392話 行先
392話目投稿します。
私たちはどこに向かうべきなのか。
「彼女の様子はどうだったかな?」
「我ながら面倒な質問をするものだね。」
「データは共有されているが、私たちは会話によって昇華したのだ。」
「これからも変わらず続く事だ。今更の話でもあるまいよ。」
「彼女を取り巻く環境はどう動くだろうね?」
「予想通りではあるが、彼らは予想を超える可能性が高い。」
「想定レベルは現状のままで大丈夫なはずだが。」
「念の為強化しておくに越したことはなかろう。この場合は駄目押しとでもいうべきか。」
「そろそろ予定の時間だが期待通りの動きをしているかな?」
「問題ない。この時に有り得る想定の範囲で事は推移している。」
「もう一人の客人を招く準備は終わっているだろう?」
「全て予定通りだ。」
「人というものは楽しくも哀れ、とでも言うべきかな?」
「我々も本を正せば同じモノだったのだ。」
「根本はそう遠くない。」
「そうだな。予想通りに行くのもその蓄積が有るからこそだ。」
「想定範囲の再計算は完了している。」
「到着予想時間も予定通りに行きそうだな。」
「あちらの準備は問題ないはずだ。」
「天候に依るものだろうが共有に時間的な差異があるな?」
「範疇に含まれている。誤差は取るに足りない。」
「さあ船の軽量化を始めようか。」
フィルのように空を飛ぶ感覚はどんなものなのだろう?
同じ場所に立てる現状でも実際のところ移動に関してで言えば地上にいるのと大差ない。
足を動かして駆け抜ける。
地上の感触と違いはあっても体力の消耗にそれ程の差異はない。
要するに長距離走ればそれなりに疲れる。
普通に考えれば人の足で船に追いつくなんて事、海を漕ぐ船であってもそうそう出来ることじゃない。
オマケに今追っている船影は空の上だ。
ここからでも相当大きく見えるソレともなれば推力はかなり大きいはず。
速度を緩めればあっという間に置き去りだ。
ここまで追いつくにも相当急ぎ足だったが、まだまだ手の届くような距離ではない。
「厄介なのに巻き込まれやがって…」
膝に力を込めて、一層強く虚空を踏み抜く。
爪先から迸る稲光が背中から身体全体を前へ、前へと押し出す。
進め、走れ、手遅れにはまだ早い。
カクン、と頭が揺れて目が覚める。
『む…』
無機質な部屋の中、壁面に映し出された外の景色は決して良い天気とは言い難いし、窓ではない窓を介してのそれは温もりを室内に届けるわけでもない。
それでも寒い季節の冷たい空気を遮られた室内は心地よい温度。
睡眠不足の意識を飛ばすには十二分過ぎる。
『いかんいかん…流石に気が抜けすぎる。』
とはいえ、やる事も仕事も作業もない、暴れるには無謀、行き先も、それまでの時間も不明。
呼べば反応はあるとして何をすればいい?
目線を外に向けたが、物珍しい北海といえど拡がるのは荒々しい白波と、そこに吹いているであろう冷たい風を想像する程度の事しか出来ない。
強いて言うなら遠くに漂う雲の合間に光る紫電が暗雲を引き連れてこちらに迫っているようにも見えて、この船の航行を心配する程度。
『まぁ…天気が悪くて墜落なんてのは有り得ないよ。』
ぼぅっと外を眺めるうちに、私はまた睡魔と戦い、勝ち筋が見えない争いを諦めて目を伏せた。
「俺が知ってる顔と違う…な?」
「どうしてそう思うね?」
「熱がない。」
「言い得て妙だね。正解だと言っておこう。守護者の魂を継ぐ者よ。」
「守護者?」
「キミが師とした存在は本来なら人の世に関わる類ではないのだよ。キミがここに辿り着いたように空を駆け世界を安定に導く存在であったはずなのだよ。」
「ふーん…良くわかんねぇけど?」
とりあえず聞きたいことは一つだ。
「俺の護衛対象がここに居ないか?」
「フィル嬢ならこの船に居る。間違いなくこの船の中にね。今は眠りについているよ。」
「アンタが何かしたのか?」
「どちらとも言えないが、少なくとも安らかではあるね。」
「大人しく引き渡すつもりはあるか?」
「キミは彼女をどうしたい?」
「何もしないさ。アイツの願いを一つでも多く叶える。その為に俺は居るんだ。」
「ならばキミも一緒に来ればいい。」
予想外の提案だった。
多分この船は王国の外に向かっている。
その先に何があるのか、興味がないと言えばそれは嘘だ。
「いや…まさかな…」
「当たらずも遠からずだよ。キミも彼女も冒険者なのだろう?」
確かにそうだけど、もしそうだとして、今この時に俺たちが居なくなったとしたら、皆はどうなる?
どんな行動を取る?
今の俺と同じ様に助ける為の動きをする。
「…穏便にって出来なかったのか?」
「キミたち人間には思惑というものがあるだろう?、生憎と私にはそんなものはない。」
目の前の男。
既にこの場所自体が普通ではない事を踏まえれば、その容姿がどうであれ、俺がやるべき事はあまり違わない。
男の口振りからすると、フィルにも何か思うところがあったのかもしれない。
「…アイツと話がしたい。」
「この場で一先ずその剣を納めるつもりがあるなら可能だろうね。」
フィルと話をする前だが一つだけ分かった。
この男は厄介で、こちらの選ぶ手段がそれ程多くない事も分かっている。
「見透かされているようで嫌な感じだ。」
「良く言われる。」
『ん…』
「いつまで寝てる気だ。」
微睡みの中で声を聞いた。
聞き覚えのある馴染みの声だ。
ノザンリィに暮らしていた頃は声の主もそれ程早起きではなかったはずだが、今までの旅で彼が得た事の一つ、早寝早起きという健康的な習慣。
元々真面目なところはあったが、今ではそれに磨きがかかったといったところか?
『もう少し…』
枕元に腰を下ろしている彼の口から盛大な溜息を聞いた。
「いいから起きろ!この馬鹿!」
『わひゃ!?』
感想、要望、質問なんでも感謝します!
どんな場所でも2人が共にあればそれでいい。
次回もお楽しみに!