398話 選択肢に立つ心
398話目投稿します。
明かされる王国の未来。
身を以て知らされる事実に何を選ぶのか?
「改めてキミの意志を聞いておきたい。」
幾分この施設、今までに見たこともなかったような数々の装置、道具。
その中でも明らかに重要で、稀少で、感覚だけで異質と思える、恐らくは椅子のように腰掛ける事となるソレを背に、件の者たちの一人、私が最初に出会い、ここまでを案内したシャピルが私に問いかけた。
「今までの短い時間で交わした言葉、キミに我々に協力の意志はあるだろうか?」
『…目的と結果次第、かな。』
私の身体が必要だからこそ半ば拉致という形でこの場所に連れてこられたのだ。
断ったところで逃げられるとは思えないし、それでも命を奪われる程ではないとは思う。
しかし目的は明確でもなく、首謀者が同一とまで確信は持てなくとも実際に目にしたセルストの前例は未だに私たちにとっては余りにも衝撃的だった。
単純な力に、この身体に宿る特異に、固執したくは無いと思う反面、誰かの助けになる為の力が失われるとすれば、流石に二の足を踏むに十分な理由だ。
相応の理由、目的をはっきり聞かないことには自ら進んであそこに座るのは今のところはまだ躊躇われる。
「ふむ…であればまだ少しこの世界の…いやどちらかと言えば王国の話と言ったほうが良いか、それがキミたちには必要だろうね。」
案外すんなりとこちらの言い分を受け入れられると私も少し拍子抜けというものだ。
けれどその理由が世界というよりも王国に必要という言葉は興味の糸を強く引くものだ。
再び別の部屋へと案内される運びとなった私とカイル。
「王国の話って何だろうな?」
『何れにしても驚くことになりそうだわ。』
「悪い話じゃなきゃいいけどな。」
『そうね』
「カイルくん、キミ個人はあまり魔力に関しては得意ではないという認識は合っているかな?」
改め案内された場所は先程とは打って変わって広々とした部屋だが、圧倒的に物が置かれていない。
また壁面から伸びてくるのか謎ではあるが注意深く観察していたカイルに問われた言葉に
「まぁ、得手不得手は流石にな。」
と一概に認めたくはないといった言葉で返す。
武術にも才はあるが、魔力の扱い程に個々の差は出難い。逆に魔力の扱いは生まれ持った個人の才の影響が大きく、それが求める事象と一致すれば絶大な力になる。
残念ながらカイルにはその才が乏しいのはどうしようもない事だ。
日々の努力を怠らないカイルにとっては辛いところなのは本人もよく分かっている。
「ならば今からの実験、いやキミたちの確認かな?、はフィル嬢が適任だろう。」
手元を動かすと、またしても何もなかった床が迫り上がり、姿を見せたのは見覚えのある人形兵、見たところだけで言えば群れをなして迫ってきた類の個体で今となっては単体で襲いかかられたとしても然程恐怖など感じない。
『魔力を使って戦え、と。』
「察しがいいね。」
何かを知らせるための事であれば聞かされるより身を以て感じるほうが早い。
両手首に触れ、身に付けた装具を確かめる。
手慣れた感覚で魔力を送り、体を浮かせる。
最近の私が戦いの場に於いて取る手順だ。
が、少しだけ違和感を感じる。
シャピルの合図で突進してきた人形兵。
浮かぶ体を操作してカイルと距離を開ける方向へ、身を翻すが…
速い?、いや、これは…
一瞬、特別な個体なのかと考えは浮かんだがそれは違う。
私自身の魔力が弱い。
寸で躱すほどの余力もなく、繰り出される拳に、防ぐ意志を以て手をかざした。
三つの刃が反応して、透明な盾を生み出し、人形兵の攻撃を防ぐ。
取って代わり、攻撃の隙を狙い刃が舞う。
王都の地下での戦いではそれだけで事は済んだ。
しかし…
「…どうかな?」
私の刃が人形兵に命中したところでシャピルの静止が入り、人形兵はあっという間に姿を消した。
殆ど一瞬で終わった一合の結果に、私は拳を開いて閉じ、己の魔力を確かめる。
『…その言いぶりからだと、人形が強いってわけではないのね?』
頷くシャピル。
強さに違いがあるのは私自身。
そして事前にカイルに問うた内容を踏まえればそれは魔力に対しての意味合いに間違いない。
「ここは王国の外だ。キミの力に差異を感じたのは理解できたと思うが?」
『…』
中を翔ける速さは先の船に相対した時に比べれば段違い。
その攻撃を否した時も私が明確に意識せずとも刃は盾を生み出していた。
そして何より王都の地下では容易に貫いていた刃も弾かれる始末。
更に加えればそもそも防御壁を形成、攻撃の意志を見せた刃も私の感覚より数が少なかった。
『王国の外では魔力が使えない?』
「使えないならばキミは空すら飛べないだろう?、だが着眼点は間違っていない。」
王国の外では魔力の循環が悪い。
カイルに比べれば私の力は大きく弱体化している事実は今目の当たりにした通りだ。
「王国の外、外の世界でキミはどうやって身を守る?、そして今消えるまでの猶予の時を待つ壁。どんな未来が待っているか考えられるかな?」
王国を包みこんでいた巨大な壁。
素養の無いものは見ることもできないが、それは才の無い者に影響がないわけではなく、見えずとも王国を護る壁であることに変わりはない。
それが消えるとしたら…。
『王国内の魔力も失われるの?』
「壁が消える事の結果に興味が沸かないとは言い切れないのだがね。残念ながら結果は不明だ。」
シャピルの言葉が事実として、王国から魔力が失われるとなれば、私だけの問題ではない。
多くの者に出る影響と、もっと酷な未来を考えればまた争いが生まれても不思議ではない。
更に言えば未だに多くの未知を持った外の世界から押し寄せるモノなど予想にもつかない。
『考えたくない事ばかりね…』
「キミの協力で僅かにでも猶予、もしくは回避の方法があるとしたらどうかな?」
人が選択肢に迫られた時、どれ程冷静にいられるか…私の体はその芯を震わせ、大きく心を揺さぶるのだった。
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立たされた選択の道。
己の身で全てが解決するならどれ程楽な事か。
次回もお楽しみに!