37話 印象の差異
37話目投稿します。
近くで見るもの、遠くで見ていたもの、その違いは真逆の印象へと変わる事もあるのです。
今話、第三章の始まりです。
東の関を抜けた先に広がる景色は、遠くなるほど緑から茶へ、茶から黒味を帯びるように大地を彩っている。
やっと王都での新しい暮らしに慣れ始めたと思った矢先、済崩し的に始まってしまった新しい旅は今のところは順調と言えるだろう。
といっても、王都を出たのは昨日の事。
一日目は東の関付近に併設されている王国軍が管理している宿を利用し、日が明けた今日、関を越え街道を少し外れる形で南側へ進んで少しの辺りだろう。
「今日はどの辺りまで行くんだ?」
少し前を歩くカイルに近づき、叔父から渡された地図を見せる。
『関を抜けて今はこの辺り。んで今日は…えーと、そうだな。』
目に見える範囲の景色と、空模様、太陽の位置から今の時間を把握、街道を外れて進むとなると距離はある程度短くなるという事を踏まえて…
『地図通りで考えれば、あの丘を越えた先に河があるから、そこ渡った辺りで野営できそうなところを探す感じかなぁ?』
「そか。了解だ。」
スタットロード家本宅での話し合いから10日程経ったが、私はいまいち上がらない気分をどうしたものか、と考えながらも今はただ目的地に向かって足を進めている。
「では、今後の話をしようか。」
あの日、叔父のこの言葉を発端に、私とカイルは一足先にという事で東の領地に赴く事と相成り、今こうしてだだっ広い平原を歩いている。
領主会談。四方の領主と王が集い開かれた会合、そこでの最初の話題が現在の東領の状況。
活性化した火山活動を切っ掛けとして見舞われた災害。
その中でも一番問題視されている事が火竜の存在。
聞けば、叔父の口から率先して討伐に赴くという提案がなされたらしい。
(叔父には勝算でもあるのか…父と母は昔戦った事があるらしいけど…)
肩にかけた厚手の革紐の先にぶら下がっている鞄に目を落とし、指先でその淵をなぞる。
母から譲り受けた旅鞄と、腰には父から渡された石剣。
(そういえば結局まだ手紙出せてないな…)
せめて生活に慣れる時間が欲しかった。と不満を漏らしたいところではあるのだが…
少し前を歩くカイルの姿を見て、
(まぁ…事が事、というかシロの事もあるしなぁ…)
今は考えれば考える程に気持ちが沈むような気がする。
「どうしたんだい?フィル。もう疲れちまったのかい?」
後ろを歩いていた「もう一人の同行者」が声をかけてくる。
『エル姉。』
会談の結果、国全体を挙げての遠征軍、かつアイン=スタットロードを筆頭に王から下された任務という事である程度の人員は自由にできると言った状況で、一応心配されてはいるようで、「顔なじみの者をキミたちに付けるよ。」と前もって伝えられていた。
その「顔なじみ」というのがエルメリートこと、エル姉であった。
叔父が彼女を選んだ理由としては、私たちの顔なじみであるのは勿論だが、旅慣れていること、修道院に勤めているという点で癒しの力を保持していること、という辺りなのだそうだが。
「やーっと王都でのんびりできると思ってたんだがなぁ―。」
と若干面倒臭そうにエル姉は言う。
「お前らも来たばっかだろ?大変だなぁ。」
そして同情の意も付け加える。
『まぁね。でもエル姉も戻ってから忙しかったんじゃないの?』
「ん―…どうだろうな?確かに北の時より教会の規模はでかいからな。その分忙しかったってのはあるけどさ。やる事はほとんど変わりないからな。」
掃除、洗濯、形式上の礼拝、後は孤児の世話。
今まではあまり気にしてはいなかったが、この国の信仰はかなり緩く、「教会」といっても創世神を祭ってる程度でそれほど厳しい戒律もない。
比較的平和なここ数十年は、戦災より疫病によって生まれた孤児を受け入れる施設、組織と言った方が解りやすい。
事実、私がエル姉に抱く印象も、北のノザンリィで小さい子供たちに囲まれて、時に遊び、時に叱り、時にあやす。そんな光景がまだ記憶に新しい。
『王都の家族は元気だった?』
北方から王都への同行の理由の一つとして聞いていた事を思い出し私は問いかけたのだが、「ん?」と一瞬だがきょとんとした顔をするエル姉。
「あ、あぁ。元気は元気だったよ…。」
含みのある返事で返され、何となく違和感を感じるが、
「あ―…うん。まぁわざわざ言うほどの事でもなかったんだが、家族っても血は繋がってないのさ。」
曰く、彼女も実は孤児として教会で育ち、家族というのも同時期に教会に居た者たちで寄り集まって暮らしているという事だそうで、家自体も教会からほど近いためもあってこれといった特別感もないらしい。
「まぁ、孤児の中にも稀にだけど身分のある御方に引き取られていく者もいるが、あくまで稀だ。」
ある程度成長した孤児は、自立と共に教会を去る。
とは言ったものの、一人で暮らしていける者が多いわけではないという事で、つまりは彼女の言う「家族」、或いは「家」というのはそういった者たちの受け入れ先としての繋がりが大きいそうだ。
『すごい大家族?』
「ハハっ。」と笑い、確かにそうだな。と彼女は付け加えた。
「北の領主サマはさ、その辺の手続き?とか援助もしっかりしてくれててな。王都でも有名だぜ?。」
何というか、あの叔父、社会的にはすごく立派で誰しもから尊敬される人ではあるのだが…。
(まぁ…逆に私たちみたいな身近な者には遠慮無しなところも愛嬌、とでも言えばいいのかしら?)
けれど、ふと、私の頭に過る。
改めて、叔父の色んな取組や言動を考えると、そこに焦燥感のような物を感じてしまう。
不思議な事に、ノザンリィに暮らしていた頃、私が叔父に抱いていた印象は、「領主としての仕事を人任せに王都で研究に没頭している。」と多忙な印象はなかったのだが、実際に近い場所に居ると真逆。
『過労で倒れたりしなきゃいいんだけど。』
と自然と口から洩れる程には心配になる。
「…まぁ、そうだな。」
「おーい!二人ともーなにしてんだよー!早くしねぇと陽が暮れちまうってー!」
遠くから聞こえる声元に目を向けると、もう随分先に行ってしまったカイルの姿が見えた。
エル姉と話しているうちにいつの間にか距離が開いてしまったようだ。
「いこうぜ?」
私よりほんの少し早く走り始めたエル姉の背負った荷物の上でシロが欠伸をしている。
(シロ、そんなとこに居たの…)
今更ながらに四人(?)目の同行者がいたことを思い出した。
(呑気だなぁ…)
そう感じながら、私は肩にかけた革紐を抱えなおし、エル姉の後を追いかける。
『今いく―!』
確かにカイルの言う通り、平原を照らす太陽はその傾きを西の地平へと近づけていた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
済崩し的に始まる新たな旅、何が待ち受けているのでしょう?
次回もお楽しみに!




