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4話 優しさの芽

4話目の投稿となります。

昨日投稿したはずが、うまく出来てなかったようです(汗

次話から文字数増えるかも

ここ数日続いているどんよりとした空模様と反して町は祭りの準備宛らの様相で活気に満ちている。

その理由は専ら町で話題となっている「領主の帰還」によるものだ。


『お祭りみたいだね』と隣を歩く母に言うと

「腐っても領主だからね」と呆れたような返事。とは言ったものの、やはり母も嬉しいのか表情は明るい。

思い返してみると、前に領主が町に居たのは10年前、いや9年前程になるか?

幼かった私は、今と同じ町の活気に、何事かとワクワクしながら、やはり今同様に領主の館へと母の手を握っていた。

その思い出から、懐かしさを感じ、そっと母の手に触れる。

ピクリという母の手は優しく握り返してくれた。

「まだ小さかった貴女がもうこんなに大きくなってしまったのね。」

母も同じ事を思い出していたのか、「歳は取りたくないわねぇ」と苦笑交じりに付け足した。

『母、そいうのは体の衰えを感じる人がいうモノだよ。』


領主の館への道中さしかかった酒場の扉が開き、店主が顔を出した。

「あら、ダナト、今日は早いのね?」

と母が声をかけると、酒場の店主は声をかけたこちらに視線を向けると手を上げ答える。

「あぁ、アイナさんオハヨウ!こちとら急な話で昨日から大忙しだぜ。」

と肩をすくめながら準備を進める。

「ジョンはどうしてる?」と聞き返された母。

私は少しだけ足元に視線を落とし、目を閉じる。

『多分今狩りの真っ最中だね…イノシシ、かな?、お昼過ぎくらいには戻ると思うよ。』

ほう、と顎髭を弄りながら店主のダナトは思案する。

「…大鍋の用意だな。今日も冷えこみそうだから温かいヤツを用意しておくよ。」

宴のメインが決まった店主は、「じゃあな!」ともう一度手を上げ、店内へ戻った。


領館の手前にある花壇は相も変わらず綺麗に手入れされており、四季それぞれの花を楽しませてくれる。

私たちが差し掛かったところに、併設された農園から老婆が顔を出した。

「あら、今日はフィル嬢ちゃんも一緒に来たのね?、二人ともいらっしゃい。」

パっと見はただの農婦のような出立で声をかけてくる老婆、メアリはこの先の領館で勤め、暮らす老夫婦の片割れで、夫であるセルヴァンと同様に、領主から代理を仰せつかっているこの町の要人なのだが…

「こんな日なのに相変わらずね、メアリ。セルヴァンは館の方かしら?」と母が声をかける。

服についた土と雪を払いながら老婆は頷く。

「ひとまず領主さまご一行が休める場所の準備をしているわ。といってもまぁ、町のみんながアイナ様同様にお手伝いしてくれるから…多分今頃は書斎の整理でもしているのではないかしらね。」


手早く挨拶を終え、館に向かおうとした私に、老婆は思い出したように声をかけた。

「そうだ。お嬢ちゃんにちょっと見てもらいたいものがあるのだけれど。アイナ様、よろしいかしら?」

母と私は顔を見合わせ、母は私が背中に抱えた荷物を指さして肩代わりする。

領館へ向かう母に手を振り、老婆の後についていく。

「すまないね。今度農園を広げようと思ってたところなのだけど、どうにも草の生え方にバラつきがあってねぇ。ちょっと見てもらいたいんだけど、良いかしら?」

『うん。いいよ、おばあちゃんの畑、美味しいからお手伝いしたい。』

ふふっと笑いながら、老婆は呟く。

「私の畑で美味しい野菜が育つのは、私一人の力じゃないさ…アイナ様や町の皆が手伝ってくれる。」

農園を通り、拡張予定の場所へ

「ここはね、お嬢ちゃん。皆の優しさで育ってるのさ。」


『それでも、ね。やっぱり一番はお婆ちゃんとお爺ちゃんがいつも見ているからだよ。』

一度大きく目をパチくりとさせた老婆は、はにかむように笑う。

幼い子供のようにも見えるその笑顔に癒されるのはきっと、私がそんな暮らしを夢みているからだろうか?


きっと私は、この老婆のようには生きられない。

だが、と、ならばせめてと、私は、私のすべてを使って世界を満たせられれば、と思うのだった。




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