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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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396話 孤島の奥で

396話目投稿します。


到着は問題なく、しかし辿り着いた場所は魅力的であっても人の生きる場所ではない。

少なくとも今の段階では。

『船もだったけど不思議なところね。』

目的地、そう言われて窓の外を覗いた光景は寒空の下に荒れた海、そこに浮かぶように鎮座する、正に絶海の孤島といえる風景だった。

船を受け入れた港?と言うべきか、内部は外と打って変わって船内と然程変わらない見た目でここがシャピルの手によって造られた場所なのだと納得させた。

「鉄とは違う感じもするんだよな。」

横を歩くカイルが壁面を小突きながら呟く。

この船に遭遇して成り行きで船内に案内されこれまた成り行きで絶海の孤島にまで連れてこられたわけだが、その間で感じたのは私たちの日常からは考えられないような光景ばかり、特殊なのはそれらの材質だけの話ではない。

けれど私以上にそれに触れたカイルの意見も色んな謎に近付くための情報の一つであるのも間違いではない。

『人気がまったくないのも不思議よ。今までに貴方以外の人がここに来たことはあるの?』

私たちの少し前を進む背中に声を掛ける。

「人…そうだね、人としてここに足を踏み入れたのはキミたちが初めてだ。上の孤島で言えば遭難者くらいは居たかもしれんがね。」

天井を指差して振り向くこと無く金髪の男は返事をした。

声色が少し弾んで聞こえるのは初めての来客となった私たちが嬉しいのか、それとも私たちをここに連れてきた目的、それが達成出来るからだろうか?…はたまたそれは私が感じるだけで本人からすればいつも通りなのか。


「人が居ないのはともかく、例えば人が住むことって出来るのか?」

唐突なカイルの疑問。

『少なくとも外の光景見れば暮らしたいとは思わないわね。』

「いやまぁ、そりゃそうなんだが…」

「人が暮らす環境、確かに場所柄の広さはあるが…成程、キミもまた面白いことを考えるものだね。」

私と違ってカイルの意図に気付いた様子のシャピルは思わぬ疑問に驚いているようでもある。

『アンタは興味があるみたいね。』

「それが冒険者ってもんだろ?」

『確かに。』


こんな場所でもエディノームのように町を造る事が出来るのか?

自然という言葉が皆無とも言える建物。

普通に考えれば飢えて立ち行かない環境に襲われる事に違いないこの場所。

きっとそれは必要に迫られていない故に試されていない事だ。

シャピルの、ここの技術力があればそうした事も無理ではない。

改めて考えてみると成程、カイルの言いたいのはそういう事か。

『むぅ…』

言葉足らずは否めないが、カイルのクセに確かに面白い考えだ。

その知識と技術があれば王国以上の繁栄も無理な話ではない。

ただ一つ足りない事があるとすれば、シャピル自身は名を継ぐ者たちと違ってそこに興味を抱いていないところだ。

彼が私たちを通して興味を抱いてくれるかどうか…そんな考えが頭を過る。

『あ…』

そうか、私自身も攫われた状況でありながらも彼に興味を持っているのだ。

カイルが言うようにこれも冒険者の性だろうか?


冒険者、そう言われるような旅は西の地に海路を進んで以降は久しい気がする。

実際には西から戻った後も東へ、南へと行動はしていたものの、いずれも理由、目的があっての成行。

未開の地へといった類の旅ではない。

こと、今回の帰郷の前は王都の南で町作りに勤しんでいたのだ、冒険とは程遠い日々だった。

生憎と今回は自らの足で辿り着いたわけではないが、人の足が踏み入る事も少ないこの地はある意味では魅力的ではある。

多分、下船したあの巨大な船のように空を駆ければ私もカイルもこの土地に訪れることは不可能じゃない。

それを思い立つかどうかと言われれば多分後者、特別な理由でもない限りそんな機会は無い。


「言われてみれば植物を育てる機会は無かったな。」

言いながら何か手元を目まぐるしく動かす。

覗き込む目に映ったのはやはり見覚えのある操作盤。

魔導船に設置されていたソレよりも以前とある研究者が教えてくれたものに近い。

『何してるの?』

「キミたちに倣って農業というのも悪くないと思ってね。」

『何なら手伝うけれど?』

「それは不要だ。」

『あら、残念。』

「キミたちには別の事を手伝ってもらう予定だ、無駄に疲弊する必要もなかろう。」

気遣ってくれているわけでは無さそうだ。


「手伝うって何やればいいんだ?俺は難しい事は出来ないぜ?」

「キミの知識を宛にはしていないさ。」

嫌味か冗談か、真顔で言われると癪に障るところではあるが、当の本人は気にしていない様子だ。

『私も同じなのかしら?そっちのと一緒にされるのもちょっと嫌なのだけど。』

「あ、ひでぇな。」

私には苦情を入れるのは何故だ。

「どちらにせよ知識や経験より二人共に秀でているのはその肉体だよ。」

ピシャリと切り捨てるような言葉は結局のところ僅かな交流で緩むような目的ではない、と言う事の証明か…少々悔しい気持ちが胸に残る。


「こっちだ。来たまえ」


再び歩みを進める彼の背中を追い掛けるしか、今の私たちに出来ることはないようだ。



感想、要望、質問なんでも感謝します!


追う背中が止まる場所。

そこはまた見覚えの無くはない場所だった。


次回もお楽しみに!

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