもいいのだろうか?」

「…フフッ、まるで幼子のようではありませんか。権力も、徳もある貴方様が選ぶのであればこの国も、住まう者も、仕える我々も、それを信じる事しかできませぬよ。」

私より齢を召した執事は、私より短い生でありながら、私より達観したような返事を紡ぐ。

「…であるか。」

彼が淹れてくれた茶は長い時間を賭けて私の好みに合う形を成した。

この先にある国の行く末もまた時間を賭けて良い結果である事を祈るばかりだ。




部屋の灯りを落とし、暗がりの中で自室に設えられた椅子に深く腰をかける。

唯一の光源である卓上のランプから漏れる灯りが室内に優しく影を揺らす。

一通の手紙を認める。

彼の者があの地に戻った折に届ける文、これが私の手を離れてしまえば、もう後戻りは出来ない。

ある意味で裏切り、ある意味で希望、ある意味で我儘な告白の文だ。

そして返事は期待しない。

話し合いの場になってしまえば何も変わらない世界が続くだけだ。

「そうするつもりはもう無い。」


溜息…というのも少し違う気がするが漏れる吐息。

気が重いというよりは、大きな政を終えた安堵か、全身の力を脱いてもたれ掛かる椅子が高級品と感じられる時間でもある。

「此度こそ私の期待に応えてくれよ?」

投げた問に返事はない。

彼の者は私の耳に届く限りでは行方不明、だがどこかで野垂れ死んだ等といった事が腹に収まるような印象か?と言われれば否だ。


「早く相まみえたいところだな…見ていて飽きないというのは何時ぶりだろう?」

あらゆるモノに失せた興味が私の衰えの一環だったのだろう、と今であればよく分かる。

肉体的な命が尽きないとすれば、それは見た目の話だけで物語に現れるような不死者と変わらない。

生きる意味を考えるのを辞めたとき、きっと私のニンゲンは終わっていた。

それを取り戻す切欠、とすれば己にとってもまた新しい道を選ぶのはソレとの会話であることが私にとっても望ましいと思う。


「さて…あの者が引けぬその身をどう翻すか、対する私の取るべき手と言葉は…」

机上の遊戯のように回す思考は心地よい。

きっと対戦者は私が知る以上に新たな力を得ているに違わない。

それが自発か他発か、あの体質と性格ならきっと後者だ。

ソレが何か、ソレをどうするか、ソレを見た私が何を思いつくのか。


あの者の世界と、私の世界を賭けた戦いを思い描き、私は目を閉じた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


主の戻らない椅子を見つめる視線は


次回もお楽しみに!

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