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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第十章 光の帰還
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401話 気紛れの王

401話目投稿します。


王の散歩は城から見えない路地裏に

少し肌寒い町並み。

まだ太陽は頭上の高い位置だ。

まぁ、やろうと思えば時間など気にかける必要もない事だが。


通りを行き交う人の姿は疎らな方だが昼の時間を終えたと思しき姿もチラホラと、特に目を引くのは元気に駆けていく幼子たちの姿だろうか?

舗装されていても時折躓く幼子を見かける度に私は少々指先を動かし、直後、不思議な表情を浮かべて足を踏み出す姿に僅かな口角の緩みを感じる。

「…気紛れが過ぎるかな?」

独り言に苦笑しつつ、視線は背中を追う。

「?」

と、何と無く捉えた小さな背中に少しの興味が湧く。

建物の切れ目に差し掛かる度に覗き込むような様子。

親御と逸れでもしたのか?焦っているようにも見える。


「キミ、どうかしたのか?」


肩をビクりと跳ねて幼子が振り向く。

明らかな警戒心を抱きつつも私の姿を頭の先から足元まで見て息を吐く。

「い、居なくなっちゃった…」

何が、と言うのも非効率だろう。

先程までの様子を見れば親というわけでもあるまい。

視線を少し逸らしてこの子が覗き込んだ建物の隙間を確認する。

同年代の体格なら通れなくはないだろうが、少なくとも私の身体では身動きは取れないであろう隙間。

ふむ…と顎に手を添えて一考。

「一緒に遊んでたのに…居なくなっちゃたの…」

既に幼子に警戒の色はなく、私に向けれたその視線は懇願に近い。


この町は恐ろしいくらいに平和だ。

そう在るように私や周囲、環境、意識が積み上げたモノは容易く裏切るものではない。

そもそも悪目立ちするような事象であっても人知れずに解決してしまう機関すら存在しており、私自らの手に件が及ぶ事など…今のように直面しない限りは、無い。

「ふむ。」


この子のお相手が言葉を交わせるのであれば突然姿を消すのは考え難い。

その視線、探している場所も踏まえれば、小動物の類か?

「ではお嬢さん、キミの友人を探しに行こうか。」

差し出した手と私の顔を交互に、少しの不安を抱きつつ、幼子は私の手を取った。




人の視点というものは其々に異なる。

今となっては気付くのが難しい、だが決して蔑ろにしているわけでもない在り来りな事も、他者を介して気付ける事もあるものだ。


幼子は助けを得られて上機嫌、先程までの暗い様子は消え去り、繋いだ手を通して伝わる熱は驚く程に熱い。


「いつもはこの辺りで遊んでる。」

案内されたのは居住区の中、建ち並ぶ家々の合間の開けた広場。

人影は疎らなところではあるが、こちらに気付いた数人の、やはり同世代の幼子が集まってくる。


「ナリン!、見つかったか?」

「この人誰?」

「ここには戻ってきてないよ」


口々に飛び交う会話から察するに此度の件は割りと大問題、少なくともここに居る者たちにとっては。

今更だが私が手を引いた幼子、名前はナリンというらしい。

自己紹介もしていなかったことに苦笑。

あっという間に囲まれる少女。

彼女と手を繋いだままの私自身も囲まれる形になるがこれもまた尊い光景と言えるだろうか?




「良い友人に恵まれているのだね。」

広場を後に、ナリンが探し終えた道とは別、探索の道を歩む。

「いつもずっと一緒なの、あの子もいつもなら居なくなったりしないのに…」

まだ見ぬ捜索対象もあの広場から姿を消す事などそうそうは無い…という事だが。

となると何某かの理由があるはずだ。


小動物というのは人よりも鋭い勘が働く種もあるというが、そういった類の理由があれば普段とは違う行動を起こす事もあるだろう。

或いは何かに扇動、誘導、若しくは操られるといった事も考えられるが…。

至った思考が先日王都の地下で見知った者の顔を思い出す。

実際に見ては居ないが、絆された侵入者がそういった能力を有していたと報告書の片隅に記載されていたはずだ。


しかし、件の人物は今王都には居ないはずだ。

あの特殊な力が多くあるとは考え辛い。

「ふん、ふん、ふーん〜」

私の思慮など気にする様子もなく、手を繋いで歩く少女は先の不穏など微塵も感じさせない、まるで散歩を楽しんでいるかのようだ。

「随分と気分が晴れてきたな?」

一瞬きょとんとした顔で、しかしすぐに笑顔に戻るナリン。

「お兄さんが居ると安心する、あの子もきっと見つかる、そんな気がして。」


満面の笑みで返されてしまっては返答に困る。

こちらとしては確実に発見しなければ、と妙な焦りを覚える。

…政に際して感じた事など無い気分だ。

今まさに目の前で起きている事、唯一頼られる存在である事、私の下に居た、居る者たちは何れも優秀な者たちだ。

いつもなら人手を介して行える事も今はそうはいかない。

「頼られる事…か。」


嬉しい、と感じる。

この少女から教えられた喜び、別の者、私が懇意にしているあの者から得られる事が出来たのなら何れ程の幸福を宿せるのか。




「…今、キミは何をしている?」

呟く。

恐らくは王都より冷える北国で、あの者は、あの者たちは何をしているだろうか?

いつの日か私を終わらせてくれるその時を目指しているだろうか?


感想、要望、質問なんでも感謝します!


王と幼子の探しものは見つかるのでしょうか?


次回もお楽しみに!

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